陰キャの俺と学校No.1美少女"吸血鬼"はみんなに隠れて×××している

浅見朝志

第1話 陰キャの俺は美少女の君とナイショの×××をする

 昼休み。7月初旬の都立斉京せいきょう高等学校の1年C組は、梅雨明けの直後の快晴ということもあって活気に満ちあふれていた。あちこちから聞こえる元気な声、声、声。

 

「陰キャには生きにくい……」

 

 俺といえばそんな雰囲気の中でひとり、本とにらめっこをしていた。

 

 ……図書室にでも避難しとけばよかったか?

 

 俺は人が多い場所が苦手だ。たくさんの人と関わるのも辛い。おかげさまで高校入学から3か月経った今も友達はゼロ。そんな陰キャ体質な俺にとって昼休みは拷問ごうもんに等しい時間である。

 

 ……避難とは言っても、図書室は1階なんだよなぁ。もしかしたら『今日も』呼び出されるかもしれないし、屋上に近いこのクラスから離れるのはちょっと……。

  

 チラチラとスマホを気にしつつ、本に目を落としていると、

 

「えっ、ウソ? グラシネのコラボカフェにもう行ったのっ⁉」


 窓側から、ひときわ明るい声が響く。


「うん、ねーちゃんとね。ホント良かったし美味しかったから! アカネも今度いっしょに行こー?」

「え~、ぜったい行く~!」


 窓際の黒板側の席に集まっているのは3人組の女子。クラス中の視線がそこに集まる。とはいえ、声が大きい・騒がしいというわけではない。目立っているのは主にその3人の内のひとりだ。


「じゃあ今日の放課後行っちゃう?」

「あ、今日は……ゴメン。私がちょっと無理かなぁ」

「え~、今日も? アカネ最近忙しいなー」

「えへへ、ゴメンね? 今日は他のみんなで行って?」


 申し訳なさそうな笑顔で両手を合わせて謝るその女子──姫野アカネ。明るい茶髪にバッチリメイクを決めた、抜群のスタイルを誇る美少女であり、コミュ強の陽キャであり、ギャルである。

 

 これまでにすでに20人以上の男子たちから告白され、その全てを断っているらしいという逸話いつわを持っており、『もはやこの高校に姫野アカネを知らない生徒など居ないのでは』なんてささやかれるほどのアイドル的存在だ。

 

「次はぜったい行くから!」

「アカネ居ないとツマんないんだからねー? ゼッタイだよー?」

「うん! がんばる!」


 そう言ってガッツポーズをするアカネに、クラスがほんわかとした空気に包まれた。

 

 ──姫野アカネは愛されキャラなのだ。彼女は誰にでも明るく優しいし、当たりも柔らかい。男女問わずの人気者になるのも頷けるというものだった。

 

 俺は本を読むフリをして、そんな彼女を盗み見ていた。アカネは何かを友人に告げると、ひとりクラスから出て行ったみたいだ。

 

 ……ということは、もしかして。

 

「っ!」


 昼休み終了15分前になった時だった。ブーブーッと、俺のスマホのバイブが鳴った。なにやら通知が来ている。


『これから、いつもの場所で大丈夫?』


 ……やっぱりきた。呼び出しだ。

 

『大丈夫』

 

 俺はそうリプライして、ソロリと席を立つ。

 

 ……まあ、別に誰も俺なんかの行動なんて気にも留めないだろうけど、いちおうな。

 

 俺は1年C組の教室から出て上の階へ向かう。現在位置は4階。校舎の中央にある階段を上ると、5階にあるのは美術室。人気ひとけは無い。その脇にはひっそりと、教師にも生徒にも忘れ去られたような、そんなうす暗い階段がさらに上へと延びている。その先にあるのはこの高校の屋上へ繋がる扉のひとつだ。


 その階段の途中で、

 

岸守きしもりくん」


 屋上の扉前から小さく抑えた声で、ひとりの女子生徒が俺の名前を呼んで手を振ってくる。俺はそれに手を振り返した。

 

