第20話 ロボットの証明
近くで大きな音が聞こえた気がした。
体が振動を拾い、ぼんやりと意識が覚めていく。
「ん、うぅぅん……ふぁ~」
そして目元をぬぐうと見つめられている視線に気づき、同時に記憶がよみがえり、
「ふあ!?」
と目を見開き首を回した。
「やあおはようお嬢さん」
「おはようなのじゃ」
振り向いた先にはオールバックの男性
(あれ?)
キョロキョロと部屋のスミまで見渡すが姿は確認できず、強いて言えば壁が損傷しているのが気になるぐらいだ。
「どうかしたのかい?」
「え? いえ、なんか変なものを見たような気がしたのですが。あはははは。夢かな? 夢でした! あははははって――アレ? 声が戻ってる! あ!! 手も猫の手じゃない!」
彼女は目の前で手を振ると自分の変化に気がついたようだ。
「どうやら君が疲れて眠ってしまったときに変身が解かれたようだ」
実際はクリーンの魔法が終わったときだったが、それを言うと失禁した事実にたどり着くまでいかなくても、何かを察する恐れがあったので時渡は伏せることにした。
「へー、そういうものなんですね」
「個性みたいなものだから人によって異なる」
「なるほど。私の――個性で、私の力? あれ? えっと、なんだっけ。たしかネットに書いてあった内容と本を組み合わせたらすごいことになって、気が付いたらここにいて、猫の姿になってて語尾もにゃって言ってて。それからお話してるときに――」
「驚かせてすまなかったのじゃ」
身に覚えのない謝罪にすっとんきょうな声を出す。
「お嬢さんはホラーが人一倍苦手ではないかな?」
「え、まあそうですね……友達にも怖がりすぎって笑われます」
なぜそこまで怯えるのか自分でもわからない。幼少のころからそうだったから、親は気にかけて輝の部屋をリフォームして、木目調の内装からピンクを基調とした心がふわふわする精神的にやさしい部屋にしてくれた。
たいそう気に入った輝は自分の部屋が大好きになり、雰囲気の合うカワイイグッズを集めるのが趣味になった。成長して少しだけがまんできるようになったのが最近の自慢だ。
「実はこの子、
「え!? この子があのおばけだったんですか!?」
「ごめんなさいなのじゃ」
敷童はそう言ってぺこりと小さな頭を下げた。
「どうかこの子を嫌いにならないでほしい。悪いのはすべて私なのだ。実は君のように突然力を手に入れた者は、能力を制御できず暴走する可能性があったため、すぐに対処できるように初めから変身させておいたのだ。ところがまさかここまで怖がりがくるとは予想外だった。ケガはないと思うが体調はどうだね?」
「特にこれといって。少し寝たから逆にスッキリみたいな?」
実際に頭の中が冴えていて、ここに来たときの興奮が落ちついている。
思い返せば人生の中で初めて取り乱したのかもしれない。
そう意識すと輝は急に恥ずかしくなり顔を赤らめた。
「そうか。それにしては少し顔が赤く見えるが」
「いえ! これはその、ちょっと暑いなーって。そんな感じです」
輝はそう言うと手で顔を
するとまたテーブルの上に、水が入ったグラスがコトリと置かれた。
「どうぞなのじゃ」
少し離れた席から一歩も動かず出されたグラスに輝は少し驚くも、あのおばけの力を使ったのだろうと瞬時に察した。
「ありがとうね。ん~~冷たくておいしい。あ、あのね、敷童ちゃん。私が怖がりすぎなのが原因だから気にしなくていいからね」
「許してくれるの?」
「うん。敷童ちゃんは必要なことをしたまでだから」
輝がそう言うと、敷童は納得したのかコクコクとうなずき、グラスに水を入れ飲み始めた。不安そうな顔が明るくなった気がして優しくて素直な子なんだなと感じた。
「ところで、君が気を失ってしまったので話が途中で途切れてしまったのだが、その続きを聞く気はあるかな?」
「あ、はい。気になるので」
そうだったと輝は思い出す。確か“この世界はゲームの世界なのか”と“魔法の使用できる順番がおかしい”と投げかけたのだ。
「そうか、でははじめよう。君はこの世界がゲームの世界で自分たちは神のおもちゃなのではないかと、魔法がなぜ使えたのかを知りたがっていたな?まず神はいる。そして私は神の使いだ。だから魔法が使えるしこの世界の設定を操作することも可能だ。だが好き勝手にいじれる訳ではない。必要に応じたときのみだ。神は人との共存を望んでいるからな。したがって玩具と思っていない。いうなればビジネスパートナーが近い表現だ」
彼は一呼吸置くと目で確認をとってきたので、
「驚きました。正直信じられませんが神様はいるんですね。いえ、ここまで出来るのがなによりの証明になりますか。他にも気になるワードがありましたが、今は続きが聞きたいです」
と輝は答えた。
彼はうなずいたあとあごに手をあてこう切り出した。
「質問を質問で返すが、私よりも先に君の考えを聞かせてほしい。岡崎輝くん、君は自分がゲームのキャラクターではないという証明はできるかな」
「……それは複雑な考え方や動き、表現できない身体の作りとか――その、赤ちゃんができるとか、到底ゲームでは無理な気が……うーん」
言われて簡単だと口に出してみたが“神がいる”を前提に考えると、“すべて神の手によって超高度なプログラムで設計されている”で説明がついてしまうことに彼女は気が付いたため、言葉を失った。
おとぎ話などのフィクションに登場する神。全知全能で世界の生みの親の存在が確定したのなら、人類の上位種もまた同じように監視とシミュレーションを行っている可能性は十分にある。
「ッ……!!」
壁一面に目があって、カルテを常に取られているのを想像すると、輝は心底ゾッとした。
カチカチと嫌な音が響く。寒くて震えて体を丸めて身を寄せた。
小さい頃の感情は思い出せないけれど、きっと今感じているものと同等だったのだろう。
(だって、とっても怖いんだもん)
精神が
「落ち着くのじゃ。大丈夫、大丈夫」
輝の全身を包み込むことのできない小さな体。それでも接する部分から伝わる温もりが、迷いの森に落ちた心に陽を差し、上を向かせる栄養となった。
次第に
「ぅぅ、敷童ちゃんありがとう~。本当に助かったよ~。急に怖くなっちゃって、
もうわけわかんない……変な女でごめんなさい」
「大丈夫じゃ。誰しも突然怖くなることもある。そんなに自分を責めることはないぞ。ほれティッシュを使うといい」
「うん」
彼女は敷童からポケットティッシュを受け取ると、涙を拭き鼻をかんだ。
「冷たい水を飲むと落ち着くぞ」
「うん。――コクコクコク。ふぅ~もう平気。敷童ちゃんありがとうね」
「元気になってよかったのじゃ」
敷童はそう言うとグラスに水を足して自分の席に戻っていった。
一部始終を見ていた時渡は思う。
(岡崎輝は想像力が豊かすぎるのか、極度の恐怖症か、あるいは幼少期に記憶が消えるほどのトラウマを負ったか。いずれにせよこの状態ではダンジョンを任せることはできない。運命にひかれた奇跡の子。素質はあるのだろうから手放すのは惜しい。彼女が望むなら深層心理を探るのもやぶさかではない)
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