第10話 戦いの終わり~これでやることは終了!?~




「アリュンの聖女?」

 スオウ王子の件から一ヶ月ほど経過した頃、イオスが渋い表情をしながらリアに言ってきた。

「──ああ、アリュンが新しく生み出した者を人だといい、我らを化け物と言って国を小規模ながら作り各国に攻め込み始めている」

「アリュンの封印は?」

「その際失敗したらしい、となると私が──」

 イオスが言おうとしたことを遮るように、リアは手を握った。

「私達で、どうにかしよう」

「リア……」

「夫婦なんでしょう? 頼れる時は頼ってよ!」

「すまないな……」

「いーの」

 リアはにかっと笑った。


「大変です!!」

「どうした」

 部屋に兵士が慌てて入ってきたのを見て、イオスは静かに声を発した。


「アリュンの『聖女』が国に──」

「民を家から出るよう通達をする、結界を張る」

 イオスは静かに言った。

「陛下は!?」

「私でなければ──」

 リアが手を握る。

「そうだったな、私達でどうにかする」

「しかし……」

「大丈夫、安心してちょうだい!!」

 リアがはっきりと言うとそれに安心したかのように兵士は下がった。





 玉座で二人静かにアリュンの「聖女」を待つ。

「……静かだね」

「そうだな」

「これ以上犠牲者を出さないように頑張ろう、イオス」

「もちろんだ、リア」


「なぁんだ、化け物どこにもいないんだつまんないの」


──ん?──


 口調がやけに気になり見ると、なんと前世の世界の格好をした──女子高校生の格好の少女がそこにいた。


「あれ、化け物じゃない、あ! じゃあアンタ達が魔王と魔女ね!」


──なるほど、アリュンは異世界転移させた上視覚を調整して、人間と化け物の見え方を変えたのか──

『その通りです、彼女に罪はないとはいいません、どうかあるべき場所に戻してあげてください』


 リアの脳内に女神リシュアンの声が響いた。


「へー、アンタの目には殺したのが化け物に見えてたのかぁ」

 イオスが口を出す前に、私が口を開いた。

「魔女らしい言い方、私が成敗──」

「真実を、見るといい」


 少女の目が一瞬光ると、少女は頭を抱えてブツブツと何か言ってから、吐いた。


「嘘嘘嘘嘘嘘!! 違う!! 今のは嘘よ!! 私に心理攻撃──」

「では、背後のは何だ?」

 イオスが口を開き、少女の背後にいる化け物を指さす。

 少女は振り向き、悲鳴を上げて尻餅をついて後ずさった。

「何で、どういうこと?!」

「これが真実、貴方が見ていたのは偽り。化け物は人で、人が化け物だった。そういうこと」

「じゃ。じゃあ……わ、私……」

「そう、アンタは立派な──」


「人殺しだよ」


「い、いやああああああああああああああああ!!」


 うずくまり、頭を抱える少女を見捨て、化け物がリアとイオスに襲いかかってきた。


「消えよ」


 イオスの光の矢に貫かれて、化け物達は消滅した。

 消滅したところから黒い靄が現れ形を作る──


『使えぬ駒だ』


「神アリュン、相当あくどいことをなさるな」

「コイツが神アリュン?」

「そうだ」


『忌々しい、女神リシュアンの下僕め今度は──』


「いや、次は」


「ないよ」


 リアがそう言うと、黒い靄が黄金の鎖で拘束され、身動きがとれなくなった。


『な、何?!』


「女神リシュアンよ、どうか、終止符を!!」


 リアがそういうと、女神リシュアンが姿を現した。

『アリュン、さようなら。これでもう二度と会うことはないでしょう』

 リシュアンの持っていた剣が黒い靄──アリュンを貫く。


『ぐあああああ!! 何故だ、何故力あるものが支配する世界ではだめなのだ!! 進化が悪と言うのか?!』

『誰もそんな事は言っていないわ、進化は当然、変化も当然。それに私達が関わっていいのは本当は最初だけ、それ以降はあまり関わるべきではないのよ』

『では、私達の意味は何だ!!』

『それさえも忘れてしまったの、アリュン……』

 黒い靄は消えて無くなり、リシュアンも姿を消した。



「神様は、見守って、人間じゃどうしようもないときに、たまに手を貸す程度でいいんじゃないかな、それが奇跡とかなんだろうし」


 リアはぽつりと呟いた。





「──陛下!!」

 イオスの配下達が玉座になだれ込んできた。

「化け物達が消滅したと各国から連絡が──そこの見たことの無い服を着た娘は?」

「この娘は──」

「悪人に利用されただけの娘さんだよ」

 イオスの発言を遮って、リアは言った。

 イオスはリアの意味を理解したのか。

「その通りだ」

「ちょっと、この子を家に帰すから、それまで出て行ってくれる?」

「わ、わかりました」

 配下達が出て行くと、リアはうずくまる少女に近づいた。

「名前は?」

宮園みやぞの香奈かな……」

「香奈ちゃんね、ここの事は忘れて帰りな」

「だって、私……」

「なら、帰った先で贖罪行為をすればいい、たくさんの人を救えばいい」

「……」


──この子の帰る場所への、本来いるべき場所への扉を──


 リアがそう思うと扉が出現した。


「さぁ、そこから帰ることができる。帰りなさい」

「で、でも……」

「いいから!」

 リアはそう言って扉を開けて少女──香奈を押し込んだ。

「待って、私何も謝れてない! 償えて──」

「それはそっちでやりなさい、こっちだと色々不都合があるのよ、じゃあね」

 リアは扉を閉めた。


 扉は消えて無くなった。


「あの者はどこから来たのだ?」

「さぁ? でもここではないどこかから、だと思うよ」

「そうか」

「そう……だよ」



 リアは猛烈な眠気を感じ、その場に倒れ込みかける。

 イオスに抱きしめられて、そのまま目を閉じた──






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