第6話 悪しき神と「勇者」~夢の中で~




 それから一週間、イオスの傍に置かれるようになった。

 政務には基本口出ししないし、よくわからないのでおとなしくしていた。

 ただ、その一週間、どこから侵入したんだと聞きたいような輩がかなりいたのだ。

 両方の命を狙ってくる輩が多かった。

 暗殺者が来たのをきっかけに、国は厳戒態勢を取ることになった。

 暗殺者はみな凄腕で、その厳戒態勢すら突破したが、イオスの目だけはごまかせず、容赦なくと捕えられるか葬られるかの二択だった。

 ただ、捕まった後、自白させられるまでは何が何でも生かされるが、それ以降の命はないんだろうなとリアは思った。

 暗殺者の所為でイオスは何かピリピリしているように見えた。

 何処かで、発散しないと爆発する、そんな感じだった。

 寝ている時も、ピリピリしていた。

 心休まる時間がない、そんな感じだ。

 一週間たって、神殿にまた行けるようになった時、兵士たちがどこかの国を攻め込み始めたと言うのを聞いた。

 帝国と強いつながりがあり、暗殺者を差し向けてた国だそうだ。

 技術者の生き残りもいる為、報復に出たというのを聞かされる。

 イオスもその国に向かったというのを聞いて、大丈夫か不安になった。

「ご安心をお妃様、陛下は女神の加護によって守られております、負傷させられる者などおりませぬ」

「……女神の加護?」

「ええ、この世界を作りし女神リシュアンの加護です、今まで暗殺しようとした者が多くいましたが失敗したのも加護があるからです」

「……なるほど」

 神殿に来た民たちを治療しながら、神官と会話をする。

 しばらくすると、兵士がやってきた。

「御妃様、帝国の支援をしている国を落とす事ができました! これで帝国の技術を全て破棄させれば、マナの森は二度と枯れずに済みます!!」

「……イオスは?」

「陛下はご無事です、もう間もなくご帰還されます!」

「それならいいんだけど……」

 リアははあとため息をついた。

「御妃様、そろそろ城に戻りましょう」

「わかった」

 リアはシュオや、メアリとともに馬車に乗り込み城へと戻った。


 食事や入浴を終え、ベッドで横になる。

 相変わらず寝付けない、静かに光が差し込む。

 暗殺者に狙われた経験から起き上がってしまう。


 イオスが疲れ切った顔で部屋に入ってきた。

 本物と表示されており、リアはベッドから降りてイオスに近寄り抱きしめる。


「……どうしたの?」

「悪い事が起きたのだ……」

「何?」

「……すまぬ、今は言えぬ。ただ必ず言うから待っていてくれ」

「……わかった、今日はもう休もう?」


 リアはイオスの着替えを手伝い、ともにベッドに横になると、イオスの頭をなでてイオスが眠りについてから、リアも眠りに落ちた。





 リアはイオスの事を気にしながら、神殿で民の治療にあたっていた。

 それを表向きには絶対出さなかった。

 ただ、リア専属の侍女となっているメアリは心配そうな顔をしていた。

「リア様大丈夫ですか?」

「あーうん、大丈夫大丈夫」


──本当は大丈夫じゃねーけど、言えんわ!!──


 イオスの言葉を気にしながら治療をしていると外が騒がしいのに気づいた。

 何事かとメアリに調べてきてもらおうと思った矢先に兵士が駆け込んできた。

「城に『勇者』を名乗る賊がやってきました!! 妃様を安全な場所へ――」

「勇者?! あーもー連れてけ!! あの人が心配だ!!」

 傍にいた魔術師の首を掴み揺さぶる。

「し、しかし御妃様に危害が……」

「自分でなんとかするからいいから連れてけ!! 嫌な予感がする!! あーもーいいや自分で行くからいい!!」

 リアはイオスと出会った玉座をイメージすると空間転移で移動した。


 移動すると、イオスと冒険者らしき恰好の人物たちが戦っているのが見えた。

 魔法使い、僧侶、戦士、そして一番何かリアの目からは良くない加護を持っている人物が兵士たちが言っていた勇者だろう。

「くっ……」

 イオスの体から出血するのが見えた。

 ぷつんとリアの何かが切れる。

「うちの旦那に何してくれとんじゃおのれらー!!」

 凄まじい光の柱が侵入者たちに降り注ぎ、体を床にたたきつけた。

 リアの目に見えた良くない加護らしき物が消える。

「か、神アリュンの加護が……!!」

 僧侶が床に倒れたまま何かを言う。

「悪しき神の信仰がやはりまだあったか、滅ぶがいい!!」

 勇者の体が燃え上がり灰と化した。

「勇者様!!」

「そんな、魔術王……いやさっきまで魔王を倒せそうだったのに何故?!」

「貴様らに言うことはない、寧ろこちらが聞くことがある! 捕え聞き出せ!」

 イオスがそう言うと、兵士と魔術師たちが姿を現し、侵入者達を転移させないようにした上で捕縛しつれていった。

