久しぶりに話をした幼馴染がグイグイ来る件
みょん
プロローグ
美人の幼馴染
「やっぱりさ。胸のデカい子ってのはそれだけで魅力的なんだよ!」
「……いきなりどうしたよ」
朝、まだ人の姿も疎らな教室で友人がいきなりアホなことを言いだした。
周りに人が居ないから良かったものの、これで他に大勢の人が居たらなんだこいつらと蔑んだ目を向けられること請け合いだ。
「和希は思わねえか?」
「……まあデカいのはいいよな」
ま、俺も一人の男だ。確かに大きなモノをお持ちの女性は魅力的だと思う。
俺の言葉ににんまりと笑った友人は肩に腕を回してきた。朝からこんな話題を提供してきた彼の名前は
アホな発言が多い奴だが、明るく話しやすくて良い奴だ。時折メガネをクイっと上げて女子に目を向ける姿は変態そのものだが悪い奴じゃないのは確かである。
「心の友よ。俺たちは似たモノ同士だな」
「……ここまで喜べない似たモノ同士はないけどな」
「それは言っちゃおしまいだぜ」
相変わらず騒がしいなこいつは。
まあ与人はこんな奴だけど友達は多く、俺にとっても共通の友人が多い。
「ちょい離れろって」
俺は首に回された腕を解き、鞄から勉強道具を取り出した。
すると、ちょうど一人の女子が教室に入ってきた。
「おはよう」
「あ、おはよう霞!」
友人たちと挨拶を交わし、その輪の中に加わった女子を見て与人が小さく息を吐いた。
「相変わらず美人だな白鷺は。おまけに乳もデカくて素晴らしい」
「お前いつか誰かに怒られろ」
「フフフ、本人に聞かれるようには言わないから安心しろ」
「……さよか」
周りに聞かれるのはそれはそれでどうなんだって感じだが……与人から視線を外して俺は今話題に出た女子に目を向けた。
大和撫子を思わせる黒く長いサラサラとした髪の毛、シミ一つない白い肌、目は柔らかく優しく見えるのだが、感情の起伏があまり見られない印象を相手に与える顔立ちだった。クラスに一人はいるであろう美人、それが正に彼女を示す言葉なのは言うまでもない……おまけと言っては何だが、与人が口にしたように制服を盛り上げる胸元は凄まじかった。
「あれはGは確実にあるぞ和希」
「聞いてねえよ……」
ええい、背中をバシバシと叩くんじゃない!
時に頼りになり時にウザい友人とじゃれ合っていると、ふと視線を感じたのでそちらに目を向けた。そこには相変わらず友人たちと話をする白鷺の姿があって……気のせいか。
「どうした?」
「いや……何でもない」
そうだな……あいつとは長く口を利いてないしそれはこれからも変わらないだろう。幼馴染なんてそんなもんだ……それに、俺があいつから離れて行ったようなもんだしな。
白鷺霞……彼女は俺にとってかつての幼馴染だった。
中学を卒業する直前辺りから話すことはなくなり、高校二年となった今でもそれは変わっていない。
「……ふぅ」
特に喧嘩をしたわけでもない、ただ自然と話をしなくなっただけだ。
幼馴染なんてものはそんなもの、体が大きくなって成長していけば自然と離れていくものなのだ。決して漫画やアニメのようにこの歳にまでなって仲が良いなんてことはない……それは俺と白鷺の関係が物語っていた。
時間は流れ放課後となった。
与人や他の友人たちに誘われ少し遅くまでカラオケで騒いだ。いつもなら家に帰っている時間であっても、今日は父さんと母さんが二人とも遅くなることを知っているからである。
「めっちゃ歌ったな。それじゃあ和希もまたな!」
「おう。今日はサンキュー」
「良いってことよ!」
与人たちと別れ、俺は薄暗くなった道を歩く。
今の時期は六月、そろそろ汗を掻く夏が来ると思うと気分が重くなりそうだ。夏より冬の方が好きな俺にとって、本当に夏は大っ嫌いな季節なのだ。
そのように夏について嫌な気持ちを浮かべていると、ようやく着いた家の前に人影があった。
「……誰だ?」
こんな薄暗い時に人影……?
