第153話 「ムラッ♡キュン♡」とときめく彼女。
優斗くんの訴えはお母さんの一手で抑え込まれる。
お母さんはボクらの方にちかづいてくると、浴衣の襟首を摑み、そのまま引きずっていった。
「本当にごめんなさい…。せっかく、夫婦水入らずのところを邪魔してごめんなさいね~」
「あ、いえ、お気になさらずに…」
ボクは優斗くんのお母さんに愛想笑いで返事をした。
遊里さんは急に言われたからかドキドキして、少し俯き加減だ。
今の遊里さんは髪の毛もたくし上げているし、紅蓮のメガネを掛けていて、全然ポスターのそれとは異なるのに、どうも子どもというのは、こういうことに関して勘が良いなぁ…。
あくまでも子どもが勝手に喚いただけ…。周囲の大人たちはそう思ったのか、それ以上の騒ぎになることはなかった。
ボクは気を逸らすように話題をふる。
楽しい話をしながらの食事をすると、遊里さんの心にも余裕が出てきたのか、落ち着きを取り戻しつつあった。
デザートまで食べ終えるとボクらのお腹も満たされていて、満足感に浸っていた。
優斗くんはお母さんに怒られて以降、ボクらの方に顔を出してくることすらなくなった。
遊里さんはボクの方に顔を近づけ、
「何で、分かったんだろうね?」
「うーん、ボクにも分からないよ…。今の遊里とポスターのときの遊里では髪型も違うし、メガネも掛けているから見た目から違うのにね…」
「私、どっかで分かるようなことしたかなぁ…」
「まあ、そんなに考える必要はないですよ。子どもってそういうのに対して、勘がよかったりしますから」
「まあ、そうだよねぇ~。それにしても、最初はビックリしちゃったよ…。え? 何なに? って」
「そりゃそうでしょう。これだけ多くの目のあるところですからね」
「てか、私のあのポスターってやっぱりインパクトがあるのかしら…」
まあ、世の清純であろうがなかろうが、あの水着バージョンには反応すると思う。
その…下腹部も含めて…。
「まあ、今の時代ですから、SNSでも人気なんで仕方ないですよ」
「そっか…写真撮って、呟けば全世界に広まっちゃうんだもんね」
「そうですよ。そういえば…ボクも…ほら」
と言ってスマホを取り出し、待ち受け画面を立ち上げる。
そこには水着姿の遊里さんが映っていた。
「ちょ、ちょっと…隼…。それ待ち受けにしてるの?」
「うーん、厳密に言うと、パスワード入力画面かな…。待ち受けは普通にボクらの写真にしてあるけれどね」
「何だか、嬉しいけれど、恥ずかしいよ…それ。って、その写真どうやって手に入れたの!? あ、まさか…じゃなくても凛華ね…」
「うん、橘花さんがボクにLINEで送ってきてくれたんだ」
「私には何の報告もなしよ…。まったく、何の差なの?」
「まあ、橘花さんはボクの好みを知っているんだと…」
「その発言には何かと問題を感じるわよ…。好みって何よ…」
「え、ボクが遊里のことが大好き過ぎているってこと」
「え………」
遊里さんはボクを見ながらまたもや頬を赤らめる。
そして、そのままモジモジしてしまう。
「うぅ…。すごく嬉しいし、何だか今、キュンッってきちゃったんだけど…」
あはは。可愛い遊里さんの乙女な反応だ。
「隼が…その…欲しくなっちゃう……」
前言撤回。
エロくなってしまったようだ…。
そんなモジモジしている遊里さんの横に先ほどの優斗くんのお母さんがやってくる。
「先ほどは本当にすみませんでした。ご迷惑をおかけしまして…」
「あはは…そんな気にしないでください…。まあ、有名税ってやつですかね…」
「てことは、本当にポスターの方なんですね?」
「ええ、まあ…」
「すごいお綺麗な方で、どこかの女優さんかと思っていたんですけれど、まさかの一般の方だったんですね?」
「あ~、友だちから手伝ってって言われて…。そのちょっと自然体のままを写真に撮られたって感じです」
「そうだったんですね…。こんなに美人な方に彼氏がいないと思っていましたけれど、心優しい彼氏さんがついていらっしゃるんですね」
「え…。ど、どうして心優しいなんて思えるんでしょうか?」
遊里さんは疑問をお母さんにぶつける。
優斗くんのお母さんは、ニコリとひとつ微笑んで、
「そりゃ、分かりますよ…。大広間に入ってくるときの小さい感じではありますけれど、エスコートされてましたし、ウチの息子が行った後、お嬢さんの気持ちをほぐれさせるために、色々と話題をふっておられたりとか…。ひとつひとつの所作があなたのことを考えて動いているように私の目には見えましたよ?」
遊里さんは驚いて、ボクの方を見つめる。
ボクは少し恥ずかしくなり、ポリポリと頬をかく。
「夫婦にしてはお若すぎるかな…と思っていたんですけれど、十分に夫婦としてやっていく準備ができているような感じのお二人ね」
優斗くんのお母さんは、ボクのほうに近づいてきて、
「まさか、今日、子どもを作っちゃうんじゃないよね? 彼女はその気があるようだけれど、まだ雰囲気から言うと高校生でしょうから、先のことを考えたほうが良いわよ」
「ボクは一応、その辺はわきまえているつもりです」
「そう、それは安心したわ。彼女は私と一緒で結構、好き物っぽいし吸い取られ過ぎないようにね。ウチの旦那もいつも私の相手をしているの大変みたいだから…。まあ、今日の夜はほどほどにね…」
そう言うと、その旦那さんと優斗くんが一緒に手を繋いで、大広間を去っていった。
遊里さんは何かに追い込まれたかのように俯き、顔が火照った状態だった。
こりゃ、少し夜風でも浴びに行って、クールダウンしたほうが良さそうかな…。
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