残念美人なお姉さんは、イケメンゲーム機に恋をする。

真白よぞら

1 転生って……ゲーム機にかよぉぉお!!

「若くして死を迎えた悲しき少年よ、儂からのささやかな贈り物じゃ。転生させてやろう」


 フィクションでよく見る神らしき風体の老人は空の上のような空間で、1人の少年――向井悠貴に語りかけた。

 

 悠貴は生前、これでもかというくらいどっぷり二次元の沼にハマり込んでいた。それ故、転生と聞いて今にも小躍りしそうなほど舞い上がっていたのだが……。



 ☆☆☆



「ただいま! ゲーム機どこ?」

「おかえり、まずは手洗いうがいでしょ? ゲーム機は机の上よ」


 勢いよく帰宅した小学校低学年くらいの男の子、早乙女蓮さおとめれん


 蓮は母の言葉も聞かず、一目散でリビングの机へと足を運んだ。

 触りたくて仕方なかったのだろう。この悠貴ゲーム機を。


(転生って……ゲーム機にかよぉぉお!!)


 転生と聞いて、勇者にでもしてもらえると思っていた悠貴。だが、現実はそんなに甘くなかったようだ。


 転生先がランダムで選出されるクソルール。悠貴は、蓮に雑に扱われながらこのクソルールを恨んでいた。


(あのクソジジイ、今度あったら絶対に文句言ってやる)


 悠貴の怒りはどこに届くこともなく、ひたすらあちこちをこねくり回される。


 ゲーム機に転生。つまり無機物に転生したわけだが、タチの悪いことに神経が通っている。スティックを回されればつねられたように痛いし、ボタンを押されればデコピンをされたように痛い。


 そして何より、画面を触れられれば指紋が付着して、今まで感じたことのない強烈な何かに襲われてしまう。


(んんん……ゴワゴワするぅぅう! こいついい加減画面拭けよ!)


 痛くも痒くもない。ただ何故かごわごわする。生きてる時には決して指紋でゴワゴワ苦しめられるなんて特殊プレイは存在しなかった。


 この苦痛に耐えかねた悠貴は、ゲーム内に自分をデータとして創造し、直接訴えかけるという奇策に出た。


 最初は怪奇生物同士を争わせるゲーム【ポッケカイキー:ポケカイ】の、対戦相手として参戦。


 常に悠貴としかエンカウントしないうえに、『画面はこまめに拭こう!』と意味の分からないことを言ってくるので、怖くなった蓮にカセットを廃棄された。


 次は大乱闘するゲーム【スパイクシスターズ:スパシス】の、プレイアブルキャラの1人として参戦。


 プレイ人数などをフル無視し、毎戦登場して圧勝。スキップ出来ないカットインで、『画面を拭くと気持ちいいなぁ』などと供述。怖くなった蓮にカセットを破棄された。


 諦めずに次は怪物を狩るゲーム【カイブツーハンター:カイハン】の、怪物として参戦。


 蓮が操るキャラを、『画面を拭けぇぇええ!!』と吠えながら、執念深く追いかけ回す。カセットが3本続けて怪奇現象を起こしたことを理由に、制作会社が蓮の親に告訴された。


(ダメだ……転生して1週間。もう行くとこまで行ってしまった。こいつに拭くって概念があると思っていたのが間違いか?)


 悠貴は覚悟した。下手すると本体にも怪奇現象が起きたと錯覚して捨てられる可能性すらある。だが、やるしかなかった。


(流石に大人なら、この汚さが目に付けば拭くだろ)


 自分の体をチカチカと発光させて保護者の視線を惹き、指紋汚れを発見してもらう。これが悠貴の考え得る限りの最善策。

 いつも、ゲームを没収するだけで注視しない親も、流石に画面がひとりでに光ったり消えたりしてたら見るはずだ。


(頼む……破棄されてもいいからこのゴワゴワから解放してくれ――)


