クールな年上彼女の歳を追い越したら昔は気づかなかった子供っぽさが見えてきてめちゃくちゃ可愛い
けい
本編
1.クリスマスをもう一度
第1話 クリスマスプレゼント
『十六歳の男の子と十八歳の女の子がいました。六年後にはそれぞれ何歳になっているでしょう』
なんてことはない。ただの足し算の問題だ。
正解は二十二歳と二十四歳。
――そうなるはずだったのだが、俺と彼女の場合はそうはいかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
時刻は深夜零時を回り、今日は十二月二十五日。クリスマスだ。
俺は毎年ある理由で、クリスマスの一日だけこの地元に帰っている。
星の数ほどのイルミネーションで彩られた街は、普段よりもずっと華やかだった。
駅前に飾られた大きなクリスマスツリーがひときわ存在感を放っている。
それとは対象的に、周囲には一人も人がおらず、商店街の店も全てシャッターが降りていた。
俺はため息をつく。
「ため息をつくと幸せが逃げちゃうよ」
頭の中で懐かしい声が聞こえた。
俺よりも二つ年上の彼女は、いつも俺が知らないことを教えてくれた。
彼女は聡明で、成績も常にトップレベルだった。それに加えて生徒会長も務めていたから、当然のように彼女は学校中の憧れの的だった。
彼女はいつも落ち着いていて、何かに動揺したり、ましてや照れた顔なんて一度も見たことはなかった。そのクールさがまた彼女の人気を後押ししていた。
そんな彼女と、どうして自分なんかが付き合えているんだろうと何度も思った。だけど、俺が聞いても彼女は俺を好きな理由を結局最後まで教えてくれなかった。
彼女のことが好きだった。大好きだったからこそ、俺はこの六年間、彼女を忘れることはなかった。
六年前の今日、彼女が忽然とこの世界から姿を消したその日から、俺は今日までずっと、彼女を探し続けている。
そのために、今日もここに来たんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
――六年前。
十二月二十四日、クリスマスイブ。
高校からの帰り道、俺と彼女、
彼女は制服の上から紺色のコートを羽織り、ベージュのマフラーを巻いている。そのマフラーの上には、よく手入れされた黒髪が垂れており、その毛先は少し内側にカールしていた。
長すぎず、短すぎもしないバランスの取れた髪型は彼女によく似合っていた。
「見て。
「本当ですね」
高校からの帰り道の途中、彼女が指を指した先には、きらびやかに装飾されたクリスマスツリーが立っていた。
地元の最寄り駅の前に例年飾られるツリーは、この街のクリスマスの風物詩となっている。
俺も子供の頃から見慣れた光景ではあったが、恋人と一緒に見るとまた違った景色に見えた。
「写真撮ろうよ。ほら、こっち来て」
「――ちょっ雪帆先輩?」
「ふふ。冬斗くん、こんなに寒いのに顔真っ赤になってる」
「雪帆先輩が大胆すぎるんですよ。恥ずかしいから撮らないで下さい」
「ごめん、もう撮っちゃった」
そう言って彼女はスマホを眺めている。多分、頭の中では満足気に微笑んでいるのだろう。
「冬斗くんはもっと私に慣れないとダメだよ。もう付き合って四ヵ月でしょ。ツーショットぐらいで照れてたら、この先どうなっちゃうの」
「この先って……」
「そう。この先。ってまた照れてる」
「照れてませんよ」
俺は彼女から顔をそらす。
先輩はこうやってすまし顔で俺のことをいじってくるから、俺としても対応に困ってしまう。
「どこまで先を想像しちゃったのかな」
「そんな想像してませんってば」
「ふふ。かわいい」
「またですか……雪帆先輩は僕がかわいいから好きなんですか」
「ん、それもあるけど……」
「先輩、男子は女子と違ってかわいいって言われてもそんなに嬉しくないんですからね」
「でもかわいいものはかわいいから、しょうがないよね」
今の自分がお世辞にもかっこいいとは言えないのは、自覚している。けれども、そう言われて確かにしょうがないなと引き下がれる性分ではない。
