番外編 初めてのクリスマス

初めてのクリスマス①(神代遊里side)

 5月から付き合い始めた陰キャの清水隼と陽キャの神代遊里は地道に愛を実らせてきて、ついに初めてのクリスマスを迎えることになった。

 隼は日ごろの感謝の意味を込めて、遊里に対して、イルミネーションを見たりするプランを計画していた。遊里も隼との初めてのクリスマスに気持ちが高まってきていた。

 ところが………。




 コホッコホッ………。

 何だって、こんな日に…。もう、本当にショックが大きい。

 私はLINEを立ち上げて、バイト先に「風邪をこじらしてしまい、シフトに出れない」ことを丁寧に伝えた。

 店長からはすぐに返信があり、「マジか!? リア充で引き込めたのは遊里ちゃんだけだったのに…。非リア充なバイトで何とか頑張る!」と涙目のスタンプとともに送られてくる。

 本当に申し訳ない。

 私だって、今日はバイト明けの夕方から、大好きな隼と一緒にイルミネーションを見たり、食事をしたりするという初めてのクリスマスを迎えようと思っていたのに…。何だって、私はこういう肝心な時にポカをやらかすんだろう。

 ハァ……

 そりゃ、ため息の一つでも付きたくなる。


「遊里、悪いんだけれど、お母さんたちは行ってくるわね…。お父さんとも会う予定だったからキャンセルできないし…。キッチンにおかゆを作ってあるから、食べれそうなら食べてね」


 お母さんが私の部屋をそっと開けて、優しく言ってくれる。

 まあ、仕方ないよ。私は元々お父さんと会うのではなく、大好きな隼と一緒に過ごすって決めてたんだから…。

 どうせ、正月になれば、どこかのタイミングでお父さんに会うこともあるだろう。

 私にとってはそれよりもリア充最大のイベントであるクリスマスを付き合い始めた彼氏と一緒に過ごすというどう考えてもイチャイチャ甘々なビッグイベントの方が優先順位が高かった。

 な、なのに…。昨日、お風呂上がりにクリスマスデートに興奮しちゃって、服装選びなんかをずっとやっていて湯冷めをしたらしい。

 気づけば、この通りのありさまだ。

 ピピピッ! ピピピッ!

 静かになった部屋に電子音が鳴り響き、脇に挟んでいた体温計を抜き取る。

 39.5度―――。

 ハァ…。やっぱりしんどい。そりゃそうだ。熱が上がって来てるんだから…。


「あ、そうだ…。隼に謝っておかないと…」


 私はLINEを再度立ち上げ、隼のトーク画面を開く。


『ごめん…。風邪ひいちゃって、今日、バイトも休んでるんだ…。デートも出来そうにない…』


 力なくそう打ち込むと、そのまま送信ボタンを押す。

 履歴にはお互いが今日の日を楽しみにしている会話が残っている。

 何だか悔しくなってきた…。いつの間にか涙があふれてきていた。

 こういうこともそりゃあるかもしれない。でも、どうして私と隼の恋の神様はこんなにも意地悪なんだろう。

 本当に辛すぎる…。私はそのまま目の前が朦朧とする中で、布団の中で闇に落ち込んだ。




 私が目を覚ますと、もう時計は夕方の5時を示していた。

 そろそろ街はイルミネーションが点灯され始め、気の早いカップルたちが手を繋ぎながら、それを堪能している時間かもしれない。

 でも、私は今もこんな状況。

 今日何度目かの体温計の電子音を聞く。

 36.9度―――。

 身体が寝る前よりも軽いと感じたのはそのためか。

 汗をたくさんかいたから、パジャマがじっとりと汗ばんでいた。

 ありがたいことに、お母さんが私の傍に替えのパジャマも用意してくれていた。

 私はそれにサクッと着替える。

 今度はお腹の音が鳴り始める。


「確か、おかゆがあったはず…」


 私はスリッパを履き、そのままリビングに向かおうとする。

 自室のドアを開けると、すごく良い匂いがする。和風だしの優しい匂いがしてくる。

 おかゆってそんなにいいものを作ってくれていたのだろうか…。

 リビングには灯りがともったままだった。


「もう、私が寝てるんだから、電気くらい消していけばいいのに」


 私は文句を垂れながら、リビングを開けると、


「え………?」


 予想もしてない人がいた。


「あれ? 遊里、起きて来たの? もう大丈夫?」

「は、隼!? ど、どうしてここに!?」


 キッチンには隼が何やら料理をしているようだった。

 隼は手を止めて、リビングの方に出てきてくれる。


「遊里が風邪を引いたってLINEをくれたから心配でね。早苗さんにLINEをしたら、今日は家族でお出かけって聞いたから、じゃあ、ボクが行こうって。合鍵、ボクも持ってて良かったね」


 そう。私たちはお互いの家で公認されてから、お互いの部屋の合鍵を持っている。

 それくらい親密に家族とお付き合いをしているという証明らしい。


「で、お邪魔させてもらったんだけど、すっごく辛そうに寝ていたから、何度か起こさないようにしながら、汗を拭きとったり、氷嚢を交換したりしていたんだ。で、そろそろ夕方だから食事を作ってあげようと思って」

「そ、そんな…。隼にうつっちゃうじゃん!」

「遊里が楽になるならそれもありだね」


 きゃーっ! もう、みんな聞いてくれた!?

 私の心がキューンッ♡てしちゃったんだけど! 何なの!? この王子さまは!!

 もう全部曝け出して食べて欲しいくらいカッコいいんだけど!!


「もしかして、お腹すいちゃった?」

「え…あ、うん」

「じゃあ、少し早いけど、ご飯にしよっか」


 隼は私の方を見ながら、素敵な笑顔でそう言ってくれた。

 私はダイニングチェアに腰かけ、料理をしている彼氏を肘をつきながら、見ていた。

 何だかちょっと嬉しくなってきたかも……。




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