 一世一代の大勝負に挑もうとした瞬間、ゴワゴワに侵食され荒んだ悠貴の心に、一筋の光が差し込んだ。


「蓮、今日の夜ゲーム機借りていい?」

「いいよ姉ちゃん!」


 ゲーム機の画面悠貴の目にはパンツスーツに身を包んだ巨乳のお姉さんが映っていた。

 腰まで伸ばした黒髪。大人びて見える整った容姿は、誰もが口を揃えて美人と言うであろう。


 ゲーム機越しに見るローアングルのお姉さんのたゆんとした胸にしか目がいかなくなっている悠貴は、完全に機能停止状態。当然、蓮がプレイしているゲームはフリーズしている。


「固まっちゃった! もういいよ、はい! 外で遊んでくるね!!」

「夕ご飯までには帰っておいでよ、ありがとね」


 子供というものは、思い通りにいかなくなったらすぐに投げ出すのだろうか。だが、悠貴にとっては好都合。ゴワゴワから解放される瞬間が早くやってきたのだから。


(この美女に拭いてもらうしかない……!)


 悠貴の覚悟は凄まじいものだった。先ほどまでは賭けに出るつもりだったが、巨乳お姉さんの存在を知ってからの悠貴は違った。


 今までのストレスを、下心で浄化しようとしているのだ。



 ☆☆☆



「さて……と! 夜にゆっくりと思ってたけど、チュートリアルは済ませますか」


 自室でひとりごちる巨乳お姉さん――早乙女恋子さおとめこいこ


(新しいカセットでも買ったから弟に本体を借りたってとこか?)


 差し込まれたカセットを念入りに解析していく悠貴。


【私立プリンス学園 〜マイプリンセスに甘美な口付けを〜】


 タイトル画面から悠貴は察した。


(乙女ゲーか……)


 同時に、四天丼(ゲーム会社)って乙女ゲー出してるんだ。とも感じていた。


「むふふ……楽しみにしてたんだよねぇ! さぁさぁ誰に癒してもらおっかなぁ」


 キラキラと瞳を輝かせ、オープニングムービーに登場する美男子たちを舐め回すように観察する恋子。


(俗に言う夢女子ってやつか? なら扱いは楽そうだな)


 悠貴は確信していた。この手のタイプは、地味に見える男子に希望を抱くのだ。

 そのことを踏まえ、悠貴は華やかさの少ない草食系王子として参戦している。


「――決めた! この子だぁ!!」


 オープニングムービーを見終えた恋子は、迷うことなくスティックを動かした。


【草食系王子様……ユリオス・リリー。自分に自身が持てず、奥手な彼。あなたの慈愛で彼は変われる――!?】


(ふっ……選ばれるなんて容易いことさ)


 狙い通りに選ばれて勝ち誇る悠貴。


「一見地味なキャラは大体どう転んでも良い展開になるのよ(恋子調べ)! 華やかなイケメンはライバルキャラに寝取られたりする展開があるけど、このタイプのキャラならきっと安心ね。このゲームのあたりキャラはこの子だと思う!」


 早口で分析を進めていく恋子に気圧されながらも悠貴は、学園指定の王子様のような白のブレザーを羽織って、さっそく最初の出会いイベントに備えた。



 ♡♡♡



【あの……プリンス学園にはどのように行けばよろしいでしょうか?】


 1番目の選択肢が打ち込まれる。これは、4つの選択肢からプレイヤーが選択して話を進めていくマルチエンドの乙女ゲー。


『あ……えと、僕も、生徒なんで……一緒に? あ、すみません! すみません! 僕なんかとは嫌ですよね……』

【いいえ、助かりますわ! 是非ご一緒させてください】


 悠貴には、草食系男子の演じ方など分からない。だから、悠貴なりの解釈でそれっぽく演じている。


「くぅう! オドオドしててかわいい!」

(ふぅ……草食系ってこれで良いのか?)