「リア! 何故来た!?」

「来なかったら危なかっただろうが!!」

 リアはドレスをたくし上げてずかずかと歩いてイオスの元に行き、怒鳴ると血が出た腕を治療した。

 光が包み、イオスの傷はきれいさっぱりなくなっていた。

「……ところで神アリュンって何? なんか悪そうな加護っぽいの見えたから破壊しちゃったけど……」

「……最初は女神リシュアンとともに世界を守る神だった存在だ……だが、ある日、私達とは違う生き物――マナを侵す生き物、魔の物を作り出し、それらを良い物と扱い知恵ある者や弱き者――私達を滅ぼそうとした、リシュアンはそれに反発し、私達を守る者を、世界の規律を守る者を作った――」

「へー」

「それが私だ」

 ぶーっと噴き出す、リアは目を丸くし、イオスを指さす。

「もしかして、アンタ……元勇者?」

「……まぁ、そうなるな。一人で魔の存在を倒し、神アリュンを倒すのは苦労した」

「……相当昔の話よね、その後国作って今まで?」

「ああ、後神アリュンを滅ぼせるのは女神リシュアン位だ、私ができたのは力を奪い去り、封印する位だったからな……信仰を途絶えさせたつもりだったがまだ残っていた……」

「あのー……最悪のパターンなんだけど、もしかしてアリュン復活とかしてない?」

「……その可能性は濃厚だな」

 リアは非常に嫌そうな顔をした、どう考えてもこのアリュンをどうにかする為も自分が転生させられた内容に含まれている気がしてならないのだ。

「とは言え、力は弱そうだ、信仰がほとんどない神など力は大してない、が、私は今は国王、国から好き勝手に戦以外で出るわけにはいかぬ」

「だよね……うーん、情報もらったら、精鋭見繕ってくれない、私がちょっとなんとかするから」

「……できるのか?」

「うーん、加護を渡すんじゃなくて、女神様呼び出してアリュンもう一回封印する程度の加護授けるくらいならできると思う」

 古代語の本で、女神の加護は譲渡することはできない永遠の物らしいので、それしか思いつかなかった。

「……分かった、それが無理なら私が考えよう」

「うん」



 それから一か月間、イオスは政務に缶詰め状態になり、リアはほぼ毎日一人で眠り、イオスと会う機会がほとんどなかった。


 一か月後、色んな事が判明したのでイオスとリアは会議室に集まった。

「判明したんだって? あ、説明はいいよ。長くなるだろうし、精鋭さん呼んでくれる?」

「よかろう」

 イオスが呼ぶと、やはり精鋭らしき人物たちが入ってくる。

「できるか?」

「やってみる」

 リアは目をつぶり手を飾す。

 と、リアの耳にだけ声が聞こえた。


――有難うございます、この者たちに、アリュンを封印するだけの加護を与えればよいのですね?――


 あの、女神が透き通った姿で降りてきて、手をかざした。

 精鋭たちが光に包まれる。

 光が消えると、女神はリアの方を見てほほ笑む。


――これからもこの世界の事、どうかお願いしますね――


 また、リアにしか聞こえぬ声で言うと、女神は姿を消した。

「今のは……!」

「陛下、どうなさいましたか」

「……そうか、お前たちには見えぬのか、まあ良い。リア、どうだ?」

「できたっぽいよ」

「では、行くがよい!! 再びアリュンの支配する世界にしてはならぬ!」

「「「了解しました!!」」」」

 精鋭たちは部屋から出ていく。

 出ていくのを見送ると、リアはぺたりと座り込んだ。

「疲れた、いやマジで」

「女神リシュアンは――何か言っていたか?」

「これからもこの世界の事、どうかお願いしますね、だってさ、結構責任重大――……」

 リアははぁとため息をついた。

 イオスは無言になり、リアを抱きかかえて部屋へと転移した。


 力を使ったと見えるリアは顔色が悪くなっていた。

 リアをベッドに寝かせる。

「んー? どうしたの?」

「体は大丈夫か?」

「大丈夫疲れただけだよ」

「そうか、今日はもう休め」

 リアはそう言うと静かに眠った。





 リアは夢を見ていた。

 前の世界の夢だ。

 母親が仏壇の前で泣いている。

 仏壇には私の写真が飾られている。

 兄たちが励ますが、その声は母には届いていないようだった。

 孫の声も届いていない。

 リアは――守里は、母を抱きしめて呟いた。

『お母さん、ごめんね死んじゃって。でも別の世界でそこそこ元気にやってるから元気だしてね、あんまり悲しまれると辛いからこっちも。後通り魔は呪う』

 守里はそう言って抱きしめて離れると、すうと体が消えるのが分かった。

 自分は目が覚めるのだな、と──






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る