第15話 自分の居場所はここだけ

 フィーダはベットに乗っかり、バーブノウンの顔に自分の顔をぐっと近づけた。

バーブノウンは少しだけ顔を引いたが、表情はそのままだった。


「あれは、わたしが調子に乗ってやってしまったことなの! バーブを試そうとか、そんなことは全く考えていないの!」


「あはは……。全く、フィーダは優しいなあ……。でも、本当は試したかったんでしょ? 隠さなくても大丈夫だよ。僕はどうせ役立たずだし……」


「――――っ!」


「ぶっ!?」


 嘆くバーブノウンに、フィーダは肩を震わせながらだんだんと怒りを募らせ、遂に限界だったフィーダはバーブノウンにビンタを食らわせた。

バーブノウンは体ごと吹っ飛び、ベットから落ちて近くにある壁に打ち付けられた。


「フィ、フィーダ!?」


「いちいちうるさい! そんな弱音を吐くバーブはバーブじゃない!」


「――――!」


「バーブは悪くないの! 全部はわたしが悪いの!」


「フィ、フィーダ……?」


 フィーダは思い切った行動に出た。

バーブノウンを正面から抱きしめたのだ。

バーブノウンは大きく目を見開く。


「いつも、バーブは全部自分が悪いって抱え込む癖がある。わたしはもう分かってる。わたしはもうそれを見るのはつらい……。だから、わたしからお願いがある」


「な、なに?」


 フィーダはバーブノウンを強く抱きしめた。

そして、1つ間を空けて口を開いた。


「わたしにも相談して」


「――――!」


「今日はわたしのせいでバーブを追い込んでしまったけど……それ以外の理由でバーブが居なくなっちゃうって考えたら……わたし、わたし……!」


「フィーダ……」


 フィーダの声は震え始め、そして目からは涙が流れていた。

最初はすすり泣きだったフィーダが、次第に嗚咽へと変わっていった。


「えぐっ、うぐっ……! ごめんねバーブ……本当にごめんね……! わたしのせいで、こんなにバーブを追い込むことをしてしまって……うう……」


「――――」


 自分の肩で泣き続けるフィーダを見つめるバーブノウン。

バーブノウンは優しくフィーダを包み込むように抱きしめた。


「ごめんねフィーダ……。心配、かけちゃって……。うん、今度からはフィーダにもちゃんと言うようにするよ。フィーダが泣かないように……」


「バーブ……!」


 バーブノウンは一筋の涙を流していた。

フィーダは最高の仲間であり、運命の相手だと改めて感じたのだった。


(なんだろう……。体や心が温かいような、熱いような……)


 バーブノウンは自分の体と心に違和感を感じながらも、大したことでもないと考え、フィーダが泣き止むまでこのままでいた。

この『大したことでもない』が、後に大きく変わっていくことを、この時はまだバーブノウンは気づかなかった。








◇◇◇








「――――」


「――――もう大丈夫?」


「うん……大丈夫」


 やっと心を落ち着かせることが出来たフィーダ。

ゆっくりとバーブノウンから体を離した。


「――――本当にごめんねバーブ。わたしが調子に乗ってしまって……」


「いや、僕もフィーダが泣いちゃうくらいまで心配かけちゃって……」


「じゃあ、お互い様ってことで……」


「そうだね、あはは……」


 2人は笑い合った。

先程までは鉛のように重い空気が流れていたのに、いつの間にか和やかな空気に変わっていた。


「ねえバーブ、ちょっと目瞑ってもらっても良い?」


「えっ、うん」


 バーブノウンはフィーダに言われた通り、目を瞑った。

するとフィーダは、こめかみの髪の毛を耳にかけた。

そして、頬を赤くすると、バーブノウンの顔に近づけた。


「――――」


「――――!?」


 唇に妙な感触が伝わり、バーブノウンは驚いて目を開けると、眼の前には目を瞑るフィーダの顔があった。

そしてもう1つ……自分の唇が、フィーダの唇に触れていたのだ。

驚きが大きすぎて、バーブノウンは身動きすら取れない。

しばらくすると、フィーダはバーブノウンから顔を離した。

 頬を赤くしながら上目遣いで見てくるフィーダを見たバーブノウンは、思わずフィーダが可愛いと思ってしまうのであった。

これは子供を可愛がる意味での感情ではない。

バーブノウンの心臓が大きく、早く鼓動する。


「フィ、フィーダ……。な、何でこんなこと……」


「――――わたしがそうしたかっただけ。嫌だった……?」


「――――い、嫌ってわけじゃ……。ただ、びっくりしすぎて……」


(まさか……? いや、フィーダがそんなことを思うような人物ではないはず。だから、多分嬉しい感情を大胆に見せてきたのかもしれない。うん、絶対そうだ)


 フィーダは銀竜シルバードラゴン、文化は自分たち人間とは全く異なる。

バーブノウンはそう思い込ませ、心を落ち着かせた。


「すう……はあ……すう……はあ……」


 深呼吸を2回ほどすると、バーブノウンは何とか平常心を保つことができた……はずだった。


「――――」


「――――!?」


 もう一度フィーダの顔を見ると、視線を逸したまま頬を赤くしていた。

その表情が、バーブノウンにとってはいつもと違うフィーダに見えたのだ。

こういうものには疎いバーブノウンでさえ、まるで恋する少女のように見えてしまった。

 バーブノウンは首を横に振り、勘違いしないようにする。

絶対に自分に対してそんな感情を持つ人なんていない……そう考えているからだ。


「フィ、フィーダ。その……これからはちゃんとフィーダにも相談するよ。もう、自分で抱え込まないようにするから。だから、これからもよろしくお願いします!」


「――――! うん、これからもよろしくね、バーブ」


 お互いに笑い合う2人。

その様子は、まるで誰もが羨ましがる仲の良いカップルのようだった。

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