第14話 謝ることの大事さ
「――――」
フィーダは村の後ろにある丘の上に座り込んでいた。
体育座りをし、膝に顔を埋めていた。
『嫌だ! もう御免だよ! 僕の居場所はどこにあるんだ……!』
絶望に満ちた顔で泣き叫んだバーブノウンが放ったあの言葉が、フィーダの頭の中で何回も再生されていた。
最初は悪ふざけでやっただけなのに、バーブノウンが違う解釈をしたことにより、バーブノウンの傷をさらに大きく、深くしてしまったことに、フィーダはひどく落ち込んでいた。
「――――! フィーダちゃんこんなところにいたのね……」
突然、フィーダの前から女性の声が聞こえた。
フィーダは顔を上げて、声が聞こえた方向を見上げると、そこにはふくよかな雰囲気がある1人の女性がフィーダを心配した顔で見ていた。
「――――あなたは?」
「あ、突然話しかけてごめんなさい! わたしはサエダラ」
「サエダラ? あ、もしかしてあの時の……」
フィーダはすぐに思い出した。
バーブノウンとフィーダが村を救い、その偉業を讃えるために開かれた大宴会の際にフィーダに話しかけていた女性だった。
サエダラは気品あふれる見た目で、茶色く長い髪を持つ美しい人。
フィーダの姿が見えなくなってしまったことに気がついた1人の村人が、村全体に伝え、手が空いている者を集めてフィーダを捜索していたのだ。
「いきなり居なくなっちゃったからびっくりしたわ。でも、フィーダちゃんが無事で良かった……!」
「ご、ごめんね……」
フィーダは小さな声で謝り、そしてまた膝に顔を埋めてしまった。
「――――もしかしてバーブノウンくんのこと?」
「――――っ! うん……。わたし、バーブに酷いことしちゃった。わたしはバーブより魔法は多く扱えるから自慢したのに、バーブは笑っていた。それを見て、随分と余裕そうだなって思ったから、ふざけ半分で魔法を披露するためにバーブと対決してみようと思った。それだけだったのに……わたしのせいで……!」
フィーダは自分は愚かだと責め、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
震えている体を見て、サエダラはフィーダの背中を優しく撫でた。
「――――そうね。フィーダちゃんは、からかいでバーブノウンくんに勝負をしたいって言った。でも、バーブノウンくんからしたらフィーダちゃんに裏切られたって感じたんだと思う。バーブノウンくんの思い違いで、バーブノウンくんにとって忘れたくても忘れられない、嫌な記憶がまた出てきたんだとわたしは思う。あの時、バーブノウンくんに勝負をしようって言わなければ、こういうことにはならなかったかも」
「うん……」
サエダラの言う通りだった。
今まで人との関わりが全く無かったフィーダは、からかいの度合いが分からないため、酷いからかいと笑えるからかいの違いが分からなかった。
バーブノウンの反応がフィーダにとっては面白くて、調子に乗ってしまったのだ。
もしかしたら、今まで何も言わなかったのもバーブノウンが優しいから、苦しい記憶を思い出しても笑って過ごしていたのかもしれない。
そう考えただけで、フィーダはどれだけ酷いことをしてきたのかを自覚したのだった。
「――――フィーダちゃんはどうしたいの?」
「どうって……?」
「フィーダちゃんは、これからもバーブノウンくんと一緒に居たい? 仲良くしていきたい?」
「――――したい。バーブとこれからも仲良くしていきたい……!」
「じゃあ、やることは1つね」
「何をすれば良いの?」
サエダラは、フィーダの頬に手を添えた。
そして、自分の顔をしっかりと見るように促す。
「バーブノウンくんに謝ること。ごめんなさいをすること」
「謝る……」
「自分のせいで相手を傷つけてしまった時、迷惑をかけてしまった時は必ず謝ることが一番大切。フィーダちゃんは、ちゃんとバーブノウンくんにごめんなさいできる?」
