第9話 予想外の訪問者~お迎えされる気はないのでお帰り下さい~
朝起きると、隣には誰もいない朝だった。
いつものことなのでリアは気にせず目を覚ました。
メアリが入ってくる。
「リア様、おはようございます」
「おはよう……とりあえずお風呂入りたい」
「湯浴みの準備はできております」
「うん……」
リアはいつものように湯浴みに向かう。
広い王室の浴室で服を脱ぎ、お湯につかり身を清める。
「……」
ふぅと息を吐く。
体が気だるかったが、疲れを取る効能があるのか、お湯に浸かっていると体の痛みや疲れが取れていくような感じだった。
風呂から上がり、柔らかな布で体を拭いてから下着を身に着け、ドレスをメアリに着せられて浴室を後にする。
そして宮廷魔術師に頼んで神殿へと転移させてもらう。
相変わらず、人がそこそこいる。
「はい、並んでー」
リアがそう言うと、怪我人や病人らしき民達がぞくぞくと集まってきた。
リアは一人一人丁寧に対応し、治療にあたる。
全ての民の治療が終わると、リアは一息つく。
「リア様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫ー」
「暴徒もいないし、俺は暇でいいし、御妃様は仕事で時間をつぶせるし万々歳だな」
「シュオ様!!」
暇そうにしているシュオをリアが注意する。
「まぁ、いいじゃねえ……ん?」
シュオが民の中に混じっているローブで身を隠している人物に目を付けた。
「おい、アンタ何処のだ? 神殿じゃみんな顔は隠さねぇんだよ」
シュオがそう言うと、ローブの人物は舌打ちをした、そして民を押しのけてリアに近づいてきた。
メアリが盾になるようにリアを守ろうとすると、その人物はメアリを飛び越えてリアの腕を掴もうとした。
「御妃様に何する気だテメー!!」
すぐさま行動し、リアの前に来たシュオは鞘にはいったままの大剣を振り下ろした。
ローブの人物はそれにはじきとばされ、神殿の壁に激突する。
シュオが大剣を抜き、ローブの人物のローブをはいだ。
「テメェは……」
「スオウ王子?!」
「誰?」
「おい、お前なんでわざわざ姿隠してこんなことした!?」
シュオが怒鳴りながら問いただすと、ローブの人物――スオウはその場から姿を消した。
「何が目的だ一体?」
「あの、スオウって誰? どこの国の王子様?」
「スオウ王子は、シュリ王国の第一王子です」
「俺の母国な、まぁあっちじゃ俺合わなかったからこの国来たんだけどな!」
「……どこの国と同盟結んでる?」
「……アーデルハイト国です」
「は?」
──私の母国じゃん──
──まずくね?──
「……とりあえず陛下に報告だ」
「リア様はしばらく城から出ないでください」
「は、はぁ……」
──なんでこうトラブルでるのかなぁ?──
リアは困った顔をしながら宮廷魔術師たちと城に戻った。
事の内容を聞いたイオスは険しい表情になり、すぐさま使いを出した。
「其方は私の傍にいろ」
「うーん、まぁ分かった」
リアは何故こんなことが起きたのかわからず、頭に大量のハテナマークを出現させながらイオスの傍でイオスの政務が終わるのを待っていた。
翌日、返事が届いた。
「両方の国からなんと?」
「アーデルハイト王国は、お前と王子に婚約関係があるかどうか聞いてみたが無いの一点張りだった、眠り続けていてその上さらに、女神からの刻印のある娘を嫁に出すという無謀で軽はずみな行為はしないと」
「まぁ、そうだろうね」
「シュリ王国も同様だ、王子はまだ婚約者がいない状態だと、あと王子の行方が分からないからそちらに来たら引き渡してほしいとのことだ」
「……なんて人任せ」
「仕方あるまい……厄介なのがこの王子武芸も秀でていて魔術もかなり上位のものを扱えるということだ……」
「その王子がなんで私に用があるの?」
「心当たりがないか聞いてみた」
「そしたら」
「王子の妹が、昔眠っている其方に王子が一目ぼれしたらしいという情報を提供してくれた」
「は?」
「つまり、私から其方を奪おうとしているのだ」
「はぁ?!」
