追放者の冒険

うまチャン

第一章

第1話 前日

 マカル――――それはまるで中世の世界観を持つ異世界の国。

ここは人で溢れ、もちろん異世界物語でお馴染みである冒険者も存在する。

 スライムやドラゴンのように、ゲームで出てくるようなモンスターも出現する。

 そんな街で今、注目を集めているパーティーがいる。


「キルナ! 支援頼む!」


「分かりました!」


 シスターであるキルナは胸の前で合唱をすると、周りに明るい光を放ち始め、やがてパーティー全員に降りかかった。

 目の前にいる巨大なモンスターは雄叫びをあげながら突進してくる。


「ここは任せとけ!」


 男は巨大な盾を構えると、突進してくるモンスターを止める。

 大きな衝突音が鳴り響く。


「オラァァァ!」


「サンキュー、デル!」


「今度は私の番ね!」


 帽子を被った女は魔法詠唱を始めると、周りに円形の魔法陣が現れた。


「ファイヤーボール!」


 そう叫ぶと、魔法陣から炎の玉が飛び出し、モンスターを攻撃。

かなり効いたらしく、モンスターはもがき苦しんだ。


「仕上げは俺だ!」


 モンスターの視線の上には長い剣を持った、黄色い髪をした男が。

その男はそのままモンスターを切り裂いた。

 モンスターは悲鳴とともに倒れ込み、そのまま息を絶った。


「ふぅ……みんなお疲れ様」


「良いフィナーレだったわよ、ロレンス」


「さすが勇者候補だな」


「さすがです!」


 実はこの4人が今、マカルで話題を呼んでいるAランクパーティーである。

Aランクは冒険者で最高ランクに位置する。

この世界のいう勇者とは、世界最高峰の剣術、魔術を持つ者のことを言う。

 このパーティーのリーダー、ロレンスは今注目されている勇者候補の1人である。


「勇者になるための試験まであと1年……。もっと技術を上げないとな」


「十分すぎるような感じですけど……」


「良いかいキルナ。世界は広いんだ。俺より強い奴はいっぱいいると思う。だからもっと強くならなきゃいけないんだ!」


 ロレンスは目を細めて意志を3人に伝える。

 それを聞いたキルナはゆっくりとロレンスに近づき、体を彼に預けた。

ロレンスはキルナの頭を撫でると、キルナの頭にキスをする。


「ったくよぉ、俺たちの前でイチャつくなよな。そう思うだろ? アルセフル」


「はぁ……毎回毎回言わなくても良いわよ。もう慣れたことだし」


 先程ファイヤーボールを放った魔術師、アルセフルは溜息をつきながら答えた。


「さて帰るわよ。ここから帰るの結構大変なんだから」


「続きは帰ってからにしとけ、おふたりさん」


 ロレンスとキルナはお互い惜しみながらも体を離し、アルセフルとデルの所へ歩んだ。


「準備はいいかしら?」


「もちろん」


「オッケー。じゃあ行くわよ!」


 アルセフルは手を上げると、白い魔法陣が現れ始めた。

他の3人はアルセフルの周りに集まる。


「テレポート」


 その言葉と同時に4人は姿を消した。





◇◇◇





 ここはマカルの中で1番栄えてる都市、アッタ。

ロレンス一行が今拠点としている場所だ。

 中央には巨大なヨーロッパ風の城が立ち、

東西南北に幅の広い大通りの道が走っていて、その周りを囲うように街が出来ている。

 アッタは日本でいう東京のような、国の都市に属している街だ。

そのため国の取り決めも全てここで行われている。

 

「っと、着いたわよ」


「うっ、寒い! 早く入ろう」


 北の大通りにテレポートで降り立ったロレンス達。

マカルはこの世界上北の方に位置するため、夜は特に冷える。

 両肩を掴みながら、ガタガタ震えるデルは着いた瞬間に宿の中へ入っていった。

 残りの3人もつられるように宿の中へと入っていく。


「今日の討伐の報告は明日にして、今日は休もうか」


「分かりました――――そういえばあの人は……」


「あいつは放っておけ。どうせ咳き込んでるだろう」


 この勇者パーティーには、実はもう1人メンバーがいる。

 2階に上がり1番奥にある部屋。

ベットで寝込んでいる緑の髪の若い男がいた。


「調子はどうですか?」


「キルナ……ごほ、ごほ!」


「無理に起きないで、安静にしていてください」


 様子を見に来たキルナは、その男の横に座ると腕を組む。

するとキルナの表情が変わった。

虫を見るような、人を軽蔑する目をしている。


「明日、ロレンスが話をしたいそうです。朝早くに集まってください。もし来なければどうなるか分かってますよね?」


「分かってるよ、早く来るから……」


「ふん」


 キルナはそのまま立ち上がると部屋から出ていってしまった。

そして部屋を出た瞬間、キルナの表情はさらに変わる。

 清楚なシスターではなく、まるで欲望に塗れた女である。


「明日が楽しみでしょうがないですね……」


 キルナは静かに笑いながらロレンスの部屋へと向かった。


「伝えてきたか?」


「えぇ、早く来なければどうなるか、とついでに言っておきました」


「流石だキルナ。あいつの扱いをよく分かってるじゃないか」


 キルナはロレンスのベットに座ると、上着を脱ぎ始めた。


「明日が楽しみですね、ロレンス様」


「あぁ、笑いが止まらないよ。ずっとこの日を待ち望んでいたんだから」


 ロレンスは笑いながらキルナのいるベットの方へ行く。

そしてキルナと同様、服を脱ぎ始めた。

 キルナは服も下着も脱ぎ終わり、ベットへ倒れ込む。


「相変わらず綺麗な体をしているな……」


「そういうロレンス様も惚れ惚れするような体ですよ……」


「俺はキルナが受け入れてくれて嬉しいよ」


「わたしもです」


 ロレンスとキルナはゆっくりとキスをする。


「愛してるよキルナ」


「わたしも愛してますロレンス様―――あっ……」





◇◇◇





 その頃……。


「ごほごほっ……はぁ」


 苦しそうに咳き込む緑の髪の男。

キルナの話を聞き、少し考えていた。


「ロレンスに何話されるんだろう……」


 この男、実は体調がいい時はロレンス達に頼られる存在である。

パーティーの攻撃の前線として活躍しているが、この通り昔から病弱で寝込むことが多いため、あまり周囲に知られていない。


「もしかして……いや変な考えはやめよう」


 この男の名前はバーブノウン。

この物語の主人公である。

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