『国民総順番化』

やましん(テンパー)

『国民総順番化』


 かつて、ナンバーマイ登録制度で失敗した政府は、致死率90%以上と言われた、新型熱病の世界的蔓延に乗じて、再び国民全コード登録に取り組み、こんどは、短期間で成し遂げてしまったのである。


 ま、だいぶ、対象者が減ったこともあるが。


 しかし、熱病の方は、新治療薬の開発で、比較的はやく、終息したのである。


 

     ・・・・・・・・・・


スーパー店長さん

 

 『さあ、みなさま、クリスマス大バーゲンです。はあい。欲しいものにチェックしてくらさあい。お届けは、全国順位になります。現在人口約七千万人から、あなたの社会的功績、地位、必要性、人気、年齢、健康状態などを、マザーコンピューターさまが決定した順位で、納品されまあす。全国だから、早いよう。品物もすぐなくなるよお。さあさあ、チェック、チェック。はあはい。みなさま、クリスマス大バーゲンです。はあい。欲しいものにチェックしてくらさい。…………………』



やましん


 『チェック、ってったって、年金で買えるのは、とうふそうめんと、きゃべつのみじん切りと、食パン5枚たけだ。はいよ。チェックと。』



 スーパーと言っても、商品はない。


 発注用の端末が、ずらりと並ぶだけ。


 料金は先払い。


 入荷したら、取りに来る。


 配達してもらうと、五割増になります。


 ただし、順位によって、待遇は変わるのだ。



やましん


 『はやあ。ごせんろっぴゃくななじゅうろくまんごせんにひゃくはちじゅうななばんめだとお。気の長い話だなあ。仕方ない。あら、もと、部長さんだ。こんちは、まだ、生きてましたか。』



もと、部長さん


 『それは、こっちのせりふ。』



やましん


 『あなた、何番目?』



もと、部長さん


 『余計なお世話だ。』



もと、部長の奥さん


 『まあまあ、顔見たら喧嘩ね。うちは、にせんまんばん台ですよ。』



やましん


 『はあ、速いんだか、遅いんだか。』



もと、部長の奥さん


 『まったくですね。結局、むかしのビスケットばっかり。やましんさん、長生きしてくださいね。』



 

もと、部長さん


 『けっ。おまえなんか、『おぼけクラス』だろ。はやく、死ね。』




もと、部長の奥さん


 『まあ。ごめんなさい。さいきん、認知症で。じゃ、また、どこかで。』



やましん


 『さよなら。』



  ふたり、はるかなかなたに、去ってゆく。



やましん


 『まあ、ここまで来るのに3週間。その間は、栄養カプセルばかりだしな。部長もえらそにはしていたが、大したことはないか。でも、あの人は、コンクリートのアパートだ。もっとも、元大統領さんとか大臣さんとかは、待ち時間なしで、なんでも、ただで、好きなだけ食べられるんだとか。まあ、しかたないかあ。言うだけばからし。帰ろう。』



 やましんは、公共渡し船に乗って、『一般スーパー島』から、自宅の『箱』がある、『一般三等住宅島』に向かったのだ。


 カプセルホテルみたいなもんだが、すべて、段ボール製である。


 段ボールの力は、証明済みである。


 地上50階建てだ。


 壮観である。


 エレベーターは、人力である。


 まあ、なんとか動く。


 降りるのは、飛び降りた方が早いが、あまり、やる人はいないみたいだ。


 調理室も、やはり、順番待ちだが、みな、あまり使おうとはしないから、わりに、早くて、みっかまちくらいである。


 お風呂は、厄介で、一年待ちくらいになるから、また、かなりお高いから、たいてい、夏は、海で代用する。


 トイレは、予約対象外だけれど、これが、なかなか、トラブルの元になる。


 冬場は、シャワー・スルーが人気だ。


 お湯のシャワーの中を、みんなで歩くだけだから、早い。


 一周20ドリムだが、年金生活者は、二周することは、まあ、ない。


 もちろん、ただ、ではありません。


 天気がよければ、元大企業社長クラスの人が住む、プレミアム島が見える。


 周囲は、海上保安隊の警戒船が巡回しているから、近寄れない。


 まあ、行こうと思う人も、稀であるが、たまに、自決しに行く人がいる。


 向こうから、呼ばれたら、話は別になるが。


        🚢


 なんでも、順番待ちの世界だが、最後だけは例外である。


 これには、順番待ちがない。


 最後の聖域と呼ばれる。


 あとかたずけも、早いが。


 

 夜になると、美しいお星さまが輝やく。


 プッチーニさまのアリアが懐かしい。




やましん


 『ぼくの愛は永遠に消え去った。』



 『おぼけさま』クラスのやましんが、珍しく、まともな事を口走ったが、誰も聞いてはいないのだ。



 メリー・クリスマス。



   ・・・・・・・・・・・



           お わ り


 


 


 


 


 


 





 

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