ラヂオな時間 -TWO WORLDS- (1)

@spaceblue

第1話 プロローグ「夜の港にて」

 そこは都市の港湾だった。

 時刻は夜。

 無数のビルの煌々とした明かりと、インクを流したような夜の色合いが対照的だった。

 「いい加減帰ろう。」

 今の海の色と同じ色をした四輪駆動車のそばに立っている青年が言った。

 「もう夜遅いし、明日は休日じゃない。休まないと体に毒だよ。」

 青年は漆黒の海を見続ける杖をついた男に言った。

 杖をついた男は言った。

 「こういう時間は必要なんだ。」

 車のそばの青年は首をかしげる。

 男は振り返りもせず、言葉を続ける。

 「こうして静かで、自分を見つめることができる時間がなければ、人は進むべき道がわからなくなる。見える風景が真っ暗闇でも時間があれば闇に目がなじんで、道が見えてくる。それに、」

 それに?青年は尋ねる。

 「多くの人がそうやって手探りで生きることをしてきた。そういう人たちを見習わないと。」

 青年はふと悟ったように男に問いかける。

 「それって、今まで出会ってきた人たちからの影響?」

 男は半身を青年に向け、

 「そうかもね。実は私もこの行為をこの仕事を始めてからやりだしたんだ。」と言う。

 青年は左手首にまかれた腕時計の文字盤を見た。

 「そろそろ本当に戻らないと。明日は早いよ。」

 男は渋々という面持ちで四輪車に向けて歩き出した。

 そして言った。

 「わかったよ。でもたまにこういうことはするから。」

 「やれやれ。」

 四輪車に乗り込んだ二人は車のエンジンを轟かせて港を離れていく。





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