リアは素っ頓狂な声を上げた。
──いやいや、無謀すぎるというか命知らずすぎる!!──
リアは頭を抱える。
頭を抱えていると、何かに気づいた、見られていると。
「……イオス」
「ああ、其処にいるな?」
イオスが物を傷つけない光弾を放つと、当たった場所からばたりと何かが倒れる音がした。
それは人の形を見せた。
この間のローブの人物――スオウだった。
兵士が駆けつけ、縛り上げて連れて行った。
「……どーすんの?」
「……シュリ王の国王に連絡をしよう、それまでは監視だ」
「……」
──なんでこう問題が降ってくるわけ?!──
──平穏で無事がいいのにー!!──
リアは深いため息をついた。
数日後、使者らしき人物たちが貢ぎ物をもってやってきた。
「貢ぎ物などいらぬ、王子に二度とこの地を踏まぬように国王から言うようにせよ!」
イオスは使者に対して怒鳴るように言う。
となりでリアは渋い顔をして使者を見ている。
少しして、兵士たちに腕を掴まれたスオウ王子が連れてこられる。
「スオウ様! 何故このようなことを!!」
着いてきたらしいシュリ国の大臣と思われる人物が何故と言わんばかりの顔でスオウ王子を見ている。
「目覚めたら私が娶るはずだったのだ!! それなのに、急に横からかっさらわれて我慢ができると思うか?!」
「婚約もしていないではないではないですか!!」
「目を覚ましたらしようと思っていたのだ、だがアーデルハイド国は目覚めたことを隠し全て知った時にはこの様だ!!」
「だから略奪なんてことを考えたのですか?!」
「私の花嫁になるはずだったのだ略奪ではない!!」
声を荒げるスオウ王子と、困惑した声を上げ続けるシュリ国の大臣、それを見ているイオスの顔をリアは見る。
眉間に皺が寄っていた。
かなり機嫌を斜めにしている。
「……さっきから聞いておれば、身勝手すぎるではないか、それで次期国王だと? 笑わせる」
──いや、アンタも私を奥さんにする時相当自己中だったと思いますよ──
リアは心の中でそう言いながら、遠い目をしてイオスとスオウ王子を交互に見た。
「……っリアは、リアはどうなのだ!?」
イオスに言われ、反論が思いつかなかったのだろう、一縷の望みをかけてリアに声をかけてきたのだと思う。
しかしリアは――
「申し訳ないですが、私の夫はイオス様のみなのでお断りいたします。イオス様以外考えられません」
丁寧な口調できっぱりとリアは断った。
その言葉にぼっきりと折れてしまったのか、スオウ王子はその場に膝をおり、大臣たちが腕を掴んでずるずると引っ張って下がっていった。
「貢ぎ物も持ち帰らせろ、こんなものは不要だ!」
兵士たちにそう言うと、兵士たちは大使たちの後を追って貢ぎ物を運んでいった。
リアは無言、無表情になったイオスを見て、ぎょっとする。
何故こうなったのかわからないのだ。
「私は政務に戻る、其方は部屋にいろ」
「……はいはい」
リアは母国に情報が行きかねない関係者が居なくなったのでいつもの口調に戻って部屋に戻った。
夜、リアが夕食と湯浴みを済ませ寝る準備に入り、ベッドの中でじっとしてるころイオスが入ってきた。
扉を閉め、部屋に防音の術が発動するや否や笑い出したのだ。
その様を見て、リアは引いた。
何か悪い物でも食ったのかと。
「どうしたのイオス」
「ははははは!! まさか其方があのように言うとはな!! 嬉しくてたまらぬのだよ!!」
「あー……まぁ、ぶっちゃけアンタ以外がダンナになるって想像ができんのよ、私の乏しい脳みそじゃ」
「乏しい? 何処がだ?」
「……まぁ、そこら辺はさっしてよ。後、アンタも人のこと言えないでしょう? 私の事承諾なしで妻にしたんだから」
「む」
その言葉にイオスは痛いところをつかれたと言わんばかりの顔をした。
「まぁ、いいよ、さ、寝よ寝よ。疲れたでしょ?」
リアがそう言うと、イオスは着替えてベッドに入り、二人抱きしめ合って眠りについた──
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