 画面から見えるローアングルのお姉さんの満足具合から、最適解じゃなくてもこれでいいやと演技を続けた。


【ところで、さっきから何をしてるんですの?】


 ある動作をするユリオスに、恋子はこの選択肢をぶつけた。


『あ、すみません。目障りですよね……でも僕画面が汚れてるのが苦手で、拭かないと気が済まないんです……』


 こんな展開、正規版ではあり得ない。もちろん悠貴のオリジナルシナリオ。


 スマホの画面を拭き続けるのをアピールして、「あれ? そういえばこのゲーム機も汚れてるな……拭いとこ」ってなるのを待つ作戦だ。


【あー、分かりますわ。わたくしも汚れた画面は好みませんの】

 

 この選択肢ももちろん悠貴が用意した。


「なにこの展開……」

(流石にダメか?)


 怪訝な表情で画面を凝視する恋子。だが、悠貴からは胸のせいで顔が半分しか見えていない。

 

「この展開……斬新すぎる! 伏線!? 伏線よね!?」


 腰掛けたベッドに、ゲーム機を前に突き出した状態で横に倒れる。


「シナリオ作家さん的に、こんな露骨な伏線を張るとは思えない。キャラ付け? とも思った。でもここまでくどいと1周回って伏線だと思えてきた」


 今度はゲーム機を上に突き上げ仰向けになり、足をバタバタとさせる恋子。手を滑らせて顔にゲーム機が落ちたら、スマホの比じゃないくらいに恐ろしいことになるやつだ。


「くぅ……これは選択肢どれだぁ? 1個のミスでとんでもないことになる気がする……」

(いいえ? どの選択肢で進んでも、画面拭いてエンドのみです)


 しばらく画面を見つめたまま長考する恋子。すなわち悠貴と見つめ合う状態になっている。


 美人に見つめられるのに慣れていない悠貴は、本体を激しくほてらせた。


「――ご飯よ〜!」

「え、もうそんな時間!? つい無心でやってた……また会いに来るね、ユリオス様♡」



 ♡♡♡



 その日、悠貴ゲーム機が起動されたのは、23時を過ぎた頃だった。そして、2時を迎える頃には……。


『愛してるって……言ってもいいかな? マイプリンセス』

【嬉しい! ……私も愛してますわ!】

「きゅん! ユリオス様が! ユリオス様が! 遂に堂々と振る舞ってくれてるぅぅう!! 尊いぃぃいい!!」


 パンツスーツからスウェットに着替えた恋子は、印象が違っていた。が、胸はスーツの時より強調されていた。


「はぁぁあ……体感5秒! 学園生活楽しすぎ……あぁこの世界に行きたい……社会人辛すぎ……大体なによ! え、その歳で彼氏もいないの? って! いるわよ! ただ他の人と違って同じ次元にいないから会えないだけ! もう! 癒してぇユリオス様ぁ!!」


 目からハイライトが消え、急に病み出した恋子。「いや、それ社会人関係なくね?」と思ったその時、悠貴は気付いた。


(この世界に行きたい……? そうか、その手があったか!)


 画面に映し出された吹き出しが消え、静止画状態だった悠貴がぬるぬると動き出す。


「え!? え!? え!?」


 このゲームに、キャラが動く仕様は適用されていない。唯一動くのはオープニングムービーくらいだろう。だが現在、悠貴もといユリオスは滑らかに恋子を誘惑していた。


『辛そうだね? マイプリンセス。今宵は僕が癒してあげる、だから……僕の手を取って?』


 跪き、右手を差し出すユリオス。ウルウルとした瞳に、恋子は胸打たれたのか、コントローラーを握る手がプルプルと震える。


【Bボタン連打でユリオスの手を取る】


 テロップが画面下に表示される。乙女ゲーであまり指示されないであろうボタン連打。


「ボタン連打? 乙女ゲーで?」


 さすがの夢女子脳も、ボタン連打には戸惑ったようだ。だが、悠貴はこれくらいでは諦めない。ようやく掴みかけたチャンス、こんなところで逃してなるものかと追い討ちをかける。


『僕……のこと、嫌い……かな?』


 そっと、Bボタンに親指が触れる。


「好きに決まってるぅぅうう!!!」

(だろうな)


