幕間

「……で、あんたはコミマの原稿やらないでなにやってるの」

「半分仕事で半分社会勉強」

「行儀悪いよ。いつになったらその癖治すの」

「だって時間ないんだもん」

「……ったく、親の顔が見てみたいよ」

「何度も会ってるでしょうが」

「そういう意味でいったんじゃないっつうの。とにかくあんたがそういう態度なら、明日から外食してきてよ。気分悪い」

「そっちだってあたしが料理作ったときはタブレットで他人の絵まじまじとみながらご飯食べるくせによく言うよ」

「自分がイラスト描いてるときに他人の絵見れないんだから仕方ないでしょ。ほかにゆっくり見るタイミングないんだから」

「つまりどっちもどっちじゃん」

「……むかつく。じゃあ残りの牛すじもらうから」

「なっ……、ず、ずるい! あたしまだ一本しか食べてないのにっ」

「食事に集中しないのが悪いんです~! あー、やっぱりおでんやで買ってきた本場のやつはひと味違うねぇ~!」


 おでんを突きあいながら、やいのやいの。

 大鍋に一本残っていた牛すじをかっさらった一軒家の主――鵺崎ぬえざき宙姫そらひめがしたり顔で頬張る。


「あ~も~っ! あたしが牛すじ好きなの知っててそういう意地悪するのやめてよ。性格悪い」

「そっちだって態度最悪じゃん」

「それはお互い様って話じゃん」

「ああ言えばこう言うの、性格わっる!」

「むかつく~! あんたみたいな年中イラスト描いてる自由人と違ってこっちは忙しい身なんですぅ~」

「こっちだって出版社とか編集者からばんばん納期指定くるっつうの。いつでも好きなタイミングでやりたいようになってるわけじゃないっつうの。つうかさ、そんなことやっててコミマ間に合うわけ?」

「……それは間に合わせるから。なんとかする。いまは仕事優先」

「去年もそんなこと言って結局ぎりぎり入稿だったじゃん」

「あれは仕方なかったの。そりゃあ数億円掛かってる案件と自分の趣味を天秤に架けたらどっちを優先すべきかなんて一目瞭然じゃん」

「じゃあ今回のは?」

「……たいした話じゃないけど、ちゃんとやらないと色んなところから怒られる」

「ちゃんとやらないと、って言うけどさぁ、そういうの残業にカウントしないわけ? どこぞの出版社の編集みたいなこと言ってるよ、あんた」

「……会社でやろうにも、できない事情もあったし」

「だからってなにも家に帰ってきてからやることなくない? 明日、早く会社行ってからやるとか、やりようあるんじゃないの?」

「……会社だと、ゆっくり取りかかれないし。こういうのはさ」

「……ねぇ。本当に大丈夫なわけ?」

「原稿は落とさないようにするから。そこは安心して。って、駄弁ってるとアレだし、部屋行く。後片付け任せるね。お風呂は明日シャワーで済ませるから」


 ごちそうさまも言わずビジネス書に目を落としたまま二階へ上がっていく辻村の、その背中を見送って鵺崎は小さく溜息を吐いた。


「そういう意味で聞いたんじゃないってば……」

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