第41話 罠・ルート

 サバゲー集団に第二ダンジョン出入り口を封鎖された。

 岡崎輝が思い描いていた理想は、誰もが好きに挑戦できる場所を提供し、多くの人を集め魅了させること。

 なのに流動を止められてしまっては一般層が気軽に近づけなくなってしまう。

 焦った彼女は実力行使で撤去させようとしたのだが、撤去費用が思いの外高く、カッとなった頭が冷めていった。


「武力を見せるのが一番効率的じゃが、この場合忠告するだけでも効果あると思うぞ。それにダンジョンに入ると考えも変わるかもしれん。なにせ無力なのだからな」


 隣で見ていたダンジョンでパートナーであり輝の家にホームステイしている敷童幸恵が言った。


「そ、そうだね。ちょっと様子見てもいいかも。冷静にならなきゃ」

「うむ」


 室内にいる四人はダンジョン内部を映し出しているモニターを注視した。

 そこには剣道防具に身を包んだ集団が映し出されていた。



 ☆



 暗い洞窟内を進むと曲がり角があり、先には一直線の道、奥に光源があった。


「バイクのやつらはあそこで何かあったに違いない。気を引き締めろ」


 剣道リーダーがメンバーに声をかける。ゴクリ、とツバを飲む音が聞こえたが、それが自分なのかメンバーからなのか分からなかった。

 なるべく静かにしながら道半ばまで歩く。すると機械が起動した音が聞こえたかと思うと地面が割れ、剣道集団は落下してしまうのだった。


「落とし穴だとおおお!!!? うわああああああぁぁ!!!!」


 こんなことで死んでしまうのか。剣道リーダーはトラップの定番を踏んでしまった不運を悔やんだ。

 幼い頃から家宝の刀に憧れ、親の目を盗んでは鞘から抜いて、眺め、振った。

 刀に見合う身体作りを勉強し、親が経営する道場ではいっぱい負けて、経験と努力で誰もが認める強者に育った。剣道と居合、共に高段位を取得していくなか、刀を振るっていた時代に生まれていたらどれほどだったのかと妄想するように。そんな時代は自分が生きている百年、絶対にこないと、来てはいけないと、平和が一番だと思っていたが。まさかモンスターというとんでもないモノが出現するなんて誰が予想できたか。

 剣道リーダーはダンジョンの話を聞いた時声に出して興奮した。だがすぐに絶望した。

 まあ当然だが、沖縄のダンジョンは政府によって厳重に封鎖されてしまい、一般人の立ち入りは不可能に。インターネット掲示板には悲報を綴るスレッドが乱立した。

 そんなある日、小説投稿サイトで暗号文が投稿された。

 解明された内容には第二ダンジョンの出現場所と条件が書かれており騒がせたのだが、模造犯が出現したため疑心暗鬼となった。

 だが剣道リーダーは己の直感を信じた。バカだと言われたが仲間を集め指定場所に向かい、結果本物と巡り会えたのだ。


(運を使い切ったか)


 絶望の浮遊感を味わう剣道集団。待ち受けるは身体を貫く針だろう。

 つまらない死が訪れる――と待ち構えたのだが、身に迫ってきたのは無数の触手だった。


「――ッッ!?」


 ミミズに丸呑みにされた中にも大量のミミズがいて、流れに従って群れを突っ切っていった感覚を味わう彼ら。ぬめりが全身を舐め回し着ていた衣服などを剥がされていく。

 一瞬のことだった。気づいた頃には地面に倒れており、全員見知らぬ黒いラバースーツを着ていた。


「う……く……。なんだってんだほんと。全部なくなった変わりに変なもの着せられてやがる。みんなは――五人全員いるな。意識もあるようだ。それだけは良かった」


 剣道リーダーは自分の大切な刀を失ったと知りショックを受けたが、それでも仲間を気にかけた。


「オーイ! おめーらも落ちてきた奴らかよ」


 頭を振る彼らに喧嘩口調の声が届く。剣道集団が目を向けると同じラバースーツを着たトサカ頭の男がいた。


「お前は……バイクに乗ってた奴らの一人か」

「チッああそうだよ。なんか文句あっかよ! こちとらぁ愛車取られてむしゃくしゃしてんだよ。やったんぞコラァ!」

「こっちも仲間が危険な目にあったんだ。その償いはしてもらわなくてはならない」


 売り言葉に買い言葉。喧嘩の雰囲気が漂い、剣道リーダーはぬっと立ち上がった。


(で、でけえッ)


 ガッチリと引き締まった筋肉質な身体はまるで岩のよう。世紀末ヤンキーは見ただけでチカラの差を察してしまい一歩引いてしまったが、顔は負けじと睨みを効かせた。


「おいおいおいおいおい! なぁあにやってんだおらこらぼけこら!」


 二人の間に割って入る者が現れた。


「リーダー! こいつらも落ちてきたみたいっス! 生意気だったんでボコしてやるところっス!」


 世紀末ヤンキーが説明する。どうやらこいつらのリーダーらしい。

 スキンヘッドにイレズミを入れ深い切り傷が目立つごつい顔が印象的な男。

 小物とは格が違う機嫌を損ねたら何をするか分からない“本物”のヤバいオーラを身にまとっていた。


(くッ武器がない俺には分が悪そうだ)


 いくら剣の道で鍛えてきたとしても、拳を使っての喧嘩はド素人なため最悪が脳裏をよぎる。


(全員で行けばなんとかなるか? いや、あいつらの仲間もすぐに集まってくるだろう。穏便に済ますのが得策か)


 剣道リーダーがさて、どうするかと考えていた矢先、世紀末リーダーが


「お前らの中で頭の良いやついるかよ」


 と言った。聞き間違いかと思った剣道リーダーは


「喧嘩の強いやつ、の間違いじゃなくてか?」


 と聞き返すと「あ? 生意気だなてめぇ、ボコスぞごらぁ」と不機嫌になったが

「とりあえずついてこい」と言い踵を返した。


(罠か?)


 落とされたばかりの剣道集団は警戒した。だが先に進むしかない状況なので距離を開けながらついていくことにした。

 落ちた場所から次の部屋に行くと看板らしきものが立てられていて、世紀末リーダーが指をさして命令口調で言った。


「これを読んで俺たちに説明しろ」


 重要な内容と判断したのだろう。そこにはラバースーツの絵が書かれていた。

 剣道リーダーは少し読むと仲間たちにも必要な情報と判断し、世紀末集団に命令されるのは癪だが、口に出して読むことにした。


「レベリングパワードスーツについて」

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