「待たせてごめん──姫野さん」

「ううん。今日は遅くなって、こっちこそごめんね。岸守くん」


 そう言って俺に微笑みかけるのは姫野アカネ。正真正銘、さきほどクラス内の視線を独り占めしていたあの美少女だ。


「いや、気にしてないよ」

「そっか、それなら良かった……じゃ、時間も無いし」


 アカネは頬を少し赤らめながら、その両腕を俺の腰に回してくる。


「いつもの、しよっか……?」

「うん」


 俺が頷くと、アカネの顔が近づいてくる。その目はつむられていた。アカネの健康的なピンク色の唇がいっそう綺麗に際立った。


 ──そして俺たちはキスをする。

 

「んっ……」

 

 探るように俺が唇を動かす度、アカネの唇から甘い吐息が漏れる。実際甘い。なんだかベリー系の香りがする。


「……ぷはぁっ」


 30秒ほどで俺たちは互いに顔を離す。アカネの顔は赤く、蒸気するようだった。俺へとしがみつくように抱きついてくる。

 

「き、岸守くん、お願いっ……」

 

 息荒く、耳元でアカネがささやいた。俺は頷き、自分の夏服ワイシャツのボタンを緩める。ゴクッと、アカネが生唾なまつばを飲み込む音がした。

 

 ……待ち切れ無いみたいだな。

 

 俺は緩めた襟元えりもとから急いで左肩をあらわにし、その状態で再びアカネを抱き寄せた。


「もう、いい……? 噛むよ……?」


 耳元で呼吸を荒くするアカネの背中をさすることで、俺はOKサインを出した。

 

「……ありがと、いただきます」


 アカネのその言葉の直後、首元にしっとりとした唇が首に当てられ──チクリとした痛み。そして、チュルルルッという音が響く。


「……っ!」


 俺は思わず漏れでそうになる声を、口を押えてこらえた。

 

 ……全身がしびれるほどに気持ちが良い。腰が砕けて座り込みそうになるほどのゾクゾク感。美女に体中をまさぐられるような快感だった。

 

 ゴクリゴクリとアカネが喉を鳴らして【俺の血】を飲んでいく。それが1分ほど続き、

 

「ぷはっ、ごちそうさま」


 アカネの唇が俺の首から離れ、傷口に舌が這う。

 

「いつもよりいっぱい飲んじゃったかも。ごめんね?」

「大丈夫、なんともないよ」

「そっか、よかった。何だか今日は一段と美味しすぎて」

「そりゃ嬉しいな」


 俺の答えに、アカネはホッとした様子で微笑んだ。


「ねぇ、岸守くん。今日の放課後もいつもの公園で、どう?」

「そうだね。じゃあそこで」

「うんっ! 楽しみにしてるね!」


 俺たちはそれから少し話して、昼休み終了5分前を報せるチャイムでいったん別れる。満面の笑顔で手を振りながら先に降りていくアカネを見送って、


「……はぁぁぁ」


 俺はその場に表情を緩ませきって座り込んだ。

 

 ……嗚呼ああ、今日はなぜか一段とキョーレツに気持ち良かった……。

 

 人間と吸血鬼が共生する現代において、準性行為に位置づけられる【吸血】。まさかソレを俺が受ける羽目になるとは。1カ月前の俺だったら考えもしなかっただろう。

 

 今日はクラスNo1陰キャである俺──岸守きしもりケンと学校No1美少女であり【吸血鬼】である姫野アカネが付き合い初めて1週間。そして、吸血に関してのふたりのルールを作って1カ月が経った日だ。

 

「俺が姫野さんに血をあげる対価として姫野さんが俺にチューをする……もう付き合ってるのに、いつまで続くんだこのルール」

 

 いい加減そろそろ普通のキスがしたい。そうは思うものの、


「キスしていいですか? って訊けばしてくれるのかな? でも、勇気がなぁ……」

 

 陰キャの俺にはハードルが高い。


「はぁ……とにかく、今は付き合ってるのがバレないように全力を尽くすとするか」

 

 俺は陰キャとして静かに暮らすため、注目を集めるのを避けたいと思っている。

 

 アカネは自分が吸血鬼であるということを隠したいと思っている。

 

「……よし」

 

 深呼吸をして平常心を取り戻す。ふたりの平穏を守るため、俺は絶対に隠さねばならぬ秘密を抱えて階段を降りるのだった。




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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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