第39話 ダンジョン突撃チーム
疑心暗鬼から確信に変わった瞬間、集まった者達は一斉に動き出した。
バックパックから武器や防具を取り出し装着していく者。車に走り準備する者。動画サイトで生放送を実況してる者。蜘蛛の子を散らしたように広がった。
その中で最初にダンジョンに足を踏み入れたのは、準備万全だった剣道防具に身を包んだ集団だ。
「我が家に代々伝わる真剣がついに血を吸う日がきた! 今まで藁しか斬ってなかったから寂しかっただろぅ? たっぷりと吸うがいい!」
「いいですねえ! 俺のは模擬刀ですが、木刀よりは活躍できますよ!」
「期待してるぜ! よし、構えて身長に進むぞ!」
「おおー!!」
出入り口で気合を入れる剣道集団。面に着けたライトを点灯させついにダンジョン内部に入ろうとしたとき、
「オラオラオラオラアア邪魔だああ!!! 轢かれたくなければどけえ!!」
と、爆音を奏でながらトゲが付いた改造バイクで突っ込んでくる世紀末集団。
悲鳴と怒号が上がるも、世紀末集団は聞く耳を持たず、金属バットを振り回し、傷つけながら掻き分けていった。
「な、なんて奴らだ。洞窟にバイクで入るバカがいるなんてイカれてやがる……。みんな大丈夫か!?」
「うう、な、なんとか。面が無ければ死んでいた」
剣道集団は安否を確かめあった。すると先に進んだ世紀末集団から叫び声が上がり、洞窟の中に反響していたバイクの音が聞こえなくなった。
「な、なんだ? 事故ったのか?」
「いや、そんな音はしなかった気がするが」
得体のしれない何かが確実に待ち受けている。剣道集団は固唾を呑み暗闇の奥を見つめた。
すると今度は車がクラクションを鳴らしながらダンジョン出入り口に突っ込んできた。
車はキレイにターンをするとケツを出入り口に向け停車する。
続けてワンボックスカーや軽トラ、キャンピングカーも横付けしていき、出入り口は
完全に封鎖されてしまった。
手慣れた行動にショーを見せられた気分だったが、轢かれそうになった人たちは石を掴み怒りをぶつけた。
ガンガンと車体にぶつかる。
このまま悪化するかと思ったが、車内から出てきた者たちを見て、石を投げていた人たちは驚き手を上げた。
迷彩服にボディーアーマー、ヘルメットを被りライフルを構え出てこられたらぐうの音しかでない。
しかしこの日本では効果が薄く、また迷彩柄がバラバラだったのが致命的だった。
「ぷ、ぷはははは! ただのサバゲー野郎どもじゃねえか! そんなおもちゃが脅しに使えるかよ」
「おいおいデブがいるぞ。本職にデブな奴いる? いねぇよなあ!?」
「あれあれぇ? 手が震えてるやつもいるぞ。怖いなら家に引きこもってろ―」
ドッと笑いが起きる。バカにされた対象はさらに震え、銃のセーフティロックに手をかけた。
そんな彼を、最後に車から出てきた見るからにリーダーっぽいベレー帽の男性が止める。
そして前に出ると、足に装着していたハンドガンを素早く手に取り、煽っていた男性に向け発砲した。
「あッ!? ほ、ほんもの!?」
男性は肩に熱を感じ、手で触ると血がべっとりとつき、遅れて痛みが走った。
「うわああ!! 撃ちやがった!」
悲鳴が上がる。そんな彼らを尻目にベレー帽の男性は言う。
「たしかに我々は普段サバゲーを楽しんでいる。が、それは日本ルールに則っての話だ。我々は海外で販売されているエアガンを輸入し、不正改造を施し、鉄の玉を撃てるようにした。近距離であれば本物と引けを取らない威力が出るのは体験した通りだ。ここは我々が占拠した。そいつと同じ目にあいたくなければ我々の指示に従え」
「むちゃくちゃだ! 警察呼ぶぞ!」
「構わん。我々も救援を要請している。それによく考えることだ。我々がダンジョンに立てこもることにより、モンスタースタンピードの期限が刻々と迫ることになる。
