第61話 彼氏を奪おうとする泥棒猫

 ピンポーン!

 呼び鈴が朝食中の清水家のリビングに鳴り響く。

 妹の楓が、「どうせアンタの彼女でしょ」という目線で行って来いと顎で指図を出す。

 うう…。本当に楓は朝は低血圧なんだよねぇ…。

 ボクが玄関まで、迎えに行く。ドアを開けると、


「おはよ~。今日もいい朝だねぇ~」

「おはよう、遊里。まだ朝食中なんだ。上がって待っててくれる?」

「うん、いいよ」


 ボクと遊里さんはリビングに向かう。

 リビングには低血圧で超不機嫌なかえ……。


「あ、おはようございます。遊里先輩♪ わざわざ兄のお迎えありがとうございます」


 何て変わり身!?

 つい数秒前の超不機嫌女は、どこに行った!?

 ボクが顔を引きつらせていると、笑顔の遊里さんは爽やかに髪をサッと流して、


「おはよ~、楓ちゃん。別に気にしなくてもいいよ。これも彼女の務めですから♪」

「ほほぅ…。お兄ちゃん、良いわねぇ~。朝からこんな可愛い彼女に、しかも家まで迎えに来てもらえるなんて…」

「う、うん…そうだね」


 ボクは食後のコーヒーをすすっている。

 飲み終えると食器をまとめてキッチンへと持っていき、ササッと洗う。

 リビングでは、楓と遊里さんが二人きりになる。


「ところで、私たちが社会見学中に彼氏の家にお泊まりしてたんだって~?」

「ゔ…。まあ、そうですけど…。そ、それがどうかされましたか?」

「ううん。何もないよ~。まあ、イケメンと美少女が一緒とか何して過ごしたんだろうって、ちょっとガールズトークしようかと思ってね…」

「ええっ!? 別にガールズトークはいいんですけど、目の前に兄がいるんですけど…」


 言いながら、楓は顔を赤らめながら、チラチラとボクの方を見る。

 いやいや、その時点でナニしたのか微妙にバレているような気がするんだけど…。

 しかも、余った避妊具コンドームを返されてないのは何故なんでしょうか。

 今後のために持っているの? それとも使い切っちゃったの?

 まあ、二連パコ…じゃなかった二連泊してるんだから、別にいいんだけど、君たち中学生なんだからね…。

 高校生に入れば良いってわけじゃないけど、世間体ってのを少しは気にしましょうね。


「じゃあ、どうする? 学校に行きながら話す?」

「兄と100mほど離れていただけるならば…いいですよ…」

「じゃあ、それでいいわ。ここから駅までの歩いている間でいいわ~」


 楓、本当に喋っちゃうの?

 まあ、ポンコツな遊里さんのことだから、ボクらのことも喋ってしまいそうで、兄としてはそっちの方が心配だよ…。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」

「「は~~~~い」」


 各々がバックやリュックを持ち、部屋を出る。

 施錠して、3人でエレベーターを乗って下りる。

 マンションから出ると、ボクは楓の指示に従って、100mほど下がって歩くことにしたが、そんなに離れる必要ある!?

 なんかさ、自分だけがすっごく一人ぼっちになってしまった気持ちで何だか寂しい。

 遊里さんと楓に関しては、何だか遊里さんが一方的に楓を突っついているように見えるが、少し経つと楓が反撃を始めたのか、遊里さんが急に小さくなっているようにも見える…。

 あ~、頼むから『媚薬事件』のことは話さないでほしいなぁ…。まあ、無理だろうけど。

 あれはさすがに二人きりになったときに、楓に追及されるのは嫌すぎる…。

 だって、あっちは意識が朦朧もうろうとしていて、ボクだけがはっきりとしていたんだから…。だから、ボクから話を聞くことでより詳しくわかるじゃないか…。

 でも、ボクだって話したくない事情もある。

 何てことをブツブツと言っていると、


「近くから見ていると、変な人にしか見えないね…。清水くん」

「うわぁっ!? 吃驚びっくりした…。二葉さんか…。て、二葉さんってこの辺に住んでいるんですか?」

「おはよ~。まあ、私はこの辺に昔から住んでいるのさって小学校一緒だったじゃん!」

「ええっ!? 記憶にないです…」

「ううっ…。小学校時代はユーリがいなかったから、一番の美少女として有名だったのに…」

「で、どうかしたんですか?」

「いや、清水くんがユーリと離れ離れで登校しているから、ついに夫婦喧嘩が始まったのかと…」

「まだ、夫婦じゃないです。それに喧嘩も全然ありません」

「あ、そうなの? 君たち本当に仲いいよね。全然喧嘩しないものね」

「まあ、そうですね。お互いすごくピッタリはまることが多いですね」

「それはこれもかい?」


 と、言って、二葉さんは右手の親指と人差し指で円を作り、そこに左手の人差し指を出し入れしている。

 ちょっと待って。朝から何て話題振ってくるんだ、この人は!?

