君に継ぐ
アネモネ
第1話 君に継ぐ
「あたしには人の心を揺さぶるような小説は、一生かけないんじゃないか。」
君はよくそう話していた、賞に落選するたび、何度も何度も。もう聞きすぎて、逆におまじないのつもりなんじゃないかと、君とのストーリーの後半部分では流し流し聞いていた。そうはいったって、君は筆を走らせて、手を休める気配はなかった。君の真剣なまなざしと、白くて耳のながい、おいしそうな名前のついているキャラクターのシールが乱雑に(本人はこれがセンスだと言っていた)張られたペンはなんとも対照的で、面白味があり、なにより愛おしかったのが記憶に新しい、いや、何年時が過ぎたとて、ずっとずっと記憶の一番最初にいると思う。本を読んでいるふりをして横顔を眺めていたなんて知ったら、なんていうかな。気持ち悪いなんて、言われていたかもしれないな。そうやって言われることの方が多かったから、僕は一人で泣いたりなんてしない。泣くときは、君が(モラルを持ち合わせていたとしたら)入れないように男子トイレに駆け込むことに決めているんだ。
なんて、僕の得意じゃないジョークが浮かぶほどには元気です。僕の心の内が、みえない君とつながっていればいいのに、
君に継ぐ アネモネ @anemonenohana
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