エピローグ 夢の続き

 はっと目を覚ます。

 ゆっくりと体を起こした。

 カーテン越しの朝日が眩しい。


 なんだかまた、妙な夢を見た気がする。

 ベッドから降りて、スリッパをはく。寝ぐせのついた頭を掻きながら、ぼんやり部屋の鏡を見た。


 そこに映っていたのは……気の抜けた顔をした、金髪のイケメンだった。


 一瞬で寝ぼけた頭が覚醒する。

 何度見ても、見慣れた顔だ。金髪碧眼、足が長くて背が高くて、前髪が長くて。

 驚きに目を見開いた間抜け面が似合わない――ルーカスが、そこにいた。


 大慌てで部屋を出る。

 魔法を使うのも忘れて、一足飛びに階段を下りる。途中でスリッパが片方、どこかへすっ飛んでいった。


 すっ飛んだスリッパには目もくれず、そのままどたばた走って、食堂に駆け込んだ。

 きょろきょろと中を見回す俺を、聞き覚えのある声が呼ぶ。


「ルーカス?」


 食堂前の廊下を振り向くと、そこには。

 俺の想像したとおりの、声の主がいた。

 その手には、俺がすっ飛ばしたスリッパが握られている。


「どうしてパジャマなの?」

「ええと。なんか、いろいろあって」

「変なの」


 しどろもどろに返した俺を見て、アカリちゃんが笑う。

 俺の足元を見ると、また笑いながらスリッパを返してくれた。


 うん、そうだよね。

 いきなり寝ぐせ全開の人間がパジャマでおジャマしてきたら笑うよね。


 アカリちゃんの顔を見て、俺はその場にへたり込みそうなくらい、ほっと気が抜けてしまった。


 よかった。だってもう、会えないんじゃないかと思ってたから。

 またアカリちゃんと会えて……アカリちゃんの笑った顔が見られて、本当に良かった。


 じわりと視界が潤みかける。いかん、ここで泣いたらますます、意味が分からない。


「あれ。ルーカス、なんでパジャマなんすか?」

「なんか、いろいろあったんだって」

「寝ぐせひどいっすよ、ちゃんと鏡見たっすか?」


 また聞き覚えのある声がして、そちらを振り向いた。

 呆れ顔のジャンがいて、また不覚にも涙腺が緩みそうになる。

 鏡見たからこうなってるんだよ、とか、言ってもわかんないだろうけどさ。


 ぐっと上を向いて涙を引っ込めて、わざととぼけた口調で言う。


「あ、あれー? ここは誰、俺はどこ?」

「え? え?」

「あー、俺、ちょっと寝ぼけてたみたい! すぐ着替えてくるからちょっと待ってて!」


 下手な小芝居を打ってから、俺はそのままくるりと回れ右した。

 涙腺を引き締めて、ぼやけそうになる視界の中で、来た道を戻る。


「あ、ルーカス」


 アカリちゃんがふと、俺を呼び止めた。

 振り返ると、にっこり笑ったアカリちゃんと目が合う。


「おはよう!」


 ぱっと花が咲くような笑顔で挨拶をするアカリちゃん。俺もつられて、口元が緩んだ。


「おはよ、アカリちゃん!」


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