第44話 衝撃の真実が明らかになった社会見学ー奈良ー

 夕食後、生徒たちは決められた時間・タイミングで大浴場を利用することとなっていて、ボクも葵と一緒に一日の疲れを癒やす。

 翼も出来れば一緒に入りたかったが、「ミーティングがあるから…」という理由で、一緒には入れなかった。

 でも、翼ももう腰を据えているという感じで、文句を垂れることなく、ミーティングのための部屋に橘花さんと一緒に入っていった。



 風呂上がりにアイスクリームを食べているところに、遊里さんがやってくる。

 あんまり目立たない自販機スペースでボクは食べていたので、彼女は一瞬ボクを探したようだが、すぐに見つけて自販機スペースに入ってくる。


「遊里も食べる?」

「え? 奢り? やった~♪」


 はにかんだ笑顔でアイスをどれにしようか選んでいる。

 機嫌よく彼女はアイスクリームの自販機で好きなアイスを購入する。


「いっただきまーす! う~~~ん。火照った体にアイスクリームが染み渡る~~~」

「美味しそうに食べるねぇ~」

「当然よ! だって、お風呂上がりのアイスとか最高じゃない。それに隼と一緒に食べてるから…ね?」


 顔を赤らめながら、モジモジしながら訴えかける遊里さん。

 あはは、もう、可愛いじゃんか! ボクの彼女…。

 これが家なら、そのまま抱きしめてベッドインしたくなるところだが、今は社会見学中。かつ、ここは誰もが使える公共施設のホテル。さすがにそれはダメだ…。

 自販機の奥が簡易的な休憩室になっていたので、そこに腰を下ろして一緒にアイスを食べる。


「それにしても、今日一日で色々とあったねぇ…」

「本当ですよね…。まさか、付き合ってるのがバレちゃいましたし…」

「ホント、それね…。まさか、あそこに現れるとは…」


 奈良町でキスしていたところに二葉さん遭遇事件の主犯が何やら自分は悪くないと言いたげだ…。

 まあ、死角と言えば死角になっていたんですけどね。

 石をネックレスに加工している間、二葉さんがどこかをウロウロするというのは想定外でしたけど…。


「まあ、協力的だから大丈夫かもしれませんね」

「そうね…。エッチの報告というところさえ除けばね…」


 そうだった…。そこを忘れてましたよ。

 二葉さんは人のエッチ事情を知りたがるというちょっとおかしい人なんだよね…。


「ま、それくらいで認めてくれてるってことはありがたいじゃないですか…。それに今も遊里さんが出て行っても、とがめられなかったんでしょ?」

「うん。そういうところはきちんとしてるのよねぇ…。雪香って。だから、まあソシャゲで隼とやり取りするのも別にいいんだけど…」

「ああ、さっきのスイカレですか?」

「そうそう! 変なやり取りさえしなければ別にいいんだけどね…。そもそもゲームの中身もそんなに知らないし…」

「まあ、気を付けてやることにします」

「そうしてくれるとありがたいわ…」


 遊里さんは言って、アイスを食べ終え、棒をごみ箱に捨てる。

 時間もそろそろ22時を超えている。就寝時間が迫ってきている。

 就寝時間に先生に見つかったらややこしいので、他の生徒たちは早々に売店などから退散している。

 あとはボクたちくらいしかいないかも…。

 その時、2つの声が近づいてきた。


「誰か来る!」(ヒソヒソ)

「え!? でも、ここ逃げ場がないよ!」(ヒソヒソ)

「じゃあ…あっ! あそこの観葉植物の後ろに隠れましょう…」(ヒソヒソ)


 そこそこ大きな観葉植物がふたつあり、葉が生い茂っていたので、それを壁に隠れることにした。

 自販機スペースに入ってきたのは、お風呂上がりの翼と…。え? 橘花さん!?

 確かに橘花さんだ。お風呂上りということもあって、トレードマークの金髪はしっとりと濡れているけど、見た感じでは橘花さんだ。


「ここのお風呂、正直熱すぎだよ…。疲れを癒すどころか汗がヤバイ…」

「ホント、すごい汗ね…。翼ってそんなに汗かきなの?」


 言いながら、橘花さんは自分の持っていたタオルで翼の汗を拭いてあげる。


「うーん。そもそも外に出ないから汗かかない…」

「あ、そう…」


 愚問とばかりに返答し、橘花さんは黙ってしまう。

 橘花さんはポケットから小銭入れを取り出し、飲み物を買おうとする。

 と、それを静止して、自分の小銭入れから自販機にお金を入れる翼。


「え?」

「好きなの買えよ」

「いいの?」

「別にジュースくらいなら奢ってやれるからな…。それに今日一日頑張ってくれたんだし」

「それを言うなら、翼も頑張ったじゃない!」

「もう、いいから…俺の気持ちが変わる前に、さっさと買えよ」

「あ、ありがとう…」


 橘花さんはカルピスのペットボトルを購入して、ゴクゴクと喉を潤す。


「翼も飲みなよ…。ホラッ!」


 と、自身が飲んでいたペットボトルを翼に渡す。

 翼は「あ、ああ…」と言ってペットボトルをゴクゴクと橘花さんと同じように飲んだ。

 ん? これ、恋人関係なの、この二人!?