 堂々と振る舞えるようになったユリオスが、プリンセスだけに見せる弱い部分。こういうのが好きなんだろ? と言わんばかりに、悠貴は心の中でほくそ笑んだ。


 優しく触れていたBボタンを、親の仇のごとく連打していく恋子。ゲーム機そのものである悠貴からしたら苦痛。だが、必死に堪えていた。


(痛い、痛すぎる……が! 俺の仮説が正しければこの女はゲームの世界に飛ばされる! 俺は特異的な存在、そんな俺がゲームを改ざんしたんだ。俺の思い通りになってくれ……それくらいのチートは積んでてくれよ?)


 痛みのあまり、何度もデータを飛ばしそうになる。人間の状態だと、何度もみぞおちを殴られ気絶しそうなイメージ。


(……っ! 耐えてくれゲーム機俺の体!!)

「ユリオス様ぁ! 今、手を取りますぅぅ!」


 ――恋子が言った時だった。


「「……!?」」


 ユリオスと恋子。本来、決して触れ合うことの無い2人が触れ合い、お互いの顔と顔が今にもくっつきそうなほど近付いていた。


「ん? んん!? ユリオス様が目の前に!? というか手! え、寝落ちした!? 夢? 明晰夢!?」


 ユリオスから視線を逸らした後、先ほどまで静止画だった華やかな洋風な校舎を見上げる。

 予想外の出来事に、大慌てする恋子。だが、ユリオスから離れようとはしなかった。


「っしゃ! 狙い通り!」

「……ユリオス様?」

「よく聞いてね? マイプリンセス」

「はいぃ♡」


 間近でされたユリオスのガッツポーズに戸惑う恋子だったが、ゼロ距離でのお願いに、顔をとろけさせる。



 ♡♡♡



「……つまり、運悪く若くして亡くなったあなたが転生させてもらえたけど、運悪くゲーム機に転生してしまって、指紋だらけが嫌で試行錯誤を繰り返していた?」

「そゆこと! 代わりに画面拭いてくんない?」

「ユリオス様のキャラブレが……でもそれもまた良き……!」


 乙女ゲーをメインにプレイする恋子と言えど、さすがに理解が早かった。最近の乙女ゲーは転生系もあるらしいからそれが功を奏したのだろう。


「ついでに、弟君にこまめに画面拭いてって頼んどいて?」

「分かりましたユリオス様! ……けど、さすがにゲーム改ざんは2度としないで? うちの親、理不尽にキレるただのクレーマー扱いなので……」


 遠い目をする恋子。四天丼とかなり揉めたようで、苦労したみたいだ。


「それは、ほんとすんません」

「いい! しょんぼりとするユリオス様……儚げで尊い!」

「はいはい、眺めるの禁止! 弟君によろしくね? マイプリンセス」


 恋子を適当にあしらうユリオス。そして、茶化すように恋子のあたまを撫でた。


「幸せ……あ、でもでも! どうやって戻るの? ゲームの世界なんでしょ? ここ」

「行きと一緒でBボタン押せばいいんじゃない?」


 戻り方については考えていなかった悠貴。そのことに、恋子から指摘され初めて気付いた。


「えっと……Bボタン無いんだけど?」


 恋子の言葉に、ユリオスはキョトンとする。

 そして、恋子の胸元を指差し……。


「いや、そこにあるじゃん。チクBボタ――」

「やめて? ユリオス様の顔でそんなこと言わないで?」


 ユリオスの言葉は、語気強めの恋子に阻止されてしまう。


「んなこと言っても生まれた時からこの顔だからなぁ」


 そう、悠貴は乙女ゲーに馴染むために変えたのは服のみ。顔は自前なのだ。普段上げている髪を下ろして地味に見せていただけ。元からそこそこのイケメンという存在なのだ。


 悠貴もそのことを自覚している。だから決戦の場が乙女ゲーでも臆さなかった。もちろん正規プリンスと比べれば劣るが、属性を加味すれば平等に渡り合える。


「え、生まれつきユリオス様?」

「そだぞ? パケにいなかっただろ? この顔」


 自分の記憶を遡るように視線を上に向ける恋子。


「確かに……? でもユリオス様が下ネタを……肯定し難い。けど……肯定しちゃうぅぅ♡」

(こいつはもうダメだぁ……)


