第140話 アパレル店員に試された「彼女」

 ユニクロやGUといった大手とは異なるアパレルブランドに遊里さんとボクが入った。

 お店は中学から大学生をターゲットにしたアパレルブランドのようだ。

 中学生と言っても、ガキっぽい感じの服装ではなく、どちらかというと大学生よりの大人っぽい服装をメインとしたデザインのアパレルブランドだった。

 遊里さんに聞くと、このアパレルブランドは使い勝手もいいし、値段もそこまで高くなくてコスパの良さで普段から利用しているとのこと。

 てことは、普段使いのスカートとかトップスとかはこのブランドのようである。


「男の人ってこういう店に入るとドキドキするんだよね…」


 ボクが心配そうに言うと、遊里さんはアハハと笑って、


「そんなに緊張することないって。下着とかインナーを買うお店なら、ドキドキしちゃってもいいよ…。あ~、そうだ~、新しいブラも欲しかったから、この後行ってもいい?」

「で、できればお一人で…」

「ダメよ♪ いつも私の胸を触ってるのは隼だけなんだから、どんなデザインが良いか選んでもらうの!」


 ええっ!? マジで!?

 そもそもおかしくない?

 普通、ブラジャーって自分で選ぶもんじゃないの?

 どうしてそこまでしてボクに意地悪するんだよぉ~。


「まあ、ブラカップも測ってもらいたいから、ちゃんとしようとは思うけどね」

「それこそ、ボクがいてはいけないでしょ…」

「まあ、そりゃそうよね…。普段から見慣れてる揉み慣れてるからといって、さすがにサイズを測るときに一緒にいるのはおかしいわよね…」


 そりゃそうでしょ!

 どこまでヘンタイな彼氏なんだよ!


「まあ、今は普通に服を選ぶだけなんだから問題ないって♪」


 遊里さんはお店の入り口にあるビニールの手提げ袋を手に取ると、お気に入りのデザインが並んでいるものを物色していく。

 こうやって後ろを歩いているだけだけど、正直言って、いろんなデザインの服があるんだなぁ…とボクは感心させられてしまう。

 そもそもオシャレとはある意味無縁なボクにとっては、こういうアパレルショップに来ること自体がなかなかない。

 せいぜい、ユニクロやGUで組み合わせだけ考えて着ればいいじゃないか? って考え方だし…。

 彼女の後ろを歩いていると、遊里さんに凄く親し気な感じで声を掛けてくる人物がいた。


「遊里ちゃ~ん!」


 髪の毛が程良い茶色でウェーブを掛けている。服装はそれほど派手ではないけれども、いかにもショップ店員といった上手い着こなしをしているのが特徴であった。

 名札をコッソリ見ると、「植松」と書いてあった。


「あ、ミーコさん、今日は出勤日だったんですね?」

「そうよ~。忙しいときに一番呼ばれて休ませてもらえない人だもの」

「なかなか笑えない話ですね」

「それよりも、遊里ちゃん、あのポスター本当に凄いわね!」

「うう…。ミーコさんまでポスターの話ですか?」

「だって、あのポスター効果で宝急アイランドの入園者がこの3日だけでも凄い伸びらしいもの」

「いや、きっとポスター以外の要素もありますって、凛華は販促ツールだけに頼るような経営者じゃないですよ~」

「まあ、確かにそうね。でも、あのポスターのインパクトは凄いわよ。白ビキニで胸が押しつぶされている奴なんか、女の私でも興奮しちゃったもの」

「ミーコさん、変態ですよ!」

「何言ってんの! 目の前に夢のような膨らみがあれば、そこに見とれるのは生きとし生けるものとして当然の話よ!」

「いや、世の中の『ひんぬー』好きを敵に回すような発言ですね…」

「あら、そう? とにかく、遊里ちゃんの武器を最大限に出したようなポスターで驚いちゃったわ」

「それは、ありがとうございます」

「で、そのおっぱいと可愛い笑顔を独り占めしているのが後ろの彼氏ね?」


 げっ!? ボクに振ってきた!?

 植松さんはボクの方に近づいてきて、品定めをするようにジロジロとみる。

 

「な、なんですか!?」


 思わず陰キャ特有の恐怖心から声が上ずってしまう。

 それを見た植松さんはニヤッと意地悪く微笑み、


「うーん、これは可愛いわね~」


 植松さんはボクをギュッと抱きしめるようにしながら、頭を撫で撫でする。

 遊里さんはさすがに耐えられなかったのか、ボクを植松さんから引き剝がす。


「だ、ダメですよ…。たとえ、ミーコさんであっても、彼氏を奪う人は敵と見なします」

「うふふ! 冗談のつもりが本気で怒らせちゃったみたいね。遊里ちゃんったら、この子のこと本気なんだね。カワイイ!」


 そこで遊里さんは気づいたようだ。

 遊里さんがどれだけボクのことを好きなのかを植松さんは試したということに。

 見る見るうちに顔が紅潮していく。

 これはどちらかというと恥ずかしさの方だな…。


「大丈夫。奪ったりなんかしないわ。遊里ちゃんが離れていっちゃうと私が困っちゃうから♪」


 どこまで冗談でどこからがリアルなのかわかりにくい。

 遊里さんもいい加減、ボクを解放してください。

 ギュッてしてくれるのは良いんですけど、ナイスな位置関係で、ボクの頬を今、柔らかなおっぱいで攻撃されてます…。


「どころで、今日は服を選びに来たの?」

「え、ええ…。彼氏と一緒に旅行に行くんで、お出かけ用を何着か買おうかと…」

「ふふっ、わざわざここでそこまで言わなくてもいいのに…。私も嫉妬しちゃうわよ」

「彼氏と一緒だからって、過激なのはいりませんので…。普通に出かける予定なんで」

「分かったわよ。この夏に新しいデザインのものが入ってきてるから紹介してあげるわ」


 そういうと、植松さんは遊里さんとボクを率いて、別のコーナーに連れて行ってくれるのであった。

 それにしても女性物の服は奥が深い…。




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