お前たちが警察を呼び我々の邪魔をすれば、沖縄同様街が滅ぶのだ。それでいいんだな?」
「うう……」
半年前、日本最南端沖縄県で“常識が壊れた日”と呼ばれる大災害が起きた。
太陽の陽を遮る雲ひとつない晴れた日のことだった。
自衛官の妻が土地を散策中見覚えのない洞窟を発見。夫に相談したところ調べてみると言い仲間を集め洞窟へ。内部に侵入すると得体のしれない何かから暴行を受け負傷。一時撤退。
警察に相談すると諸々の事情が絡み合い、警察と自衛隊が出動することに。
自衛隊が先導調査を行い明るみになっていく洞窟の正体にざわめいた。
すぐに
情報が確かなものになると国会で発表された。
世界中で混乱が起きる最中、事前にアメリカに連絡を入れていた日本は、共同防衛の条約に基づき米軍を現地に招待した。
未知の生物に対する特殊部隊が組まれ内部調査をすること数日。突如獣の咆哮が鳴り響くと洞窟深部から火柱が駆け巡り調査中の隊員は全滅。その合図をきっかけに、洞窟から緑色の外見をした小柄で醜悪な生物“ゴブリン”、大型犬サイズの“ウルフ”、豚を二足歩行にした“オーク”、空を飛び火を吐く“レッドドラゴン”、地を這い尾で薙ぎ払う“グリーンドラゴン”が一斉に湧き飛び出した。
洞窟周囲に作られたキャンプは抵抗するも虚しく崩壊。モンスターは近くの街になだれ込み破壊の限りを尽くした。日米は緊急スクランブルを発令。
なんとか制圧に成功するも痛ましい結果となり、全人類の脳に焼き付いた。
「よし、分かったのならさっさと並べ。持ってきた物はチェックするから自分の前に出せ」
「くそッあー! 分かったよ。だがこの人を治療させてくれ。俺は医療関係者だ。道具も使わせてもらうがいいよな?」
「……好きにしろ。他のやつらも職業を聞くからな」
この状況を洞窟内の剣道集団は息を呑んで黙って見ていた。
(俺の常識が追いつかねえ。ぶっ飛んだやつらが多すぎるだろ。だがみんなには悪いが、装備を取られなかった俺たちは幸運なのかもしれない。今のうちにさっさと離れたほうが賢明か)
剣道集団は顔を見合わせダンジョンの奥に消えていくのだった。
さらにこの状況を見ていたダンジョンマスターの岡崎輝は、予想外な出来事に唖然としていた。
「どどどどどどうしようっ。ひどいよ! 私のダンジョンが占領されちゃった! 普通に入ってきてくれると思っていたのに!」
涙目で訴える輝。
「利権争いはいつも醜いね。だがこうでもしないと大きな利益を得られないからな。いや~面白いものを見せてもらった」
このダンジョンでは傍観者を決めている時渡封元が言う。招待客のミスターPは言葉を発さないが大きなため息と雰囲気から落胆が伺える。
「私は面白くないですッ」
「ならどうする?」
時渡は口端を吊り上げ問う。彼女はうーんと唸ると、
「車を撤去するにはいくらかかりますか」
と聞いた。
「そうだな。100万円といったところだ」
「100万!? 高すぎる! それならモンスターを使ったほうが安上がりじゃない」
力持ちのモンスターを作成して出入り口を掃除してしまえば確かに安上がりだった。
しかし一匹ではどうにもできないため数が必要で、それをモンスタースタンピードと言わなくもないとすれば約束を反故したことにもなる。
輝は自分の所持金を見つめ深く悩んだ。
彼女はこのダンジョンを作成する際、時渡から渡された運転資金を多く使っており、その金額にストレスを感じ夢にうなされるようになっていたのだ。
(働くって怖いよぉ)
輝が嗜む小説にもダンジョンを作る話はいくつもあったが、実際に自分が境遇に立たされると現実の厳しさに即決を躊躇うのだった。
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