ミラクル・クリスマス

吉祥 昊

不審者

2021年12月24日23:58



「ただいまー…って誰もいないんだった」


クリスマス・イブだというのに今日も今日とて仕事三昧ざんまい。しかも一人暮らし。こんな生活やってられるかっ、と今日はやけ食い用のケーキをワンホール買ってきた。………あれ、余計むなしい。


スマホのライトを頼りに部屋の照明スイッチを探す。引っ越したばかりなのでまだスイッチの場所すら把握できてない。そうこうしている間にロック画面が"0"を3つ映し出した。日付変わったじゃん。

はあ、と盛大なため息を吐いて部屋の明かりをつける。


「……え」


部屋の真ん中に知らない男がいた。怖い怖い怖すぎる。ぼーっと突っ立っていた男が私の声に反応したのかこちらを振り返り、


「え?」


と私を見て一言呟いた。

いや、え?じゃなくて。あなた誰ですか。家に帰ったら知らない男がいましたってそんな展開ある?


「あのどちらさまですか?」


一応この男が不審者だった場合(というか100%不審者だけど)、下手に刺激してはいけないと思い、丁寧な口調で情報を聞き出してみる。


「いや、そもそもここどこ……というかこの人…」


なんかブツブツ言ってる!怖い!!本当に不審者じゃん!危ない人なんじゃないの?

え、待って待って。こっちに近づいてきてる!?


「や、やめてください!!!警察呼びま…え?」


近づいてきた男に怖くなった私は防衛本能で両手を前に突き出した。つまり今男の胸辺りに私の手のひらが当たっている、はず…本来ならば。


「うわあ、どうなってんだこれ!?」


本来、男に当たるはずだった私の手は彼の身体を突き抜けていた。正確に言えば私には男を触っている感触が何も無い。ちなみに男は透けているわけではない、一見そこに実際にいるかのような見た目をしている……触れないけど。


なんでこんなに冷静に分析できているかというと、私よりテンパっている男がいるから。

どうしてあなたが私より驚いてんの?というかどんなクリスマスだよ…。


サンタさん、もしかしてこれがクリスマスプレゼントですか?もしそうなら、私、サンタさんの気にさわるようなことを何かしてしまったんでしょうか?


あぁ、唯一の救いは明日…というか今日が休みってことだけだ………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る