まさか怪しい人間か? そんな風に少しビビった俺だったが、僅かに見えたシルエットから女性だということが分かった。
「まさか客? いやでも一体誰だよ」
こんな時に誰が……とにかく俺は家に帰らないといけないので近づいていく。
すると、ようやくその女性の全貌が見えることになり俺は大いに驚いてしまった。
「え? なんで!?」
「あ、やっと帰ってきた」
驚く俺を見つめ近づく女性……彼女は俺が通う学校の制服を着ていた。
「……白鷺?」
そう、白鷺霞……そこに居たのはかつての幼馴染でもある彼女だったのだ。
「……お母さんからのメッセージ見てないの?」
「メッセージ?」
急いでスマホを取り出して確認すると母さんからのメッセージが届いていた。内容は二度目になるが遅くなるので帰れないこと、そして夕飯を白鷺に頼んだというものだった。
「簡単にシチューでも作るから。ほら、鍵開けてよ」
「……いいのか?」
いや、正直突然のことでパニックだけど……白鷺は頷いた。
「うん。むしろ良い機会だったから……早く開けて」
「わ、分かった!!」
白鷺に急かされるように俺は玄関の鍵を開けた。白鷺は全く迷うこともなく靴を脱いでリビングに向かい食材を買い物袋から出した。その流れるような動作に俺は今更驚きはしない……だって昔はよく白鷺は遊びに来ていたから。
「何ジッと見てるの?」
「……いや、随分久しぶりだと思ってさ」
「……そうだね。どうして久しぶりになったのかな」
「えっと……」
何だろうこの空気……。
取り敢えず俺はリビングから逃げるように風呂場に向かった。風呂の掃除を簡単に済ませお湯を入れて準備を整える。
リビングに戻ると白鷺はエプロンを身に着けて既に調理を開始していた。
「包丁の場所とかちゃんと覚えてるんだな」
「当たり前でしょ。何回も来てたんだから」
「……そうだな」
「うん」
「……………」
「……………」
た、耐えられんこの空気……っ!!
母さんも母さんだなんでいきなり白鷺にこんなことを頼んだんだ? 確かに夜に一人の時はカップ麺が俺のお嫁さんよろしく相棒になるわけだが……それではいい加減ダメだってことで白鷺に頼んだのかな。
「風呂……行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
ササッとシャワーを浴びて湯船に浸かり、そこまで時間を掛けずに風呂を出た。
それから白鷺と話をすることもなく料理は完成しテーブルに並んだ。ホワイトシチューをメインに添えて俺の好きな魚のフライなども簡単に作ってくれたみたいだ。
「美味そう……」
「いいから早く食べて」
「お、おう……いただきます」
スプーンでシチューを掬い口に運んだ。
「……うっま」
濃厚なシチューの味、肉や他の具材の味もふんだんに引き出されており本当に美味しかった。少し白鷺の口元が緩んだ気もしたが、俺の気のせいだったのかいつもと変わらない表情に戻っていた。
「……美味いよマジで。その……ありがとうな?」
「ううん、全然いいよ」
「……………」
「……………」
……空気が死んでおられる。
早く食べてしまおう、そう思った俺の耳に白鷺の声が届くのだった。
「ねえ……和希」
「うん?」
「どうして……どうして私と話をしてくれなくなったの?」
久しぶりに名前を呼ばれたことも驚いたがそれよりも、そう聞いてきた白鷺の表情が俺にはとても強く印象に残った。
昔、俺の後ろを引っ付いて離れなかった彼女を幻視したからだ。少し早く歩けば待ってと泣いていたあの時の表情にそっくりだった。
「ねえ……どうして?」
「それは……」
突然の訪問に突然の質問……俺は白鷺の瞳に見つめられ完全に逃げ場を失っていたのだ。
さて、遅くなってしまったが自己紹介をしておこう。
【あとがき】
初めて幼馴染モノに挑戦しましたよろしくお願いします。
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