第6話 レイト兄の憎悪
「あいつがいなければ、今頃俺がお姫様と仲良くなっていたのに‥‥‥、そして将来は約束されたものだったのに」
激昂した表情で、お姫様とアスカが学校で話す姿を後ろから睨みつける少年がいた。
アロガンス家の嫡男、レイト兄、僕の腹違いの兄である。
エリナ姫に嘘を暴かれたアロガンス家は、表立った懲罰はなかったものの、姫様と諍いがあったと周りに知れ渡り、周りの人間が次第に離れていき、前ほどの繁栄はすでに失われていた。
ただ、魔導士は数が少なく、その家系は王国にとって重要であるため、家は取り壊されていなかった。
しかし、その余波は、レイト兄にも及んでいて、前までならば仲良くしていた友達も離れていき、家に帰れば機嫌の悪いお父様やお母様に怒鳴られて怒られる日々であった。
レイト兄は毎日自分の人生を憎んでいた。そして、これらを引き起こした僕に憎悪を向けていた。
「いつか見てろよ。お前の人生をめちゃくちゃにしてやる‥‥‥」
レイト兄はそう心に誓いながら僕を影から睨んでいた。
「レイト何を突っ立ているんだ」
不意にレイト兄の後ろからお父様が声をかけた。
「お父様お早いご到着で」
そう、今日は王立初等部の授業参観日である。
「それはそうとも、第一王子がいらっしゃるんだ、みんな王子が来る前に到着しなければならんからな」
この学校には、第一王子のご息女、つまりエリナ姫がいる。
だから、今日は王子のシルベウスも来るわけである。
授業開始5分前に、大勢の護衛を連れた王子が教室に到着した。
王子が入室する前に、父母やクラスメイト全員が身体検査を受けた。
そんな厳戒態勢の中、授業は粛々と行われた。
教師は、エリナ姫に見せ場を作ろうと積極的にエリナ姫に回答させようとした。
エリナ姫はいつもどうり持ち前の頭脳で、端的に答えていき、正解するたびに、周りの父母から歓声が上がった。
ただ、エリナ姫は気まずそうであった。
授業が終わると、父母は子どもの側に行き、一言二言会話を交わしていた。
王子も例外ではなく、姫様のところに行き、授業での活躍を褒めていた。
ユリナ姫の嬉しそうな顔を横目に見ていると、王子が僕の方を一瞥し、そして近づいてきた。
「君が、アスカ・ニベリウムかい?」
「はいそうです。シルベウス様、お初にお目にかかります。お姫様のご好意で一緒に生活させていただいております」
「話は娘から聞いているよ。大変な人生だったそうじゃないか。私の別宅でよければ自由に使ってくれ。君ならばそれくらいの資格はあるだろう」
予想していたより、数倍優しい人であった。
少なくとも僕はそう感じた。
「だけど、くれぐれも自分の立場だけはわきまえてくださいよ。ユリナは一国の姫ですからね。つまり、護ることはしても、間違っても恋仲にはならないでくださいよ」
いきなり釘を刺された。
しかもクリティカルヒットな釘を。
「あ、それはもちろんですよ。シルベウス様。私は一介の王国民ですから、そんな大それたことは‥‥‥」
「わかっているならそれでいいのだ」
そう言うと、王子は教室から出て行き、公務に戻って行った。
放課後、僕はエリナ様と約束の場所に向かっていた。
しかし、違和感がある。
エリナ様が終始、不機嫌そうなのである。
なぜ、エリナ様は不機嫌なのだろう、必死に考えてみたが思い当たるところがない。
仕方がない、本人に聞いてみよう。
「ユリナ様、先ほどから一言もお話になりませんが、どうされたのですか?」
「なんでもないわよ」
いや、これはなんでもある感じである。
ユリナ様は僕の顔をチラリともみず歩き続ける。
「エリナ様、僕が失礼なことをしていたならば、謝りますので、教えてください。何が原因なのか」
「アスカ、本当にわからないの? さっきお父様がアスカに話していたじゃない。間違いは犯さないようにって‥‥‥その時、アスカは何て言ったか覚えてないの?」
「え?一介の王国民だからそんな大それたことはしないと申し上げましたが」
「随分と弱気じゃないの、私への気持ちってそれくらいなのね」
なるほどなるほど、あの時ちゃんと「お嬢さんは私が死ぬまで護ります」的なことを言えばよかったわけか。
納得はしたが、あの時そんなことを言っていれば、大問題であっただろう。
そんなことは、エリナ様ならば分かりきったことなのに。
「エリナ様、あの時はあれがベストアンサーですよ。もし、私たちのことがバレたら、二度と会えないかもしれませんよ」
「それは分かってるわよ。だけれども、アスカの口から聞きたいわ‥‥‥」
思いがけないことを言われ、僕は言葉に詰まる。
そして、2人は静かにサニーの丘に向かった。
サニーの丘に着くと、ちょうど夕日が沈む直前であった。
2人は丘の上に座り、夕日を静かに眺める。
「綺麗だね、アスカ」
「ほんとですね、エリナ様のように綺麗です」
「もう、何言ってるのよ。思ってもないくせに」
「そんなことないですよ。僕はいつも思っています。いつまでも姫様と一緒にいたいなって」
「‥‥‥」
エリナ様は紅潮して、何も答えなかった。
2人はバレないようにゆっくりとこっそりと手を繋ぐ。
「アスカ、とうとう手を繋いでしまいましたね。こんなとこ見られたら、一大事ですよ。だけど、このまま、もし本当に、一生一緒にいることができれば、すごい幸せだね」
「そうですね、エリナ様、そう‥‥‥なれば、良い‥‥‥」
手を繋いだ時、エリナ様から僕に魔導が少し流れてくるのを感じた。
そのエリナ様の魔導が、僕の魔導と混ざり合った時、脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまった。
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