俺は自分で言うのも何だが、負けず嫌いなところがあった。
「だったら今度は『かっこいい』って先輩に言わせてやりますから。覚悟しといてくださいね」
「冬斗くんがかっこいい系になる……一体何年かかるんだろう……」
「ちょっと先輩? 酷くないですか?」
「ごめん。冗談だよ。かっこよくなった冬斗くん、楽しみにしてるね」
全くこの先輩は……俺が年下なのをいいことに好き放題言って。別に嫌とは言ってないけど。
そんな他愛もない話をしている内に、彼女の家の前に到着した。
「あれ、もう家着いちゃった。クリスマスプレゼントは明日のデートで渡すね。楽しみにしてて」
「俺からも明日渡します。ツリーの下で待ち合わせですよね」
「そう。遅れないでね。また明日」
「はい。また明日」
彼女は俺が見えなくなるまで見送ってくれた。
――翌日、ツリーの下に彼女は来なかった。
連絡も取れず、警察に通報して、何日も探しても、彼女が消えた時間も、場所も、理由も、何もわからなかった。
クリスマスに女子高生が行方不明になった、というセンセーショナルな話題は、即座にニュースに取り上げられた。
彼女の両親や、俺にまでも取材が来たみたいだったが、そのときのことはあまり覚えていない。
少しでも気を抜けば、体が空中分解してしまいそうな感覚の中、俺は何日も、声が枯れるまで彼女の名前を呼び続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
――それから六年の時が過ぎた。
この六年間、彼女を探し続けた。けれど、いくら探し続けても結局得られる結果は彼女がもうこの世界にいないという事実だけだった。
俺はツリーの前で、あの日彼女が撮った写真を眺める。
「ちょっとブレてるじゃないですか」
俺は小さく呟く。この写真を撮るとき、もしかしたら彼女も少しドキドキしていたんじゃないか、なんてことをこの六年間何度も考えてはすぐに否定するのを繰り返していた。
結局、彼女の本心はわからずじまいだった。いや、素直になれていなかったのは俺も同じか。
終電の時間になった。翌日も仕事があるので、この最後の電車で自宅に帰る必要があった。
「行くか……」
今年も例年通り、何が起こるわけでもなかった。
クリスマスの夜に何かが起こることを期待したところで、こんな良い子でも何でもないただのくたびれた大人には『プレゼント』など届くはずがないのだ。
――そう思っていた。
「――ごめん冬斗くん。私としたことが遅刻を……あれ、どうして夜に?」
ついに幻聴が聞こえたと思った。
「それはスーツ……? これは、何が起きて……?」
顔を上げた先にいたのは、あの日と全く変わらないままの、彼女の姿だった。
「遅すぎますよ……雪帆先輩」
気づくと俺は、彼女を抱きしめていた。対して変わらなかった身長も、いつの間にか彼女を少しだけ抜いていた。
きっと今の俺は涙でひどい顔をしているだろうけど、そんなことは構わなかった。
ただ、会えたことが嬉しかった。
人生で初めて、嬉し泣きをした。
ハグを終えた彼女は、頭の処理が限界を迎えたのか、珍しく顔を真っ赤に染めていた。
「いきなりそんなにかっこよくなってるなんて、聞いてないよ。冬斗くん……」
「先輩に『かっこいい』って言わせるって言ったじゃないですか。六年もかかっちゃいましたけど」
六年越しに受け取ったクリスマスプレゼントは、彼女のとびきりの照れ顔だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『十六歳の男の子と十八歳の女の子がいました。六年後にはそれぞれ何歳になっているでしょう』
そんなわけで、この問題の正解は、二十二歳と十八歳となってしまった。
これは、年齢差が逆転してしまったカップルが恋をやり直す物語である。
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