 後、少しだけ顔を赤らめながらするの止めて。見てるこっちが恥ずかしいから。


「それはご想像にお任せします」

「ま、相性ピッタリなんだったら問題ないんだろうねぇ…。良きかな良きかな」

「それよりもいつの間にかボクの腕に抱きつきながら歩くの止めてもらえませんか…? 遊里に見つかったらマジで怒られますよ?」

「まあ、これだけ離れていたら問題ないだろうねぇ…。あっちは話に夢中みたいだからさ…」

「いや、まあ距離的な問題はそうなんですけど、倫理的な問題の方です。ボクが言いたいのは…」

「そんなこと言わないでよ…。私もあなたのことが好きになったんだからさ…」

「ええっ!?」

「うっそ!」

「ほっ……」

「――じゃないけどね。たぶん、好きなんだと思う、あんたのことが…」

「いやいや、それは問題でしょう」


 ボクがジト目で二葉さんを睨みつける。

 二葉さんはそんなのは気にしないといった風で、話を続ける。


「まあ、ユーリと付き合ってるのは知ってるから手を出したりはしないよ。でも、ユーリから奪い取るのはありかなぁって…」

「いや、かなり無茶苦茶な話ですね…。友情にヒビが入りそうな…」

「ホント、そうよね…。この勝負は本当に危ないと思っているのよ!」


 ギュッと握りこぶしを作って見せてくる二葉さん。

 そうやって激しく動くたびに、マシュマロおっぱいがふにょんと動くのは犯罪級だ。

 社会見学の時にあの柔らかさをカッターシャツ越しとはいえ、知っているボクにとっては目のやり場に困る。


「およ? 清水くん、もしかして私のお胸に興味津々かな?」

「え……?」

「ふふふ、誤魔化しても無駄だよ。私には手に取るようにわかるよ。君の気持ちが…。今すぐ、両胸を鷲摑みにしたいんだろう? それとも抱きしめているこの腕を挟んであげようかい?」


 それってどちらも男の欲望をくすぐることじゃないですか!?

 でも、ボクには大事な彼女がいるから…そういう行為は……。


「社会見学の時にも言ったけど、ユーリのお胸とは違うよぉ~。あっちはロケット、私のはマシュマロ…。指が埋もれちゃうんだよぉ~」


 傍から見たら、ボクと二葉さんは登校中にイチャイチャしているように見えるんだろう…。

 周囲から殺意が集中的に注がれる。

 皆さん! ボクの本当の彼女は前方100m先にいます!

 そうこうしているうちに駅が見えてくる。

 はぁ…地獄から解放される。

 早めに到着した楓と遊里さんが振り向いた。瞬間に遊里さんを中心に空気が固まる。

 そりゃそうだろう…。横に二葉さんが抱きついたままの姿でボクがゲンナリとしているんだから…。

 このどこから突っ込むべきか悩むところだろうなぁ…。

 ボクと二葉さんが駅に到着すると、


「おはよー、ユーリ! 今日も元気ぃ~?」

「うん、さっきまではね?」

「およ? どうかしたん?」

「他人の彼氏を奪い取ろうしているようにしか見えないんだけど、これに関して、ご説明いただける?」

「まあ、離れ離れで歩いていたから、私が彼を労わってあげていたのだよ…」

「腕にひしゃげたお胸を当てて?」

「だ、誰がひしゃげたよ! マシュマロって言ってよ! 弾力は抜群なんだから!」

「と、とにかく、隼に手を出すのは禁止!」

「えーっ。私も清水くんのことが好きになっちゃったんだよぉ~」

「ダメなものはダメ! 二学期に入れば文化祭もあるんだから、それまでには見つかるでしょ?」

「うあ。すっげー雑! 人のことだと思ってけっこー雑なんですけど」

「仕方ないでしょ? 私の方が先に付き合い始めてるんだから…」

「む~~~~~~~!」


 遊里さんと二葉さんのやり取りを横で見ていた楓がボクに向かって呟く。


「お兄ちゃんの周りって胸の大きな人が集まってくるんだね…。これってスケベラッキーとでもいう能力なの?」

「ボクに聞かないでくれる…」


 本当に困ったものだ…。

 妹も中学生にしては膨らみもそこそこあるし、本当にボクの周りには『お胸属性』の数値が高い女の子が集まってきているような気がする。

 ギャルゲーやエロゲーなら最高のシチュエーションなんだろうけど、リアルに生きる分にはこんなに精神的に苦痛な状況はさすがに辛い…。


「遅刻しないように早く行こっか…楓…」

「え? あ、そうだね…。お兄ちゃん」

「ちょ、ちょっと! 隼、待ってよ!」

「ああ! 清水くん、私も捨てないで~!」


 ボクらが歩き始めると駅前で言い合いをしていた二人も後から駆けてくる。

 あ、そういえば、あと一週間で期末テストか…。

 そろそろ復習とかの対策していかないとな…。今日の放課後からみっちりとやるか…。

 ボクは放課後の計画を練りながら、改札を通過し、入線してきた各駅停車に乗り込んだ。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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