 ボクが遊里さんを見てみると、「私は知らないよ!」と首を横に振る。

 翼の持っているカルピスを橘花さんは奪い取るように取り上げると、残りを飲み干した。


「お前さぁ…よくそういうことするよなぁ…」

「ん? 何がよ?」


 翼の指摘に頬を膨らませる橘花さん。


「間接キスになるだろ?」

「なに? そんなの気にしてるの? て、そもそも翼が私の後に飲んだんじゃないの…。間接キスならば、翼が私のにしちゃってることになるわよ」


 橘花さんが少し顔を赤らめている。

 翼もバツが悪そうに目をらす。


「でも、本当にまさかよね…。私が翼のことを好きになってしまうなんて…」

「いや、まあ別にいいんだけどな…。周囲にバレさえしなければ…」


 うーん。どこかの陰キャと陽キャの恋とよく似ているなぁ…とボクは思う。

 ボクと遊里さんは驚き、目を丸くした状態でお互いを見つめ合う。


「そうね…。でも、どうするの? あの争い…」

「別に俺はあのまま続いていてもいいぞ…。校内で付き合ってるのを見られたりしないようにするためには、かえっていい理由だからな…」

「えー。何だか、つまんないですわ…そんなの!」


 橘花さんは、翼の両手をそっと握ると、


「先生もあのことを嗅ぎつけてこんな班分けにしたみたいですし、今ならば、それぞれを理解しあってますわ…。だから、この社会見学が終わったら、教室内でお互い仲直りを演じましょうよ」

「うーん…。まあ、凜華がそういうならいいよ、別に」

「ま、よかった♪ ありがとう、翼」


 チュッ。

 橘花さんは翼の頬に軽くキスをした。

 初々しさの残る可愛らしいキスを。


「そういえば、翼っていつもテストの点数で焦ってますけど、何でしたら今度の期末テストは一緒に勉強しません? ウチの家でしたら、防音室完備ですから、騒音無視で勉強できますから」

「え!? ついに勉強のことまで色々と言い出すのか?」

「だって、私たちもこのままお付き合いを続ければ大学入試が待ってますわ。私の進学する予定の大学に翼も一緒に来てほしいですもの!」

「あ、うん…。凜華が言うならやるよ…」

「じゃあ、勉強する日時はまた明日相談しましょ♪ 今日はもうこんな時間ですし、部屋に戻ることにしましょう」

「あ、ああ…分かったよ…」


 翼は渋々頷いて橘花さんについていく。

 去っていったのを確認して、ボクと遊里さんは観葉植物の裏から出た。

 遊里さんは何だか複雑な表情だ…。

 ボクも正直、驚きを隠せずにいた。

 もう、時間も時間だから、早めに部屋に戻らないと先生に見つかると面倒くさい。

 ボクらは部屋へと戻ることにした。

 道中、色々なことが頭を駆け巡った。

 橘花さんと翼がどうやって付き合い始めたのか。

 毛嫌いしていた橘花さんがどうやって翼を好きになってしまったのか。

 派閥闘争はどうなるのか。

 ………………………………。

 たくさんの情報が頭を駆け巡って少し疲れた。

 ボクは自分の部屋の前に来る。


「で、何で遊里が一緒にいるの!?」

「え…!? あ!? しまった…。考え事していたら、自分の部屋に戻り損ねちゃった…」

「さすがにマズいんじゃないですか? 戻った方がよくないですか!?」

「そ、そうよね…」


 すると、ボクの部屋の反対側の通路から先生たちの声がする。

 もう巡回しに来た!?

 ボクは慌てて、カードキーで開錠を行い、遊里さんの手を引き、部屋に招き入れた。

 部屋の入口のダウンライトをオフにして、覗き穴から見ても寝ているように見えるようにする。

 ボクたちは息をひそめる。

 先生たちがボクの部屋の前にやってくる。

 先生たちはドアの向こうで何かを話しているが、ボクの部屋が暗いと悟ったのだろう、先生たちは離れていった。

 ボクと遊里さんはホッと胸を撫でおろすと、


「これじゃあ、もう戻れないからこの部屋に泊まらせて…」

「絶対に狙ってないって言えます? この状況を…」

「一緒にいたかったのは事実よ♪」

「あ、でも、1つ問題が…」

「え? 何?」

「ウチの部屋、一人部屋なんですよね…」

「え…!? じゃあ、ベッドは…」

「あ、はい…。シングル一つだけです…」


 まあ、普段も同じベッドに寝ることはあるけど、その時は大抵お互いが身体を求めあっているときが多いのであって、今日は社会見学なのだから、そういう状態ではないと思うんだけど…。どうしよう…。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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