第3話 あの丘に桜が咲いたらキミと

 僕は毎日あの丘に登り、写真を撮ってSNSにUPし、写真雑誌に投稿した。


 タイトルはいつも、あの丘に桜が咲いたらキミと。


 先輩がいつかそれを見て、いいねって言いにきてくれるかもしれない。


 その一ミリの可能性を信じて撮っている。


 僕は鉄道写真家になっていて、その話を誰にでもした。


 伝わらなかった僕の返事。


「それでも、キミが好き」


 僕はそれを、ただ発信し続けた。


 ある年、僕は大きな賞をもらった。


 誰よりも、佐倉先輩にほめられたい。


 そう祈り、僕がいつもの丘でカメラと列車を待っていると、先輩は急に後ろに立っていた。


「ええ写真、撮れたね」


 びっくりしたせいで、僕は列車を撮りそこねた。


「いややぁ。ヘタクソ」


 ニヤアっと笑う先輩の顔は相変わらず綺麗だった。眼鏡も、ボサボサの髪も。


「ほめてよ、先輩」


「もうほめたやん」


 先輩は照れくさそうに困っていた。


 僕は先輩の痩せた体を抱きしめた。もうどこにも消えないように。


「ずっと一生、ほめてもらえませんか。いい写真が撮れた時だけでいいんです」


 僕を抱き返す先輩の背中に、僕は頼み込んだ。


「キミ、変な子。ウチみたいなのがええの?」


 先輩は不思議そうだった。その丸い眼鏡の奥の、真っ直ぐで美しい煌めき。


 それを見つめて僕は笑い、うなずいた。


END

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