サンタさんの選択

CHIAKI

第1話 サンタさん

森野もりの燦太さんた、35歳、洋菓子職人兼洋菓子店経営者、独身。


燦太という名前は、光輝こうき燦燗さんらんたる宝石のような存在という思いを込めて、親がこう名付けた。ですが、この名前のせいで子供のころからからかわれた苦い思いがあった。


その理由の一つが燦太の誕生日がクリスマスイブにあったから。


燦太の誕生日は大体冬休み中だったから、その日は家族と一緒に過ごすことが多い。だけど、クリスマスイブが来る前に、いたずら好きな友達はなぜか「Santa Claus is coming to town」(サンタクロースが街にやってくる)というクリスマスソングを彼の前に歌たり、彼のことをサンタさん、サンタさんを連呼れんこした。もちろん向こうは悪意がないけど、燦太はこういうふうに馬鹿にされることが嫌だった。せっかく親がつけてくれたいい名前を台無しにした気分だった。


子供のころから洋菓子が好きで、特に毎年親たちが買ってくれた誕生日兼クリスマスケーキを非常に楽しみしていた。人を幸せにするケーキを作れるというのは、人に役立つ仕事だと思って、幼いころから洋菓子職人を目指していた。彼の計画では高校卒業後専門学校に入り、菓子製造技能士の資格を取って、数年の修業後にいつか自分の店を持ちたい。


そんな燦太には誰にも知らない秘密があった。


いい年してまだ結婚してないから、親たちと友達は彼に積極的に異性を紹介したかったけど、彼はいつもその好意を断った。実は、燦太は高校時代にある人を好きになったが、告白できずにそのまま離れ離れになった。あれ以来、彼はいろんな女性と出会ったとしても、つい高校時代のあの子と比べてしまい、結果的に誰にも好きになれなかった。別に一生独身でいるつもりではなかったが、彼は恋愛や結婚に対してあまり前向きになれなかったというのも事実だ。もし自分がまだあの子に引きずられていたことが知られたら、さっさと忘れろとか言われるから、これを一生の秘密にした方がいいと判断した。


燦太は専門学校時代、同級生の桜庭さくらば奈海なみと出会った。二人は同じく洋菓子に対する情熱が強くて、次第に切磋琢磨してきた仲間になった。専門学校を卒業して、資格を取るために別々の就職先で実務経験を積んできた。菓子製造技能士の試験に合格した後、二人はパリに一年間留学し、その後地元の有名な洋菓子店で二年間の修業をした。異郷での生活はとても大変だったが、燦太は奈海がそばに居てくれたおかげで、何とかあの3年間を乗り越えた。


長年苦楽を共にした二人はつい5年前「éclat」という洋菓子店をオープンした。店の名前はフランス語で華々しいという意味で、二人が作った洋菓子の一個一個は宝石のように輝き、そしてそれを食べるお客さんに幸せを届けるという思いを込めた名前だった。燦太は主に商品の制作と新品開発を担当し、奈海は経営や宣伝の方をやってくれた。静かな住宅地にある店はそれほど大きくないが、SNSや口コミで客数を着実に増やし、ネット上では知る人ぞ知る隠れ名店になった。


燦太はこのまま何も変わらずに、ただ好きな洋菓子作りに専念すればいいと思った。まさかの出来事で、自分の人生を大きく変える選択をしなければならない日が来るとは、今まで想像もしなかった。

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