優等生の私と劣等生の私

琥珀糖の欠片

良い子

 どこで間違えたのだろう。どこで道を踏み外したのだろう。何を間違えたのだろう。何がいけなかったのだろう。答えのない問いが頭を埋め尽くす。優等生でいられるはずだった。優等生でなければいけなかった。良い子を演じなければいけなかった。問題児という言葉が自分に向けられる日が来るなんて思いもしなかった。

 全てはあの時から始まった。


「すずちゃんは良い子だねぇ」「賢いねぇ」「将来有望だわぁ、羨ましい。」

 そう言われて育ってきた。親はそんな周りの言葉を信じたのか、いつの間にか私の前には中学受験という壁があった。毎日塾に行かされ、お弁当を食べる。宿題をして寝る。友達と遊ぶことも減って学校では賢い人と認識される。そんな自分が嫌いではなかった。友達に褒められることも、親に褒められることも嬉しかった。そうしているうちに受験は終わっていた。第一志望に受かった。今まで我慢してきた分たくさん遊べる。自由になれる。そう言われていたから頑張ってきた。

なのに..。

「...ね!鈴音!大丈夫?」

「え、あ、ごめん!!大丈夫!!なんだっけ、」

「もー、中間どーだったって聞いてるじゃんー、」

「中間、、あー、秘密、かな、w」

「はぁ、鈴音のことだからどうせ良い点とったんでしょー!いいなぁ優秀で、」

「あ、はは、、香奈頑張ってるし今回良かったんじゃないの?」

「んー、まぁいつもよりはって感じ?じゃじゃーん!」

「え」

 私より、点数が、上??嘘でしょ、?

「いつもより良くない!?57だよ!?快挙かもっ!」

「...良かったじゃん。おめでとう。ごめん用事思い出したから先帰るね。」

「えええ一緒に帰ろーよ!!もー!明日は絶対だからねーっ!!!」

 香奈の叫びを背中に受けながら走るようにして教室を出る。

「...で。なんで..私だって、私だって頑張ったのにっ、、」

手の中でぐちゃぐちゃになった答案用紙。54。あの子に負けた。

ずっと私のほうが賢いと馬鹿にしていたあの子に。

心の中で何かが折れた。優等生の自分を壊した音がした。もうどうなったっていい。

頑張ってできないなら最初から頑張らないほうが楽だ。

今思えばそう思ったのがすべての間違いだったのかもしれない。



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