5. お忍び姫様(12月24日20時)

 レベル百万!?


 聞き間違えか!?


 僕は慌ててステータスを開く


――――――


 ニコラス・クリストファー

 スキル:《チート・シングル》

 レベル:1,000,000 / 10,000,000


――――――


「まじかよ……」


「どうかされました――レベル百万!? どういうことですの?」


 覗き込んできたマリーが驚きの声をあげる。


「ほう、レベルは通常十が上限だというのに、百万か。面白い男だ」


 騎士団長の言う通り、スキルのレベルは十である。

 と言っても、厳しい訓練をしないと十までレベルを上げるのすら困難であり、大抵の人はレベル五か六がいいところだ。


 僕はギルドの合間に少しずつ訓練をして、やっとのことで十まで上げた。

 朝六時から夜二十四時まで働かされていたが、それでもしんどいのを我慢して訓練していたのには理由がある。


 大抵の場合はスキルレベルが上がると、新しい魔法が使えるようになるからだ。


 ……結局、最後まで新しい魔法に目覚めることはなかったが。


 ん、待てよ……?


 レベルが百万も上がったんだ、何か新しい魔法が使えるようになっているかもしれない。


 ……もしかしたら、強力な魔法が使えるようになっているかもしれない。


 期待に胸を膨らませ、ステータス画面の下の方を見る。


――――――


 使える魔法

 ・攻撃力上昇

 (パーティーを組んでいない時に限り、攻撃力がわずかに上がる)

 ・回復

 (パーティーを組んでいない時に限り、自分または誰かをわずかに回復する)


――――――


 「……回復、だけか」


 回復。

 《魔術師》でレベル2に覚えるスキルだ。

 回復の魔法なら、そこら辺の子供でも使えるだろう。


「回復魔法が使えるようになったんですね! それは素晴らしいことですわ! 私が傷ついたら、ニコラスに癒してもらえるなんて! どんな方法で癒してもらえるのかしら! ま、ままま、まさか人口呼……」


 最後に何を言ったかは聞えなかったが、マリーはなぜかご機嫌の様子。


「回復、か。ありふれた魔法ではあるが、ニコラス殿ならきっと使いこなしてみせるだろう」


 騎士団長もなぜじゃ期待をしているようだった。


 きっと二人とも、大した魔法が使えるようにならなかった僕を励ましてくれているのだろう。


 ……マリーにも騎士団長にも、気を遣わせてしまったな。


 ここは、僕が元気に行かないと!


「そうですよ! 僕ならきっと使いこなしてみせます!」


 空元気でも、ないよりかはマシだろう。


「ねえセイバー、私ニコラスとご飯食べに行ってもいいかしら」


 ん?

 マリーさん?

 今何と?


「父上には、ご飯はいらないと言っておいて!」


 あの、マリーさん?

 一応皇女殿下ですよね!?


「マリー皇女、またそんなワガママを……と言いたいところですが、私が言っても無駄でしょうね。ニコラス殿、私も護衛に着きますので、安心するがよい。おい、私はマリー皇女の護衛に出る。マリー皇女のお忍びの服を用意してくれ。あとこの旨を皇帝陛下に伝達頼む」


 騎士団の人も、慣れっこといった顔つきだ。


「マリー皇女は今まで何度もお忍びで城下に遊びに行かれているのです。……もちろん、公にはなっていないが、これもマリー皇女のお気を紛らわせるためだ。楽しめるうちに楽しませてやりたい。協力してくれるか? これがお前の護衛任務の初陣」


 初の護衛任務が、皇女様と食事に行くこと?


 いや、嬉しいけど!

 嬉しいけれども!


「ニコラス、ちょっと待っててね、着替えてくるから!」


 ……あー、これはもう行く流れなんですね。


「わ、分かりました。最初の護衛任務、慎んでお受けします」


 ……よし、よく分からないが、初の護衛任務だ。

 張り切って――


「ねぇ、ニコラス……そ、その、ふふふ、服を、きき、着替えるのを、て、手伝ってくれませんか?」


 思わずずっこけそうになった。


 い、今なんと!?


「ほう、マリー皇女も、ああ見えて意外と大胆なところがあるのですね。感心します」


 ちょっと騎士団長さん!?


 感心してないで止めて!?


「ぷっ……あはははは! ニコラス顔真っ赤じゃない! 冗談よ冗談! なんかちょっと落ち込んでそうだったから、励ましただけよ」


 そうか、さっきの回復のこと!


 ……そっか、マリーなりの優しさだったんだな


「ありがとう、マリー」


「ひゃっ! べ、別によろしくてよ!? ち、ちょっとお待ちくださいね」


 マリーはそう言い残すと、騎士団の人が用意したテントに逃げるように入っていった。


「べ、別に、じょうだ……なんかじゃ……」


 何か聞こえる気がするが、たぶん気のせいだろう。


「ニコラス殿は警備の予定を説明する。私と一緒に来てくれ」


 騎士団長に促され、僕は騎士団長と別のテントに向かう。


「それでは、早速警備の予定を説明するが――」


「ちちち、ちょっと待ってください!」


 どうかしたか、と問う騎士団長は、上半身が下着姿になっていた。


 何がとは言わないが、デカい。


 非常に、デカい。


 あの鎧の下に、そんなサイズのものが入るのか!?


 ――って、そうじゃなくて!


「なな、なんで服を脱いでるんですか!」


「なぜ、と問われても、城下に行くのだ、私が鎧ではお忍びにならんだろう。私も軽装に着替える。それの何に問題がある?」


 いや。

 問題はない。

 確かに問題はない。


 そうだよな、姫様のお忍びのご飯なんだからな、騎士団長も軽装にならなきゃないけないからな!


 ただ……


「なんで男の僕がいるとこで着替えるんですか!?」


「なぜ、と問われても、私は剣の道にこの身を捧げた。殿方が好きなか弱い女ではない。そんな女の下着姿など、誰が好むというのだ!」


 いや、騎士団長さんは剣も強いのかもしれないけど!


 その胸にあるメロンも十分武器だよ!


 健全な男子にとっては立派な凶器だよ!


「ととと、とにかく、僕は後ろ向いてますから!」


「そうか、まあ、好きにするといい」


 ……しゅるしゅる。


 ……パサッ。


 ……しゅるしゅる。


 ……パサッ。


 あーもう!

衣擦れの音で集中できない!


「ち、ちょっと僕は外に出ていますから、中から話してください!」


「何を焦っているのかは知らんが、それはダメだ。護衛に関することは機密事項だ。外部に漏れるかもしれない声で話すわけにはいかない。それに時間もない。許されよ」


 ……結局、僕はその話を二、三回聞かないと、話が頭に入って来なかった。

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