転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件
きんちゃん
美少女に転生!?
1話 しがない人生でした……
(あ、俺、今から死ぬんだな……)
今まで感じたことないほどスローモーションに流れる景色を見て、俺は確信した。
迫り来るトラックの眩しいヘッドライト。そばにいる同僚たちが伸ばす手と悲鳴。そしてスローに流れる時間と同様にスローにしか動かない自分の身体……これは間違いなく車道を走るトラックに轢かれて即死だな。
状況を把握した時、そこに疑いの余地はなかった。
スローモーションのままトラックは俺の身体にぶつかり、スローモーションのまま俺は10メートルほど吹き飛ばされた。
着地の瞬間、頭をしたたかに地面に打ち付けたが、予想に反して即死ではなかった。
(……走馬灯って本当に流れるんだな)
痛みは全く感じなかった。
それよりも、産まれてからの全ての記憶が頭の中に流れ込み、高速で流れゆくような感覚がとても気持ち悪かった。
まさか俺の頭にこんな高機能が隠されているとは思いもしなかった。普段からもう少し……せめてこの10分の1くらいでも能力を発揮出来ていたら俺の人生はもう少しマシだったのではないだろうか?
まるで他人事のようにそんなことを思っていると、そこで俺の意識は途絶えた。
「あ、松島さん?
柔らかなソプラノの声が俺の名前を呼んでいた。
幼児の声のようにも思えたけれど、発音はとても綺麗でその言葉に迷うことはなかった。
ハッと気付いて、俺は慌てて起き上がる。
もしかしてここは病院で、俺は幸運にも一命を取り止め、看護師さんに呼ばれているのではないか?と思ったからだ。
だが起き上がろうと思い、動かしたはずの自らの身体にはなんの重さも感じなかった。
「あ、気付いたね。松島さん!」
俺の名前を呼ぶ主の姿を見た時、俺は目を疑った。
そこに居たのは白衣の天使ではなく、どう見ても本物の天使だったからだ。
少女のようなあどけなさと清らかさ、背中から生えた白い羽、眩いばかりに美しい姿はどう見ても天使でしかなかった。
「あ、松島さん!目を閉じても意味ないよ。とりあえず私の話を聞いてね!」
思わず目を閉じたのは天使という存在を信じられなかったからではない。実物の天使を目の前にしては、そんなのどう考えても疑いようがなかった。
天使が目の前にいるってことは……間違いなく俺が死んだってことだ!そんな事実を簡単に受け入れられるはずはなかった。
だって……俺の人生、後悔だらけだったから!せめて何か一つくらい良いことがあってから死にたかった。何か一つくらい思い通りになって欲しかった!
「……俺、本当に死んだんですか?」
だが俺は短い葛藤の後、すぐに現実を受け入れ天使ちゃんに質問していた。
自分でもこの現実的で諦めの早い性格が好きではなかったが、死んでからも性格は変わらないようだった。
「うん、死んだよ!死因はトラックに飛ばされて地面に叩き付けられた時のショック死だね!『全身を強く打って死亡』ってやつだよ!」
天使ちゃんはとてもハキハキと楽しそうに俺の死因を伝えてくれた。……まあ、別に天使ちゃんに悪気は無いのだと思う。単に俺の受け取り方がひねくれているのだろう。だって天使に悪意があったら、それはもう天使ではないもんね。
特に返す言葉も思い付かないので黙って聞いていると、天使ちゃんが言葉を続けた。
「でもさ、松島さんの人生は……本当にヒドイね!能力が特別低いわけでもないのに、ただただ性格が弱くて自己主張が出来ないせいで、全然自分のしたいことが出来なかったでしょ?」
「……え、まあ。……そんなこと分かるんですか?」
あまりに図星だったので俺はマヌケな声で問い直していた。
「そりゃあ、天使だからね!」
案の定、天使ちゃんはえっへんとばかりに胸を張った。
「でね、あまりに哀れに思った神様が『特例で松島さんは生まれ変わってやり直しても良い』って言ってるんだけど……どうする?」
「絶対にやり直したいです!お願いします!」
あんな死に方は嫌だったし、たかだか30歳で死んでしまうのならもっと好きなことに時間を使うべきだったし、他人から多少嫌われてでももっとやりたいことを優先しておくべきだった。
「あ、オッケー!じゃあ一応神様からの条件なんだけど、松島さんが来世では強い意志を持って生きてゆけるよう『強い願いがあったら生まれ変わらせてあげても良い』って言ってるんだけど、何か願いはある?」
「はい!もっと自分に負けない強い意志を持ちたいです!」
「あ、そういうのじゃなくて。もっと具体的に」
「はい!立派な仕事に就いて幸せな家庭を築きたいです!」
「ちがうちがう。それ松島さんが本当に思ってることなのかな?全然響いてこないよ?」
「え……?」
そう言われると、俺が本当にそれを強く望んでいるわけではないような気がしてきた。
立派な仕事も幸せな家庭も、まるで具体的なイメージが湧かなかった。
……こんな時でも就活の時に染み付いたテンプレみたいな言葉しか使えない自分に初めて気付いた。
結局、俺は自分のやりたいことすら自分で決められないのだろうか?
「あ、もう時間切れちゃうよ?何もないんだったら、生まれ変わりの話もなかったことになるけど?」
「あ、や、あります!あります!」
必死で頭を巡らせるが、何を言っても自分の本当の願いとは程遠いような気がしてしまう。でも、何か言わなくては……!
天使ちゃんのキョトンした顔がこちらを見つめている。
邪気の全くない表情が俺を苦しめる。当然だが、この子にとっては俺が生まれ変わろうと地獄に行こうと、どっちでも構わないのだ。
「『WISH』のために自分を捧げたかったです!」
咄嗟に俺の口から出てきたのは思ってもみなかった言葉だった。
「え?『WISH』ってあの大人気のアイドルグループの?」
天使ちゃんは俺の顔を覗き込み、ニヤニヤと笑っていた。
「そ、そうです!」
なぜ自分の口からそんな言葉が出てきたのか分からなかった。さっき街頭ビジョンでミュージックビデオが流れていたからだろうか?……もう俺はヤケクソだった!ダメならダメでしょうがない。普通なら生まれ変わるチャンスなんか無いのだ!自分が死んだことを受け入れるしかない。
「ふ~ん、そうなんだ。了解~。じゃあ、頑張ってね!」
天使ちゃんは最後までニヤニヤした顔を崩さなかった。
そこで俺の記憶は再び途切れた。
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