第56話 旧支配者の王命
「って事で私は死んじゃったの」
『憑依』によって深い意識の奥底へ入ったリベリオンは、その先に居たアリカと出会った。
「……ぐすっ」
「何で貴女が泣いてるのよ」
「泣きますよぉ……」
アリカの生い立ちと最期を聞いて、リベリオンは純粋に涙を流して共感していた。
「まぁ……仕方ない事だったから。私も調子に乗ってたし。どんどん高く舞い上がれそうな自分に酔ってたのかもね」
あはは、と笑うアリカ。その手をリベリオンは取った。
「アリカさん! 私、協力します! カナタさんに会いに行きましょう!」
「……本当にヒトって私たちと同じなんだなぁ」
『ドラゴン』として、ヒトは下等。話す価値も関わる必要性もない。
アリカもそんな考えを持っていたが、リベリオンと話をして改めさせられた。
「私のスキル『憑依』でアリカさんに身体をお貸しします」
「貴女ねぇ……あんまりホイホイと自分の身体を貸したりしたらダメよ」
ぎゅっ、とアリカはリベリオンの鼻を摘まむ。いらい(痛い)、いらい(痛い)、とリベリオンはバタバタした。
「うーむ。よし! じゃあ貴女の身体を借りるわ!」
「はい! 大切に使ってください!」
「でも先に私の方から対価を前払いするから」
「対価?」
「タダで借りようなんて思ってないわよ。私に何か出来ることある?」
リベリオンは、ここに来る途中に荒れ狂う負の感情を目の当たりしていた。
「彼らを……救ってあげたいです」
その言葉にアリカは驚きのあまり眼を見開く。
「――貴女、育ちが良いの?」
「そんな事はないですよ。私……孤児なんです。凄く小さい頃にスキルが発動して、気味が悪いってお母さんに捨てられたんです……」
「……ごめん。藪をつついたわ」
「あぁ、気にしないでください。今は少しだけ上手くなったんです。こうしてアリカさんとも話を出来ていますし……」
「うーん。よし! 貴女に必要なモノがわかったわ!」
ビシ! と言い放つアリカにリベリオンは強ばる。
「ちょっと来て」
そう言ってアリカはリベリオンの手を引くと彼女が何かを言う前に別の空間に出た。
そこは、火山の内部のような空間。
熱気が所々から吹き出し、岩が流動するような重い音が響く。見てるだけで暑いと感じ取れる場所だった。
その中心で巨大な岩が上下に動いている。
なんだろ? アレ……。とリベリオンが不思議そうに見ていると、
「グシオン様ー!」
アリカが大岩に叫んだ。
「ぬあ? その声は……アリカか!」
大岩がピタ、と宙に浮くとその下から老人がずりずりと這い出て出てくる。
そして、立ち上がると筋骨隆々の体格に二メートルを超える大男だった。
毛髪のない頭の変わりに、髭が長く伸びる。半裸の上半身は数多の傷跡が残り、いかにも歴戦の戦士と言った風体をしている。
「また筋トレしてたんですか? 私達あんまり意味ないのに」
「純粋な力に必要なのはなぁ……純粋な精神なのだ! そして純粋な魂となり! 更なる高みへと己を押し上げる! ゴッハッハ! アリカよ! 一緒に筋トレしに来たか!」
「いや、さすがに私は潰されちゃうんで」
と、アリカはリベリオンを前に出す。
「ぬ? そやつ……同胞では無いな! ゴッハッハ! 珍しい! 我々の霊域に共感出来る存在が居るとはな!」
「は、はひ……」
喋る度に放たれる握り潰されそうな程の圧力にリベリオンは必死に耐えた。
「この子はリベリオン。私の友達です」
「友達!」
同年代(見た目)の友達は少ないリベリオンは、アリカの言葉に嬉しく反応する。しかし、次の言葉で反転する。
「グシオン様。彼女を鍛えてあげてください」
「アリカさん!?」
「良いだろう!」