「――――できる……! わたし、今からバーブに謝ってくる!」
「それで良し! ほら、早くバーブノウンくんのところに行ってらっしゃい!」
フィーダは背中から
実は、ムブタヒジが2人のための家を作りたいと自ら相談を持ちかけ、家を作ってくれたのだ。
村を救ってくれた英雄ということで、木造で質素ながらも少し豪華な造りになっている。
『本当はもっと豪華に作りたかったんだけど、生憎この村にはその技術がないからこれが限界なんだ……』
少し落ち込み気味で完成した家を2人に披露していたが、これ以上豪華にされると逆に気を使ってしまうと思ったバーブノウンは、これで十分だとムブタヒジを慰めた。
お世辞とかではなく、単に大きな石造りの建物のように身分の高い者が暮らすようなものを全く求めていないだけだった。
『家を作ってくれただけでも十分だよ。ありがとう!』
『バ、バーブノウン〜! なんて優しいんだ!』
ムブタヒジはブワッと涙が溢れると、バーブノウンにしがみついた――――ということがあり、ちょっと豪華な造りになっている家には、バーブノウンとフィーダが暮らしているのである。
その家にたどり着き、フィーダは地面に足をつけて羽をしまった。
そして、ドアノブに手をかけようとしたが、躊躇してしまう。
自分の姿を見た瞬間、バーブノウンに激怒されてしまって仲が悪くなって居なくなってしまうかもしれないと思ったからだ。
特に、バーブノウンが自分の傍から居なくなってしまうことが一番怖かった。
そして、
その時、運命的にもバーブノウンと出会った。
自分が
そんな彼から離れることは、絶対に嫌だった。
(謝らなきゃ、謝らなきゃバーブノウンが居なくなっちゃう! そんなのは絶対に嫌っ!)
フィーダは意を決してドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こう側にはリビングが広がる。
フィーダは一旦立ち止まると、今度は階段へと向かった。
2人の寝室は2階にあるため、玄関の左側にある階段を登る。
そして階段を登りきったところで、もう1つのドアが現れた。
「――――」
フィーダはゆっくりとドアノブに手をかけ、そしてゆっくりと開いた。
ドアが開かれるとそこには、ベットの上で1人俯いたまま座っているバーブノウンがいた。
「――――バーブ……」
「――――」
バーブノウンの目にはハイライトが全く無い。
まるで何かに取り憑かれたような操り人形のようだった。
フィーダは思わずバーブノウンの名前を呼んだが、彼の耳には全く届いていなかった。
「バーブ……バーブ!」
「――――フィーダ……」
フィーダはバーブノウンのもとへ走りながら、彼の名前を呼ぶ。
ようやくフィーダがいることに気づいたバーブノウン。
しかし、表情は完全に死んでいた。
フィーダを見てはいるが視点は定まっておらず、ぼーっとしていた。
「バーブ……ごめんね――――」
「そうだよね、僕はいつだってそうだった」
「――――!」
フィーダが勇気を振り絞って謝ろうとした時だった。
バーブノウンが口を開いた。
「幼い時から病弱だったおかげで、周りから病人扱いされて馬鹿にされてきた。実家から旅立ってロレンスたちに出会って、勇者パーティーの一員として頑張っていこうと決めたのに……結局はこの体質のせいで雑用係として奴隷扱いされて……。僕はいつまで不幸に振り回されるんだろうなあ……」
「そ、そんなこと……」
「だからあの時フィーダは試したんでしょ?」
「えっ?」
「僕が使い物になるかどうか試すために、魔法を放ち合うことにしたんだよね?」
「ち、違う! そんなことをするために言ったわけじゃないの! あれはわたしのせいなの!」
フィーダは頭を横に大きく振ると、バーブノウンが座っているベットの上に乗って
バーブノウンの顔に自分の顔を近づけた。
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