第251話 レニー対ガンズ

 レニーはロープで囲われた広大な裸地で、エルダードワーフの盾士ガンズと向き合っていた。広さはサッカーコートに近い。


 エンジェルの試合開始のホイッスルが鳴る。レニーの相棒のブルースが、ペルソナ結界を張って守る。ペルソナはブルース自身だ。


 2メートルもあるロックゴーレムが4体出てきて、ブルースの結界を力任せに叩いてくる。結界との力比べだ。ブルースは吹き矢で毒針を打つ。ガンズは嘲笑している。吹き矢でロックゴーレムが倒せるはずがない。


 1か月、レニーは鍛えてきた。ブルースの毒針の長さを1センチに短くした。その分太くして重さは2倍に。ドラゴンブレスを100分の3に上げた。そしてクルールタイムを0,1秒に短くした。


 追尾システムも改善されて、味方は座標を共有して同じ目標に誤差なく攻撃できる。


 攻撃するのは結界化しているブルース。結界上を移動しながら攻撃できる。投擲で毒針を打つレニー。それにカードモンスターになっているジャイアントキラービー。


 レニーはこのカードモンスターにビーという名目を付けていた。ビーも毒針を使う。連射される毒の弾丸はそれなりに強い。ビーは飛翔攻撃ができる。


 彼女以外のコオロギやカードモンスターも連れてきているが、ビー以外は生贄要員だ。リンクは同じ次元に来た仲間の間では使えるが、レニーは後続の試合への影響を怖れて、あえてリンクを切った。


 コオロギやカードモンスターには、生贄スキルで身代わりになってもらう。彼等はリポップできるから問題ない。


 ロックゴーレムの魔石のありかは心臓だと見当がついている。1センチの目標を1秒間に15個の大小の弾丸が襲った。1体倒した。ロックゴーレム1体を倒すのに1万発の毒針が必要だった。このままでは1時間近くかかる。


 レニーはもう一つの結界を試合場全体を覆うように出す。こちらはキラービークイーンのペルソナ完全結界だ。空気の流入も遮断するので3日あればガンズは息ができなくなって死ぬ。


 だがそんなに長い間待ってくれるわけがない。キラービークイーンの攻撃も毒針である。こちらも連射可能。ただし1秒に1発しか打てない。座標も共有。弾丸は1キロある巨大なものだ。


 キラービークイーンの攻撃参加で、12分でゴーレムを破壊しきる。レニーも3倍速の投擲で健闘している。


 ガンズが地中から岩槍攻撃をして来る。ガンズは盾士なので、遠隔の攻撃魔法がない。攻撃は土の大精霊ノームに頼るしかない。


 地中から槍のような鋭い岩が何本も突き出てくる。レニーは岩槍を予見していた。ブルースの結界は地面にも張られていて死角はない。


 レニーは地中から、キラービークイーンの大砲で攻撃。岩槍のお返した。ガンズは一発食らって慌てた。盾は下からの攻撃に向いていない。だがこれしきでガンズを傷つけることなどできない。



 戦いが一段落したところで、レニーが舌戦を仕掛ける。


「ガンズ。あんたカリクガルに恨みあるの。個人的な恨み」


「俺の親父はよ、先代のカナス辺境伯に殺されている。これは俺にとっては復讐なんだ。ドワーフ女によ、復讐もできない男は、フニャチンと言われて、侮辱されるんだ」


「私は家族と思っていた人たちを一気に失ったわ。それでね、怖くなってパニックになって、引きこもった」


「俺たちは敵ではない。カリクガルを倒す同志なんだ。だから今日も憎くて闘っているわじゃない」


「それは私もそうよ。私が聞きたいのはカリクガルを倒した後のことよ。その後あなたはどう生きるか。復讐を終えた人が真っ白になってデクノボーにならないか。あんたを心配しているの」


