第2話 映画は夕暮れ《閉館した映画館》
反省から入ろう。
出来るだけ具体的に、身バレ上等で書こうと決めたのに早速前回、『神社』という一般的な言葉を使ってしまった。我が家では「頓宮さん」もっとテキトーに「とんぐさん」と呼んでいた神社である。この神社が舞台になる思い出は幾つもあるのでそれは後に回すが一つだけ今言えるのは現在この「とんぐさん」縁結びのパワースポットで有名らしい。なるほど声を大にして言いたい。
「あ゛?」
これ以上は風評被害というものにあたるだろう。では今回の本題に入ろう。そちらも前回を引っ張る。≪映画のポスターが貼ってあってゼンソクバナ(これも要検索)の咲く駐車場≫と記述した。ゼンソクバナは思い出した。セイタカアワダチソウだ。同居の祖父が喘息持ちでこの花の花粉が飛ぶ頃になると発作を起こしがちだったので「ゼンソクバナ」と呼んでいたのだと思う。
続いて「映画のポスターが貼ってある駐車場」とはどういう状況なのか。屋内か?そうではない。正確には駐車場の隣の板塀(…まぁ、塀なんだろう。シンプルに「板」とお呼びしたい形状だったが)にいつも映画のポスターが貼ってあった。今回はその映画のポスターの話。
その前にもうちょっと駐車場の話をすると、セイタカアワダチソウの他ヒメジョオンにぺんぺん草、ひっつき虫なんかが、敷地を囲むバラ線からはみ出して生い茂っている、今思えば中々治安悪げで風情有る場所であった。
さて映画のポスターの話。
はっきりと覚えているのは二つ。一つは「食人族」である。
いきなりそれかという話である。あの印象的な…ええと表現しようと思うとどう考えてもグロ制限かけなきゃならないんだけどだからそういうのをね、往来に貼るなと!…は思わなかった、当時。子供で怖いもの知らずだったというのも有るし、これはぼんやりとした記憶だが、当時なんかそういうショッキング映像みたいのが流行っていたのだ。だから、ほぼ何とも感じなかったのと同時に今でもその画を覚えているし、銭湯の行き帰りなので大体夕暮れ時で、そのぼんやりと急くような気持ちも覚えている。
もう一つは「パラダイス」である。男子が、CMの「ぱぁらだいす(吐息)」の真似を良くやっていた。
そもそも、近くに映画館がむっちゃあったのだ。
狸小路1丁目の帝国座、狸小路3丁目の松竹遊楽、丸井さんの向かいの東宝日劇、狸小路5丁目からやや北側の東映、すすきのの東宝公楽。
覚えている中で一番最初に見た映画は帝国座で「八つ墓村」だった。家族みんなで見に行って、ホイルに包んで焼いたじゃがいもを持って行って食べながら見た。映画館にはポテトだろう。日劇は地下のレストランで初めてピザというものを食べた。東映は高校生になってからの話だが、東映まんがまつりとセーラームーン、そして何より「まごころを、君に」に叩き出された。東宝公楽は「模倣犯」を見終えてロビーに出た客達の声には出さねど一体感。嗚呼一体感。あの一体感は後の「宇宙戦争」まで感じた事がない。
狸小路3丁目の松竹遊楽館では「ジャンク 死と惨劇」がかかっていたのだが、そのワンシーンを再現したマネキンが劇場前に置かれていた。電気椅子のシーンだ。檻の中に電気椅子に座ったマネキンが置いてある。目にべったりと絆創膏?が貼られているのがミソだ。何故かと言うと…だからグロ規制ってどこらへんから必要なんだ。ともかくその絆創膏が必要なんだと父が得意げに教えてくれた。
アーケード商店街のド真ん中に電気椅子処刑中の等身大人形が置いてある。今思うと中々狂ってんなと思うのだが、あれは多分映画館独自の販促物じゃなく配給会社から支給されたものじゃないだろうか。私はずっとそう思っているのだが。
そして幼少の私はバカなのか怖いもの知らずなのか無垢なのかバカなのかバカなのか、とにかくただそれを面白がって通りがかる度に近くに寄って眺めていた。
が、ある時不意に母がそれを嫌がった。或いはずっと嫌がっていたが耳に入っていなかったのかも知れない。母が言ったのは「やめなさい」ではなかったと思う。シンプルに「イヤ!」だったか「怖い!」だったか。
それが突然耳に入った。途端に怖くなった。
当時、夕涼みに、家族で狸小路をブラつく事があった。その時も夕涼みの途中で、突然そこが夜だった事を思い出し、ここから夜の中を家まで帰らなければならない事、そもそもこのアーケードを抜けるまでに結構な距離がある事も思い出し、途端に電気椅子人形に近寄れなくなった。
今回は映画の話。で、出て来たのが「食人族」と「パラダイス」と「ジャンク」っていうのも尖りすぎなので、最後にほっこりとまとめたいと思う。
銭湯にも映画のポスターがいっぱい貼ってあって、もちろんの事「男はつらいよ」のポスターもあった。私は、「は」を「わ」と読む事を覚えた後も何故か「男は(わ)」と読む事が出来ず「男、はつらいよ」と読んでいた。「はつらいよ」とは何なのか、大人になればわかると思っていた。
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