 恋子を可哀想な人を見る目で憐れむ悠貴だが、どうやって現実世界に戻すかを考えていた。


「――ゲームのタイトルを思い出すが良い……悲しき少年よ」


 纏まらない思考を纏まらせるように発せられた声。不思議そうに声の主を見る恋子だが、悠貴は聞き覚えがあった。それは……。


「テメェよくも俺の前に面出せたな、ジジイ! 無機物なんかに転生させやがってチクショウ!」

「仕方ないじゃろ? 運次第なんじゃから。だが……儂は大当たりだと思うんじゃがなぁ」


 神様風の老人。その老人は、歪な形の杖を手の平の上でバランスをとりながらウロウロしている。


「では儂はもう言いたいこと言ったし消えるとするかのう」

「あ、待て……!」


 フラッと現れ、フラッと消えていった神様風の老人。


「今の人って?」

「俺を転生させた張本人だ」

「不思議な人だったね……でも、戻り方は分かったね!」


 恋子はこう言うが、悠貴は全然分かっていなかった。


(このゲームのタイトルは確か、【私立プリンス学園 〜マイプリンセスに甘美な口付けを〜】だったか? ダメだ、さっぱり分からん)

「え? もしかして分かってないの!?」

「おう、さっぱりだ」


 残念そうに肩を沈める恋子は、次第に頬を染めながら言った。


「口……付け……」

「ん?」

「だから! 口付け! キスだよ!」


 察しの悪い悠貴に痺れを切らし、声を荒げた恋子。


「ほら、どんな世界でも王子様のキスはお姫様を救うでしょ?」

「あー、なるほどな。キスってのは万能なんだな」


 理解してからのユリオスの行動は早かった。


 そっと恋子を抱き寄せ、優しく唇を重ねる。

 口から伝わる温もり、速くなるお互いの鼓動。


「童話のプリンセスたちも、こんなにドキドキしたんだろうか」悠貴はそんなことを考えて気持ちを紛らわせた。


「ちょ――っ! 躊躇なし!?」

「ゲームの世界なんて、体にどんな負担かかるか分からないでしょ? 僕は君が心配なんだ。マイプリンセス」


 前置きなしに奪われた唇を、手のひらで覆うようにしながら訴えかける恋子。そんな恋子に悠貴は、ユリオスとして接する。


「……バカ! もう遊んであげないからね! バーカ! バーカ!」

「画面を拭いてくれさえすればそれでいい。愛してるよ、マイプリンセス」


 頬を染める恋子は、何かを言おうとした瞬間に、ユリオスの前から消えた。



 ♡♡♡



 ゲームの世界に恋子を引き摺り込んでから1週間が経った。

 あれから蓮は、ゲーム機を触る前と触った後の2回、丁寧に拭き上げる。


 そして恋子は……。


「また来ちゃいましたぁ! ユリオス様ぁ♡」

「おい、もう遊ばないとか言った次の日からずっと来てるじゃねぇか!」

「だってぇ、体に異常なかったし? 癒して欲しいし? 性格はアレだけど顔をはいいから?」


 恋子は毎日、仕事の疲れを飛ばしに夜な夜なBボタンを連打してプリ学に行っては、キスを強請って帰っていく。


(指紋地獄から解放されたと思ったら次は夢女子地獄か……まぁ、指紋よりはマシか……)


 我が物顔でユリオスの手を握る恋子を、呆れたように見据えて。


「分かったよ、とことん付き合ってやる。さぁ、学園へ向かいましょうか、マイプリンセス?」

「ユリオス様しゅきぃぃいい!!」


 ユリオスの腕にグッと胸を押し当てる恋子を横目で見ながら、悠貴は思ってしまった。


(ゲーム機に転生してよかったわ)

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