「まだそんな先のことはなにも考えられないな。ただ強くなって、カリクガルを倒す。それがドワーフの男にとって一番いいことだ。やらなきゃ男になれない。それだけだ」


「カリクガルを倒しても、私もあなたもまだその先を生きなければならないのよ。その覚悟をがあるか聞いている。ガンズ。あなたにその覚悟あるの」


「悪いけど考えたことがなかった。そこまで余裕がなかった」


「ガンズ。お前は既に負けている。男にこだわっている時点でダメ。それ世間の評判だから。自分の内面に戦う理由がないじゃない。本当の勇気がないわね。あんたには」


「お前には覚悟があるのか」


「最初の段階は凍り付くこと。でも私はそこからレイ・アシュビーによって一歩進むことができた。戦う人間になったの。でもレイ・アシュビーは戦った後に、相手を許せと言ったのよ。そして最後にはそれを忘れなさいとね。あんたはこのままじゃ、カリクガルに勝ったとしても、抜け殻になる」


「そこまで考えたことがなかった」


「戦いは勝って終わるわけじゃない。戦いの後まで見通せないとは未熟なり。ガンズ」


「レニー。勉強になった。だけど今のお前じゃ、俺には勝てない。偉そうにするのは、俺に勝ってからにしな」


 戦いは再開した。ゴーレム5体が出てきた。なりふり構わず、犬やコオロギ、ヒト男などのカードモンスター50体がロックゴーレムに打ちかかる。


 ロックゴーレムは雑魚すぎる犬やコオロギなどは相手にしない。ひつら両手で結界を殴りつける。同時に岩槍攻撃、さっきより激しい。


 レニーは自分の毒針をガンズに向ける。ガンズは持っている盾でレニーに向けて針を反射する。もちろん結界を通過することはない。どちらも守備を役割とするせいで、攻め手が少なく膠着状態である。


 能力値平均が半分しかない割には、レニーも健闘している。ロックゴーレム5体と13本の岩槍にブルースの結界が耐えている。


 だがこの程度か?カリクガルと戦うレベルには遠い。コオロギやスライム、カードモンスターなどいくらいても力にはならない。それでも桁違いに格上の敵と戦って、コオロギたちは戦いながら能力値を上げていた。


 しびれを切らしたガンズはついに切り札を使う。レニーたちの足元に大きな穴が開く。無気味な地鳴りが聞こえて、大地が揺らいだ。そこからマグマが噴き出してくる。小火山噴火だ。


 ノームの大技だ。これに対抗できる存在はまずいない。レニーたちも結界ごと、広いはずの試合場から吹き飛ばされていた。


 格上のガンズとしては、ここまで全力を使いたくなかった。ノームのスキルの中でも、小火山爆発は地形を変えるほどの大技である。能力値800越えとはいえど、連発できるものではなく、最終手段の一つだった。


 勝てたとは言え、結構しぶとい相手であったことは確かだ。これが10歳のチビかと思うと末恐ろしい。


 しかも口頭の舌戦でガンズはたじたじだった。レニーは自分の体験の中から、なぜ戦うのか、戦い終わった後どうするのかをしっかり考えていた。ただ勝てばいいと思っていたガンズにも、考えさせられる内容だった。


 カリクガルの攻撃を受け耐えきるには、レニーの結界では非力であると、ガンズは思う。レニーは今回自分を守る結界と、攻撃する結界を別の場所に出した。二つの結界の連携がなかった。あれじゃ弱い。


 ガンズにはまだまだ防御手段がある。土壁も自慢の盾術も見せ場がなかった。防御力ではガンズの方が勝っている。


 レニーの結界の長所は、わざわざ敵のヘイトを稼ぐ必要がないことだ。ガンズは公平に敵を評価する。ガンズの場合だと、敵のヘイトを稼ぎ、味方の後衛には、絶対に攻撃が向かわないようにしなければならない。


 しかし賢いカリクガルが、わざわざ防衛力の高いガンズにだけに攻撃を向けるだろうか。先に後衛の魔導士を倒されては、彼は攻め手を失うのである。


 自分の戦い方を反省するガンズだった。














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