第34話 突然の来訪者。
どうして、梅雨の時期なんかに社会見学を入れようとしたがるんだろうか…。
まあ、確かに学校のイベントは盛りだくさんだ。
年間5回の定期テスト。
6月に社会見学。
9月には体育祭。
10月には文化祭。
12月にはキリスト系の学校ならではの、クリスマス関連行事。
ここに高校3年生になると、修学旅行もぶち込まれるのだから、受験生の高校3年生にとってはたまったものじゃない。
まだ、1学期は高校1年生のことを考えて行事を少なめにしているんだろうけど、さすがに梅雨時の6月に校外に出かける社会見学は絶対に季節がら向いてない。
「おはよー! 隼くん!」
そう思いながら、学校の最寄り駅から歩いていると、後ろから声を掛けられる。
ボクの腐れ縁の
「あれ? 今日は西野さんと一緒じゃないの?」
「ああ、麻衣は校外学習の関係の話し合いとかで先に着いているよ」
「そうなんだ…。ところでウチのクラスの校外学習担当って誰だっけ?」
「おいおい…。自分のことじゃないと本気で放置するんだな…お前ってやつは…」
「あ~、まあそういうこともあるかな…。たまにね」
「まあいいけど…。ウチのクラスは、翼だよ」
「あれ? 翼が自分から立候補したの?」
「いや、違うよ」
「え? じゃあ、なんで?」
「メインのヤツがサブを推薦できるんだよ」
あ、確かにそんな感じだった気がする。
でも、それで何で翼がそんな面倒くさいことに巻き込まれるんだろう。
「メインが橘花さんがやることになったんだよ。まあ、グループ派閥の問題があろうがなかろうが、ああいった仕切りは橘花さんが一番上手いのは分かっているから、僕も橘花さんに一票投じたんだよ。そこで先生がしゃしゃり出てきちゃったんだよなぁ…」
うーん。そんな展開があったような気がするけど、何でボクは覚えていないんだろう…。
暇すぎて寝てたのかなぁ…。
ボクがうーんうーんと唸っているのを無視して、葵は話し続ける。
「先生が『今、このクラスって変な空気に包まれてるから~、サブは…そうね! 早乙女くんにやってもらおうかしら』ってさ」
「え? 先生が派閥闘争知ってんの?」
「いや、知らないはず。でも、あの人感づくの早いから…」
「で、橘花さんと翼の2人になったと?」
「ま、そういうこと…。あの時の橘花さんと翼の顔は衝撃的だったね」
話しているうちに正門をくぐり、慣れた足取りで教室へと着く。
教室はいつも以上にざわついていた。
「何だかウチのクラスって落ち着きってものがないねぇ~」
「まあ、波乱に満ちた高校生活ってのもいいんじゃないか?」
「ははは、できればボクは落ち着いたまま高校生活を終わらせたいんだけどね…」
ボクが笑いながらそういうと、黒板に大きな紙が貼りだされていることに気が付く。
そこには人垣が出来上がっていた。
近づいていくと、大きな字で『社会見学班分け』と書かれて、それ以降は班の番号と生徒名が記載されたものだった。
まあ、
「ねえ、隼くん、これ凄い組み合わせだと思わない?」
「うーん。確かに…」
貼りだされた班分けは派閥闘争の両派閥から均等にわけられていた。
「先生ってスパイか何か出身なのかな…。この把握能力は凄すぎない?」
「うーん。僕もそう思う。もしかして、橘花さんと翼が脅迫されて言わされたのかな…? どう思う、隼?」
「あー、でもそれはそれでありそうだよねぇ…。ボクもそれに一票」
ちなみにボクの組み合わせは…、男子がボクと
ま、陰キャ同士なんとかなるか…。
可愛そうだったのが、翼だ。
翼は実行委員ということもあって、社会見学中も天敵・橘花さんと一緒に回ることを余儀なくされる。
これで仲直りとかしたらいいんだけどねぇ…。
まあ、ボクが思う以上に思想の違いというものは色濃くて、そう上手くはいかないんだろうけど…。
ふと教室の端の方を見ると、遊里さんと二葉さんが仲良く話をしている。
もしかしたら、社会見学のことで盛り上がっているのかもしれない。
また、昼休みにカフェテリアのテラスで話をしてもいいかもしれない。
そんなタイミングで予鈴がなる。
「さあ、朝礼を始めます。皆さん席について―――っ!」
入山先生の透き通った声が教室に響き渡り、ボクたちの雑談をピシャリと止めた。
教壇に立ち、赤い縁の眼鏡をクイッと上げると、連絡事項を淡々と告げていく。
ああ、いつもこの方の声を聞くと、一日が始まるって実感するなぁ…。
結論から言うと今日の昼休みは、遊里さんとご一緒することが出来なかった。
彼女にも、当然ながら友達がいて、そちらとも昼食を取ったりしていたのだろう。
おかげで昼食のお供として翼の愚痴を聞く羽目になってしまった。
ただ、明らかに翼の一方的な主観で語られる話を耳にして、「それはお前が悪い」と葵と一緒にツッコミを何度も入れて、彼は文句を言っていたが…。
放課後はいつも通り、家の近くのスーパーで買い出しを行って、家に直行だ。
妹が帰宅するまでの時間は課題をやったりする時間に充てることが出来る。
本日は「魚料理(和風)」をご所望のことで、鯛めしと鯛と野菜の天ぷら、
二人暮らしだから、それほどの鯛の量はいらない。それに生で食べるわけではないから、若干割引されていても全然問題ない。だから、リーズナブルで済ませられる。
一通りの買い物を済ませて、帰途につく。
これももはや慣れたものだ。
エレベーターで10階に上って、廊下に出たところでボクの家の前でそわそわしている人がいる…。
(ええっ!? 何かの勧誘とかは嫌だよ~~~~~、ってこのマンション、オートロック型だから、そもそも住人でないとここに入ってこれないじゃん)
ボクは目を凝らすと、髪は金髪、ウチの学校の制服、そして隠そうにも隠せないあの胸…。
「何だ…。遊里か…」
ボクは安心して、自室に近づいていく。
そして、彼女に声を掛けた。
「遊里、今日は早い帰りなんだね!」
「あ! 隼くん!?」
なぜか少し焦っている遊里さんがそこにはいた。
ちょっと顔が赤らんでいるのは何で??
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