HELP ME!!
寺音
王子について
これから始まる物語の登場人物について。
「助けて下さい」
「お礼はいくらでも差し上げます」
「あなただけが頼りなんです」
以上、三つの言葉が彼らの弱点である。
彼、リュミエール王子は知っていた。いずれ一国の王となる身、いつかは乗り越えなくてはならない壁があるということを。
「どうか、どうかお願いします。我が国の姫を憎き魔王の手からお救い下さい」
王子こうおっしゃってますが、と傍らの宰相に促され、王子は深々と頭を下げる隣国の使者へその深い青眼を向けた。
リュミエール王子の国『ミネルフィア』は農村などで少しばかり魔物の被害がある以外は、目立った争いのない平和な国だ。
しかし、それも長くは続かなかったようだ。
東に自国と国境を構える『フロンライン王国』。そこの姫が魔界から来た魔王にさらわれたのだという。
父がそろそろ引退という時に限って、とリュミエールは内心嘆息した。
フロンライン王国は自国では育たない農作物も多く育ち、ミネルフィア王国でも多くそれらを輸入している。
そういった意味でも今回のことは協力せざるを得ないだろう。
しかし、彼には問題が一つ。そのことが彼を躊躇させていた。それは彼が王子という、ある種特殊環境で育ったが所以の——
「どうか、どうか我らの姫を、助けて下さい」
しかしその言葉が、トドメとなった。
「分かりました、ぼ……私にお任せ下さい」
リュミエール王子は大きく頷いた。
城を出て半日。リュミエールは一人馬に乗り、目的地へと急いでいた。短く切った金髪が馬の歩みに合わせて揺れる。
情報によると魔王の城は国を出てから南に位置する森を抜け、そこから山を二つ越えた先、火山の麓にあるそうだ。
自慢の愛馬に乗っているとはいえまだ先は長い。まずは旅の準備をするため、町に寄るのが良いだろう。彼は馬上でそう思案した。
町へと続く街道はミネルフィアだけでなく、フロンラインとも途中二股に分かれ繋がっている。多くの者が行き来するためか馬車が二台擦れ違えるほどの幅があり、道沿いには馬に食べさせられそうな草も多く生えていた。
旅人の行く道としては申し分ない。そこに懸念材料はないのだ。
しかし、とリュミエールは腰の両刃の剣に視線を落として思う。もう一つの武器である背中の弓。コレはある敵に対してのみ使う武器であった。
今回の旅ではこれを使う様な事態にならなければよいが、と。
「あれ?」
街道を順調に進んでいた矢先に、愛馬がその歩みを止めた。ふと前方へ視線を遣って目を凝らせば、道の真ん中に二人の男性の姿が確認できた。
容姿からして、恐らく魔法使いであろう男性と商人らしきふくよかな男性。彼らは何か揉めている様に見えた。商人が魔法使いの男性に詰め寄っている。
魔法使いは背を向けているためどんな表情をしているか分からないが、商人の姿からは何やら切羽詰まった様子が伺えた。
リュミエールは手綱を振り、そのまま馬を歩かせる。近づくにつれて、商人の声が途切れがちに聞こえてきた。
「わ、私の馬車を……荷物を、盗賊どもが……! ……どうか、助けて下さい!」
「大変だ、助けないと!」
どうやら荷物を積んだ馬車が盗賊どもに襲われたらしい。そう検討をつけ、リュミエールは愛馬を操り商人の元へ駆け寄る。
そして颯爽とマントをひるがえし、声高らかにこう告げた。
「ここは僕に任せて下さい!」
「私に任せて!」
「俺の力が必要なのだろう、助けてやろうではないか!」
「……アレ?」
何故か重なる三つの台詞。
どうやら助けを求める声に応えたのは、自分だけではなかった様だ。
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