しかし、グシオンは丸太の様な腕を組んで、ビシッ! と断言した。
「リベリオンと言ったか! お前は光る才能を持っている! この【磁界王】グシオンの名に置いて……地上最強の生物としてくれる!」
「え? え?! えぇ!?」
「じゃ、リベリオン。頑張ってね」
「アリカさぁん!」
「ゴッハッハ! 心配するな! ただの見栄ではないぞ! あの【重力】のカナタを【無双王】としたのは、この俺の強化マニュアルによる賜物よ! さぁ! まずは溶岩遊泳から始めるぞ!」
「無理です~!」
後に母との対面を果たしたアリカは、父の元へ逝く前にリベリオンの元へ身体の主導権を返しに寄ったら、死んだようにダウンしていた。
「ケルカよ、この物資はこっちの棚で良いのか?」
「ええ。ごめんね。片腕なのに数の管理を任せちゃって」
「何事も経験だ」
『調合記録』のスキルを持つケルカはミルドル王都にて薬屋を経営していた。
バルバトスによって国が滅亡した後は『教会』の計らいもあり、薬屋を欲しているミルドルと隣国の国境街で再度、店を開いていた。
「バロ君も、災難だったわね」
そして、開店して間も無く、新たな生存者である隻腕の青年――バロが『教会』の者より連れてこられたのである。
「……感謝しておる。宿のない我にこの様な場を提供してくれた事にな」
「困った時はお互い様よ。気にしないで」
「バロさん! ケルカさん! 薬を届けに行ったら行商人の人からお肉貰いました!」
薬の配達を任されているタリアが、でろん、と生肉を掲げる。
バロは生肉をじっと見ると、その状態を見極めた。
「それは在庫処理だな。日持ちはしない品質だ」
「なら、もうお昼にしましょうか。少し早いけど、たまには良いわね」
「一秒でも早く焼いた方が良い。端から菌が増えておる」
「もー、バロさん! 食欲が無くなるなからヤメテ!」
ケルカとタリアは店の奥にある厨房へ向かい、バロは店の表に一時的な閉店の札をかけに外へ出る。
「……まぁ、こう言うのも悪くはないな」
「驚きました。よもや、閣下の口からその様な言葉が出ますとは」
店の扉に閉店の札をかけたバロは、その声に驚きもせず反応する。
「ドクターか」
「はい」
「3日前から反応を捉えておったぞ。何故すぐに来なかった?」
「閣下の動向を考察した故の行動です。私は【天秤王】の様にはなれません。お許しください」
ドクターは背を向けたままのバロに跪くと頭を垂れる。
「バルバトスは死んだか」
「はい。しかし、閣下は目覚められました」
「不完全だ。力は本来の二割も戻っておらん」
それでも魔力は『七星王』を全て合わせたモノに相当する。もしも、魔力を感じ取れる者が居るのなら、圧倒的なソレに畏怖する事だろう。
「次の惑星直列を待ち、同胞を目覚めさせる」
「はい」
帝王の言葉にドクターは是非もない。ただ従うだけだ。
「しかし、その前に世界を掌握する。『
「確かに……そのお言葉を頂戴いたしました」
『神槍』。
それは、かつて全ての同胞を管理下に置く事を目的に発令された――【霊帝王】バロールの王命であった。
「……ここがサンドロス」
一人の騎士が尋ね人を捜してサンドロスへとたどり着く。
そして、街で聞き込みをして、砂港で船に乗る彼を見つけて叫んだ。
「ジーク・フリード!」
呼ばれた彼は動きを止めて、叫んだ騎士を見る。その横から白髪の少女も視線を向けてきた。
「見つけましたよ! お兄様!」
「何でお前がここに居る!?」
フードを取って五年ぶりに顔を会わせたのはジークの妹である、ジーナ・フリードだった。
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