第24話 友達がきたよ
飯屋満塁ホームラン。俺の両親が営業していたんだが、交通事故で他界。修行を切り上げて引き継いだ店だ。
繁華街の中心から少し離れた場所で営んでいる、中華料理が多めの店舗建住宅の飯屋。
周りに有名チェーン店やおしゃれな店が乱立していったため、時代に取り残された感が否めない。
3人家族構成で息子をなんとか大学に入れてあげたいと思っているが、厳しい現実が
夢を見るなと忠告してくる。
ボリュームがそこそこあるのが売りで、それ目当てな客でなんとかやっていけている日々だ。
とある夜。まばらな客入りで暇になり新聞を読んでいると、客数と合わない量の注文が入った。席を見ると身なりの良い中年男性だった。
食い逃げか持ち帰りか、冷やかしで残していったらタダじゃおかねえと内心怒りに湧いていたが、そんなのは
大食いファイター恐るべし。
それからというもの、この店を気に入ってくれたのか、ちょくちょく来店してくれるようになった。
その都度食べる量も増えていき、売上が伸びてかあちゃんは涙を流して喜んだ。俺もつられて涙ぐんじまったよ。
あとで知ったが本を書く先生だって? カーッすごいね! すぐにファンになっちまったよ。なに? 先生から電話だぁ? よーし、今日も俺の中華鍋が火を吹くぜ!
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「いらっしゃいませえええ!」
入り口をスライドさせると店主が気合の入った声で出迎えてくれた。
フ、いつになく元気だな店主。厨房から食材を焼く音が聞こえる。奏でるリズムと匂いからチャーハンを作っているんだろうと想像。急に天津チャーハンを食べたくなりさらに腹が空いた。とろりとかぶさった卵が宝石のようで楽しませてくれて、味も裏切りようのない黄金コンビ! 大好物すぎる。
「どうもぉ先生! あら~さっちゃんもいらっしゃい! 今日もかわいいね~~。
ささ、いつもの席へどうぞ!」
ふくよかなおかみさんの案内で私達は一番奥の席に座る。
「今日はかなりお腹が減りました。いつも以上でお願いします」
「ずいぶんお疲れのようじゃないかい。じゃんじゃん持ってくるからたーんと召し上がっておくれ!」
おかみさんは注文を受けると厨房に戻り、あらかじめ作っておいた料理をテーブルに
並べだした。
待っている間テレビに目を向けると、ニュースのテロップに“集団寒気? SNS上で大混乱! 憶測に騙されないように注意しよう!”と書かれており、コメンテーターたちが意見を述べていた。
「やはりこの時代の情報伝達力は速いね。お! この人ウケを狙って発言して笑われてるけど実は正解なんだよな。まあ無理もないね」
「本当のことを言ったところで、狂人扱いになるのは目に見えておるからのぉ」
「そうだね。よし、じゃあ食べようか!」
「「いただきます」」
手を合わせ祈りを捧げる。最近は人差し指と中指の間に箸を挟んで祈るのが自分流だ。
すぐに箸を持ちかえて皿に伸ばす。
私は魔力補給のために。さっちゃんは変身能力のために人より何倍も多くの食料摂取をしなくてはならない。特に今日は魔力を消費しすぎてしまった。さっちゃんには悪いがガッツリ取らせてもらうぞ! ここからは戦争だ!
テーブルの上で箸が飛び交い、用意された料理はあっという間に姿を消した。しかし店側も想定しており、タイミングよくおかみさんが補充しに料理を運んでくる。
「うまいうまい!」
このテーブルには店のメニューに載っていない品がどんどん出てくる。それもそうで、調理に時間をかけていたら間に合わないからだ。栄養バランスも狂っている。だがそれでいい。食べて食べて食べ尽くす。暴食の限りをやり尽くすのだ!
だがやはり二人になってしまっては追いつかないときもあるわけで。箸休めで会話をしている。
「そういえば少し前に便利屋のオヤジのところに友達宛の手紙を出したのじゃ。もし受け取っていたら訪ねてくるかもしれん」
「ほう。さっちゃんの友達というと百々目鬼の話をした子かい?」
「そうじゃ。幅広い知識を持っておる。もしかしたら呪いについて詳しく知っておるかもしれんの」
「だと助かるね」
さっちゃんの友達というからにはその子も妖怪なのは間違いない。
私が言うのも変だが、さっちゃんを知るまで妖怪はおとぎ話と思っていた。日本にはすでにファンタジーがあった。この事実に驚いた。しかし普段は人に見つからない加護が働いているようで、表に出てくることはないらしい。
そうなると謎なのはさっちゃんだ。どうして私の前に現れたのか。しかもキメラになって……。
本人に聞いてみたが覚えていないとのことだったので、
「会えるといいね」
「うむ! こまっちゃんのことだからすでに向かってきてるかもしれんの」
さっちゃんはとてもにこやかに友達のことを話す。
本当は心細いんだろうな。そう感じ取ったとき店の入口がガタガタと揺れた。
強い風が当たったのだろう。隙間風が店内を通り壁に貼られたメニューが揺れた。
何事もないと判断して目線を戻すと、テーブルの横に立っている気配にギョッとした。
「風の噂に乗って古今東西ひとっ飛び! 超絶かわいい
まるで魔法少女を
ここまで存在感が強い人物を私が見逃すわけがない。
出入り口もしばらく開いていないしこの店にいる人物は全員確認済みだ。この子はいったいどこから……。
久しぶりに心が焦りを感じた瞬間だった。
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