終末を迎えた世界で、私は出会った。

伏谷洞爺

プロローグ 回想――私が目覚めた日。

 回想――目覚めた時の私。

 瓦礫の下から這い出すと、真っ暗だった視界に突如として光が差し込んでくる。

 男は顔をしかめ、眩しさから逃れようと顔の前に手をかざした。

 次第次第に、眼前が開けてくる。それと同時に、男は戦慄した。

 目の前に広がる、悲惨な光景。凄惨な景色。

 累々と横たわる死体、死体、死体。死体の山。

「な、んだ……こりゃあ」

 男は呆然と呟く。何があったのか、何が起こったのかわからないまま、立ち尽くす。

 彼にできる事と言えば、それだけだった。

 弔いやはなむけなどという発想が生まれたのは、初めてその光景を見てから三日後の事。

 三日間、彼は歩き続けた。行けども行けども、広がる景色は変わらない。

 あたりに漂うのは、ただ死の匂い。血と、何かが腐ったような異臭が鼻を突く。

 どれくらい歩いただろうか。空腹を訴える腹の虫が鳴き始めた。

 その音で、自分がようやく何も食べていないのだと思い至った。

 立ち止まり、あたりを見回す。しかし、食べられるものがあるとは思えなかった。

 何かないだろうか、と体中のポケットを探る。けれど、食べ物は見付からない。

 代わりに出てきたのは、一枚の紙片。

 それは、新聞の記事を四角く切り抜いたものだった。

 

 一九八四年。世界は崩壊を迎える。

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