繋がる気持ち
「和希?」
「……なあ霞、ちょっと話しようぜ」
「? 分かった」
霞から離れ、俺は部屋の真ん中に置かれた机の前に腰を下ろした。
向かい合うように霞が座る……かと思ったら、あっと気づいたように俺の隣に移動して来た。
「そっちじゃないのか?」
「ん、和希が傍に居るのに離れる理由が分からない」
……ということらしい。
相変わらず距離感がバグっている幼馴染に苦笑しつつ、俺は少しだけ昔を思い出すように口を開いた。
「さっきさ、アルバムを見てて色々と思い出したよ。本当に俺と霞は昔一緒に居たんだよなって」
「そうだね。本当にずっと一緒だった」
霞も昔を思い出すように目を閉じた。
今でも思い出せる霞との日々、ずっと楽しかった。本当に楽しかった。けれど俺が勝手に霞の傍から離れて、そんな日々は唐突に終わりを迎えた。
アルバムに写っていた霞の笑顔が途切れたのは間違いなく、俺が霞の傍から居なくなったからだ。
「……本当に悪かった」
「本当だよ。でも、もういい。もう謝ってもらったから」
俺に目を向けて霞はそう言った。
このことに関してはもうお互いに話をして解決していることだ。ウダウダ考えても仕方がない、だから俺は前に進みたいと思った。
「和希、本当にどうしたの?」
「……あはは、まあちょっといつもと違うよな」
色々と気づけたというか、整理が出来たというか……。
俺は見つめてくる霞の目を見据え、自然と言葉になって出てくる言葉を伝えることにした。それがきっと、俺の心からの言葉と思うから。
「霞とまた話すようになって、結構な時間を過ごしたと思う。といっても一月は経ってないけど、それにしても長い方だとは思うんだ」
「そうだね。短いけど長い……本当に濃い時間だったと思う」
そうだな、本当に濃い時間だった。
始まりは母さんの思い付きだった夕飯を作ってもらったこと、それから霞とちゃんと話をしてまた昔のように戻った。離れていた期間を取り戻すためにと、グイグイと距離感を詰めてくる霞に困惑をしながらも決して嫌ではなかった。
俺はそれが、彼女が幼馴染だからと思っていたんだ。
……でも、それだけじゃなかった。
「霞と一緒に過ごすことで……色々自分のことが分かったよ」
霞の気遣いを嬉しく思い、いつしか目で追ってしまっていたこと。
先輩の告白騒ぎの際、関係ないからと言われて胸が痛かったこと。
ずっと霞の傍に居たいと思っていた、その笑顔を守りたいと思っていた、勝手に離れて行ったクセにそのことに気づいて自覚した自分の気持ちに気づくことが出来た。
「霞は本当に綺麗で……思いやりがあって、自慢の幼馴染だ。でもやっぱりそんな霞の傍にこんな俺が居て良いのかって思うこともあった。霞は全く気にしないのに俺だけが気にして……それで霞を傷つけた」
「……それは」
「もう気にするなって霞は言ってくれたけど、やっぱり色々なことを考えるとそこに行っちゃうんだよな」
「……本当に良いのに」
そうだな、霞ならそう言ってくれると思っていた。
俺は見つめてくる霞から視線を外してもう一度考えてみた。もしかしたら、俺はそんな時間を過ごさせてしまったことに負い目を感じているのもあるだろう。でも、これから俺が言おうとする言葉にそれは不要なモノだ。
「……霞、俺は霞と一緒に居る時間が好きだ」
「あ……」
目を丸くした霞の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でる。
霞は困惑しながらも俺の手を受け入れ、何も言わずにジッと俺を見つめていた。結局周りの言葉なんて関係ないんだ。俺がどうしたいか、どうすべきかを考えることが大切だったんだ。
「俺は……」
誰かに流されるでもなく、俺自身の言葉で霞に伝えるんだ。
「好きだ。霞のことが好きなんだ」
