幼い支配者たち

木風 詩

第1話 アゲハからの手紙

 目の前に見えるのは、幻と世で言われているシューケット高等学園。金持ちの子供が通っていて将来のお偉いさんを育て上げる学校と噂で聞いた事があった。

 

 俺は今、その学園の門の前に立っている。東京から船で1時間、この島にはこの学園の他に外国のような街並みの飲食店や高級なブティック、映画館、遊園地など、この場所だけで生活が成り立つような程の多くのお店が揃っている。学園は全寮制だが休みにはみんな外に出て遊びに行ったりするらしい。俺は金持ちでもないし、こんな学園に興味は無い、でも来なくてはいけない理由があった。それは一ヶ月前にさかのぼる。


 俺は昔から大体話を一回聞けば覚えてしまうと言う、いわゆる天才だ。家はサラリーマンだから特別いい学校ではなく、普通の高校に通っていた。この時の夢は警察官になる事だった。警察のドラマと格闘が好きでキックボクシングを習い自分で言うのもなんだが結構強いと思っている。このまま警察官になり悪い奴をガンガン捕まえると言う夢に向かって進むつもりだったが、俺の運命が変わったのは一通の手紙からだった。


 ある日突然アゲハから手紙が来た。アゲハは中学2年の途中で引っ越してしまったが、小さい頃からよく遊んだ可愛い幼なじみだった。アゲハは可愛くて人懐っこくて人気者だった。なんでも話せる友達で小さい頃弱虫だった俺を助けてくれたのはアゲハだった。引っ越す時に「連絡絶対するから」と言っていたのに音信不通になっていて、どうしたのだろうと心配していた。


「アゲハから?久しぶりじゃん。やっと連絡よこしたな」手紙を開けると蝶の絵が書いてある便箋に文字が書かれていた。

『神城キラ様 元気にしてる?

 私は今、伝説と言われているシューケット学園にいます。ここは孤島にあって存在を知っている人はほとんどいないの。知っているのは卒業者と関係者だけでそれも話してはいけない事になっているんだ。なぜキラに手紙を書いたかと言うと、キラに助けて欲しい。キラは真面目にやれば全国で1位を取れるぐらい頭が良かったよね。毎年この学園にシューケット模試全国1位の子を特待生として入学させるんだ。そっちではシューケットの名前は隠してHQ(ハイクオリティー)模試って言ってると思う。1位になると賞金が出る変な模試だから受ける人多いと思うんだけど知ってる?その模試で1位になってこの学園に来てもらえないかな。理由は書けないけど、お願い。待ってるから。 アゲハ』


 手紙はここで終わっていた。なんだこれ全く意味がわかんねえ。

 HQ模試?さっそくネットで検索をかけてみた。3ヶ月に1度行われる全国模試。検定料無料。1位のみ賞金1000万円(その後指定の学校へ転校するのが条件、辞退した場合は賞金は1万)え、ちょっと待て1000万円を高校生に払うのか?それも転校するのが条件!その転校先がシューケット学園っていう事か。こんな怪しい模試がなんで許されるんだ?次の模試は7月5日か…あと1ヶ月。なんか興味が湧いてきた。最近面白い事もなかったし、今の学校も退屈だったので簡単な気持ちでやってみても良いかもと思った。1ヶ月本気で勉強してみるか。

 

 今までの人生でこんなに真剣に勉強をした事はなかった。普段ほとんどしたことがないのに、死ぬほど勉強したおかげでブッチギリでトップだった。結果が出てから1週間後に家の前に黒塗りの車が迎えに来て、よく分からないままにどこかに連れて行かれようとしている…ちょっと怖いな殺される?


 車を降りると、表札には曽根原と書いてあった。門から家まで電動カートで移動した。しばらくすると大きな白い洋館の前に着いた。中に案内され大きな応接室に通された。テーブルの上には高そうなケーキとお茶が用意され、「もう少しお待ちください」と言ってメイドさんが出て行った。席を立ち窓の外を見ると綺麗な庭が広がっている。それ以外の景色が見えないので外国かどこかへ旅行に来たみたいだった。扉が開き白髪のダンディーな紳士が入ってきた。あれ?どこかで見た事が…嘘だろ、大統領だ。曽根原大統領…ネットでは行動力のあるカリスマ性のある人と噂されている。なんでこんな偉い人がここに?


「こんにちは。神城キラ君だね。しんじょうと読んで良いのかな?」

「はい。大丈夫です。」

「遠い所ご苦労様だね。あまり時間が無いのでさっそく話を始めても良いかな?」

「はい。」

 クッションの良い、茶の皮張りのソファーに腰をかけた。

「私の事は知っているかな?」

「はい、曽根原大統領ですよね。」

「光栄だね。じゃあ自己紹介はしなくて良いね。凄いね。HQ模試はレベルが高くて1位は取れても点数はそんなに高く無い事もあるけれど、キラ君はほぼ満点に近いな」俺の資料を見ながら喋っているようだった。

「君にはぜひウチが運営している学校に入学してもらいたいのだがどうかな?」

「はい。入るつもりでテストを受けました。」

「それは嬉しいね。賞金の1000万円は何に使うんだね。」

「学校は全寮制と聞きましたので、行くのに必要なものと少しの現金だけもらったら、後は親に渡します。」

「それは親孝行だね。今まで通った学校の手続きと、親御さんにはこちらから話すから君はこのまま1日ここで過ごし、明日からシューケット学園に行ってもらうようになるから。」

「え、このまま帰れないんですか?」

「申し訳ないね。この学校の話は秘密だから君の親御さんにはこちらから話すから。学校に着いたら電話はして良いが学校の事は話さないようにしてくれ。その代わり君の将来は親御さんの想像以上のものになるからな。ある程度ものは揃っているが、どうしても必要な物は言ってくれれば届けるから。」

 すげえ怪しいけど、もう今更しょうがない「わかりました」と返事をするしかなかった。俺、変な事に巻き込まれた?

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