ゲーム世界転生〈ダン活〉EX番外編~ハンナちゃんストーリー~

ニシキギ・カエデ

第0章 ハンナちゃん無双企画

第1話 プロローグ1 ハンナちゃんが無双する日(夏休み)




「のわぁぁぁぁぁ、助けてくれーーー!!」


 その叫び声が聞こえてきたのは突然でした。

 私は採取する手を止めて声がした方へ振り向くと、3人の人影がこっちめがけて必死な形相で駆けて向かってきている光景が目に入りました。


 ここは初級中位ダンジョンの1つ。〈野草の草原ダンジョン〉。

 ゴブリンが跋扈する、あまり難易度の高くないダンジョンです。

 こんな叫び声が上がるということは、多分一年生、しかも〈戦闘課〉じゃないですね。

〈採集課〉かそれとも〈支援課〉か、もしかしたら〈生産専攻〉の人かもしれません。

 しかし、いったいどうしたのでしょう。


 そう思って見ていると、人影はどんどん近づいてきました。

 あれ、これってもしかして私へ向かってきています? このままではぶつかってしまいます。

 私は慌てて声を掛けました。


「すみませーん。ここに人がいまーす」


 そこで駆けている人たちが前にいる私に気がつきました。


「!! ねえ、前に人、人が居るわよ!?」


「ゲッ! やべぇ! おいあんた! 逃げろ! 〈ソードゴブリン〉が12体も後ろから来てるんだ!」


「頼む逃げてくれ! トレインなんかした日には俺、生徒指導室送りになっちまう!?」


 彼らの叫びを聞いてその後ろを見てみれば確かに、見事にソードばっかり、ゴブリンを大量に引き連れていました。


 これはゼフィルス君に聞いたことがあります。

 トレインという現象です。


 モンスターから逃走するときに失敗すると起きる現象で、モンスターを引き連れたまま逃走している状態の事を言うそうです。

 確かAGIが低いといつまで経ってもモンスターを引き剥がせないと言っていました。


 あ、今気がつきましたがソードだけじゃないですね。ソードの後ろに、何組かのモンスターを引き連れてしまっているようです。

 ここ〈野草の草原ダンジョン〉では最高で4体一組しかポップしないので最低でも四組以上連れて逃げているようです。

 モンスターを連れながら逃走中も通常通りエンカウントするので、その逃走にも失敗するとこんな感じに何組ものモンスターを引き連れてしまうことが有るそうです。

 これがトレイン。とても危険な状態です。


 さらに問題なのは、そのトレインしたモンスターのなすり付けという現象で、逃走中に他の人とすれ違うと、高確率でトレインしたモンスターを他の人に擦り付けてしまうのです。


 これは非常に危険な行為で、もしトレインで擦り付けをした場合、学園からも厳しく処罰が下されるとフィリス先生からも聞きました。


 私も初めて遭遇しますが、多分ここまで近づいてしまうともう擦り付けは成立してしまっていると思います。

 このままではピンチです。

 私は生産職なので〈ソードゴブリン〉たちに近づかれたらひとたまりもありません。


 逃げましょうか?

 うーん。そうすると、私も逃走中の彼らと同じ立場になってしまいます。

 もし、他の人に擦り付けてしまったら私も責任を負う立場になるかも? 詳しくは知らないのですが、もしもゼフィルス君や他のみんなに迷惑をかける、なんてことは避けたいです。


 じゃあ、やっちゃいましょう。


「お、おいあんた! 見たところ生産職だろ!? 逃げろ! 生産職が敵う相手じゃねぇ!」


「ひいぃ終わりよ! 終わりだわ! こんなことなら大人しくやられて〈救護委員会〉に救助を頼めば良かった!」


「ってあなたはハンナ様!? 八方塞がりぃ!? 実際には二方からだけどぉ!」


 最後の方はちょっと余裕がありますね。というより知り合いでした。何をしているのですかサトル君。

 追いかけられていた1人は、私と同じく〈生徒会〉の仕事を一緒にする同級生でした。


 知り合いがピンチとあれば、なおさら放っておくわけにはいきません。

 やっちゃいましょう。


 私は採取に使っていた〈優しいスコップ〉を〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に仕舞うと、すぐに目的のアイテムを取り出します。


「いきます。“錬金砲れんきんほう”〈筒砲つつほう:エナジー〉と〈筒砲つつほう:ロックガン〉」


 素早く錬金砲を取り出し左手で一つ、右手で一つを持って構え、後ろから追いかけてくるゴブリン集団へ狙いを定めます。

 ついでに駆けてくる3人にも忠告しないとですね。


「当てないように撃ちますからそのまままっすぐ走ってください。

――“錬金砲”発射ドン!」


 瞬間、私の両手に持つ筒からパンという音と共に黄緑色のエナジーボールと人の頭くらいの大きさの石が発射されました。

 それはこっちに向かってくる3人に当たらず、後ろのソードゴブリン2体に正確にヒットします。


「ゴブゥ!?」


「ゴビャ!?」


 1体はその場で転倒ダウンし、もう1体は吹っ飛びました。


「……へ?」


 女の人が呆けた声を出して速度を緩め始めました。

 これでは追いつかれてしまいます。

 私は彼女に近いソードゴブリンに狙いをつけます。


「次いきます! ――“錬金砲”発射発射ドドドン!」


「ゴビャ!?」


「ビャビャ!?」


 撃ったエナジーボールと大石が正確にゴブリンにヒットします。

 狙い通りです。私はDEX値には自信があります。生産職だもん。


 でも今ので筒砲の残弾数が無くなりました。

 私はその場に両手の筒砲を落とします。


「――次弾装填じだんそうてん


 そして再び〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から錬金砲を2つ取り出して両手に装備、構え狙います。

 ここまでの動作、1秒。

 ゼフィルス君にとっても鍛えられましたから結構装填スピードには自信あるんですよ?


「――“錬金砲”発射ドン! 発射発射ドドドン! ――装填」


 後は繰り返すだけ。

 ソードゴブリンの足は遅いので近づかれる前に近いのから吹っ飛ばします。

空間収納鞄アイテムバッグ〉にはまだまだたくさん筒砲の残数が有りますし、私も中級下位ダンジョンまで攻略している身です。ここ初級中位ダンジョンでは遅れを取りませんよ?


 しばらく砲台ほうだいしていると静かになりました。

 結局合計22体もいたゴブリンたちは全てエフェクトに沈み、ドロップだけが残されていました。

 これでも中級で活躍する攻撃アイテムです。初級モンスターではひとたまりも無かったでしょう。


 これで、ひとまずの危機ピンチからは脱却しました。

 でもまた厄介事になりそう……。

 私は振り返り、いつの間にか私の後ろに退避し、唖然としている3人に手を振りました。


 とりあえず3人が無事で良かったです。




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https://kakuyomu.jp/works/1177354055504974517

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