一緒に過ごす中で、昔を思い出すのと同時に霞のことが気になっていた。
ずっと一緒に居たからこそ気づくのに遅れてしまった気持ち……俺はずっと霞の笑顔を一番傍で見たかったんだ。
「……和希?」
好きと伝えた俺に手を伸ばした霞はギュッと頬を抓った。
「いたたたたたたたっ!?」
思いの外強い痛みに声が出た。
俺の声を聞いて手を離した霞は、今度は自分の頬を抓った。
「……痛い」
「そりゃそうだろ」
それくらい赤くなるほど抓ったら痛いに決まっているだろうが。
頬をむにむにと揉んで痛みを和らげようとする霞に苦笑していると、霞がボソッと呟いた。
「……二年間、ずっと和希のことを考えてた。昔のように戻りたい、昔みたいにまた和希と話がしたいってずっと思ってた」
「うん」
「それはずっと一緒に居た和希が離れて行ったから寂しいだけだって……そう思ってたけど、そうじゃなかったの」
霞は俺の胸元に飛び込んできた。
頬を当てるように、両手も添えるようにただ俺に身を寄せてきたのだ。
「和希と離れていた時間が私に教えてくれた。私は和希のことが好きなんだって、だからこんなにも和希のことを想うんだって理解できたの」
「っ……」
……今更……本当に今更だ。
こうやって自分の気持ちを理解したからこそ、霞の接し方に男女間の好意が混ざっていたことに気付くことが出来た。
「私も和希が好き、どうしようもないほどに好き」
そう言って霞は満面の笑みを浮かべてくれた。
昔に何度も見ていた俺の好きな笑顔、しばらく見れなかった笑顔をまた見せてくれたのだ。
「……随分時間が掛かったけど、これからまた始めよう」
「そうだね。幼馴染から恋人として……新しい私たちを始めよう」
正直なことを言わせてもらえば告白にしてはムードもへったくれもあったもんじゃない。けど、何となくこういった形が俺たちらしい気もする。
「霞」
「わっ!?」
腕を伸ばして霞を思いっきり抱きしめた。でも決して痛くはないように注意をしながら、彼女の存在をこれでもかと体全身で感じるように。
「付き合うってのがどういうことかあまり分からないけど、これから色々と勉強していかないとだな」
「……そだね。やけに積極的じゃん和希」
「ここまで来たらな……だから霞のことをもっと教えてほしい。そうやってもっともっと好きになりたいんだ」
「……っ……和希は卑怯」
顔を真っ赤にした霞が小さな声だったが言葉を続けた。
「和希と一緒に過ごすようになって、おばさんとおじさんが帰ってくるまでの三カ月で私は和希を絶対に落とすって決めたの」
ほぉ、それは……でも、だとするとその通りになったんじゃないかな。
「なってないもん……どっちかっていうと私の方が即落ちだったもん」
「……そうか?」
「うん。和希と一緒に過ごす中でもう……落ちてたもん」
だとすると待たせてしまった感がしなくもないが……。
霞は俺から離れ、少しだけ潤んだ瞳を隠さずに俺を見つめ合った。
「和希、これからよろしくね。私をどうか離さないで」
「もちろんだ。絶対に離さない……もう離してたまるもんか」
そんな決意を表すようにもう一度強く抱きしめると霞は嬉しそうに背中に腕を回してくれた。そうやってしばらく失っていた二年間を埋め尽くすようにピッタリと引っ付いて離れなかった。
「……どうしよう和希」
「何が?」
「私が予想したよりも二カ月早かった……予定が狂ったんだけど」
「ならその分早く恋人として過ごせるってことじゃね?」
「……なるほど、和希は天才だね」
……やっぱり霞はちょっと天然だよね。
さて、取り敢えずはいい形に纏まって良かったと思う。
これから先どうなるかは俺と霞次第……だな。
こうして、俺に霞という大切な女性が恋人になった。
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