第125話 投げダン

 索敵隊は予備役を招集した。予備役は20人。テッドによる1週間分の休業補償が出された。領主から各職場へのお願いもされているので、みな問題なく1週間休めた。


 森を抜けてピュリスに侵入する敵を、捕捉し拘束するのが索敵隊の役目である。ジュリアスはルミエに協力を求めた。夜間の索敵隊のチーフをしてほしかった。


 24時間体制の監視では、念話ができて、しかも眠らないリーダーが必要だった。候補は一真とモーリーとルミエ。モーリーはマイペースだし、一真では負担が偏りすぎる。


 ルミエは明るいときは、レニーの育成を任されていた。だが夜なら可能だったので、快く承諾してくれた。任務は索敵隊の8人がメインになる。4人ずつ、12時間交代で監視する。


 森の中に「リスの道」を作った。木の枝にロープをかけて、2メートルくらいの高所を歩けるようにした。迷彩服を着て、気配遮断し、忍び足のブーツ(改)で歩けば気づかれることはない。


 リリエスが柔らかい皮で手袋を作ってくれてた。手袋には爪がついていて、この爪がリスの道を移動する時役に立つ。忍び足のブーツにも爪をつけてくれた。それが忍び足のブーツ(改)である。


 リスの道を常時4人が巡回する。昼のチーフはジュリアス。夜のチーフはルミエ。チーフは常時全体を俯瞰している。敵は照明を持っているから夜間の方が発見しやすい。索敵に慣れていないルミエでも大丈夫。


 敵を発見したら犬笛を吹く。短音の数で皆に位置が分かる。近くにいる者が集まって拘束する。セバスの監視の範囲なので、セバスが発見すると、チーフに念話がいく。二重チェックだ。


 予備役の役割は?何のために職場を休んだだのか。そのために臨時の小屋を8カ所に作った。リリエスの拠点とはずらしてある。彼等はここで待機している。別に室内にいなくても良い。犬笛が鳴ったら、近くの者が逮捕に協力する。


 主に吹き矢で麻痺させる。リスの道の高さから、音もなく吹き矢で狙われたら、大抵の人間は防ぎようがない。索敵隊は全員吹き矢スキルを持っていて、十分訓練されている。しかも敵というか、群衆たちはたいていが素人なのである。


 予備役の者は敵をロープで拘束し、荷馬車で衛兵に届けるのが仕事だ。それ以外には非番の時は、気が向いたときに1日数時間散歩してもらう。そんなに大変ではない。でも大事な仕事だ。補助業務を軽視すると、致命的失敗をする。


 リリエスとモーリーはいつも通りに森で仕事をしてもらう。一真とワイズには気が向いたときに来てもらう。ワイズも24時間潜入中。それでは疲れるから、息抜きに森に来てもらう。サイスとケリーは1時間ずつ。気まぐれにアリアやクルト、エルザも参加してくれる。こういう細切れ参加も大事だ。


 ゴーレム馬も10頭、やる気なさそうに、のんびり巡回している。彼等は分散配置されていて、監視の穴をふさいでくれる。しかし気配察知できるように改良されて、不審な人物を見ると、犬笛の高さの音を出してくれる。短音で正確な位置も知らせてくれるのだ。


 きっちりしたローテーションはあえて組まない。確実に決まっているのは、二人のチーフと8人の索敵隊。予備役の小屋での待機の順番だけ。あとはいい加減だ。


 セバスが念話を使って、今そこにいる人を最適な位置に誘導してくれる。ランダムを組み込むことで、監視体制が敵に察知されないようにしている。根幹は徹底的に隠す。見えるところはいい加減。一真の発想である。


 ここはカリクガルの魅了無効化の実験場でもある。カナス辺境伯夫人の魅了は強力だ。対策は第1に魅了に呪縛を重ね掛けすること。第2に麻痺毒の武器で麻痺させること。第3にあらかじめ睡眠耐性のポーションを飲んで、睡眠の毒霧で敵を眠らせること。本番の前に様々な戦術の有効性が森で試された。


 中でも有効と思われる新戦法がある。エルザが提案した「投げダン」である。敵を殺さずに拘束するには、一般的には罠が有効である。落とし穴やその他の罠の設置は、冒険者ギルドが進めている。


 エルザの提案した「投げダン」は、ダンジョン入り口を罠として設置する方法だ。ドライアドのダンジョン同盟はもともとそのために作られた。ダンジョンが攻撃された時、敵を他のダンジョンにランダムに転移させて、分散し個別化して切り抜けるのである。


 例えばダンジョン攻略のために、勇者パーティーが乗り込んできた場合を考えよう。パーティは強いが、一人ずつ孤立化したら案外無力なのだ。ヒーラーは一人では何もできない。そしてヒーラーがいないパーティーは脆い。まして一人にされたらどうなるか。言うまでもないだろう。


 この「投げダン」を城門に設置したらどうだろう。群衆が怖いのは数が多いからである。それを分散させる。群衆は城内に突入したつもりが、どこか見知らぬダンジョンにいることに気がつく。しかも自分一人だ。


 「投げダン」の問題点は死亡率が高いことだ。一人でダンジョンの深い階層へ転移したりすると絶望的である。海上に飛ばされ、一瞬でリバイアサンに殺されたりする。人間は殺したくなかった。奴隷商に売ればお金に変わるのである。殺すのはもったいない。


 索敵隊は最初敵をランダム転移させて、2時間後に帰って来る設定で実験を始めた。死亡率は50%。転移先を第3階層までに制限すると2%の死亡率になった。98%は生き延びていた。ボロボロで心は折れているが。


 新作戦なのであらかじめ、領主の長男ダレンにも効果を確認してもらった。了承されたので、本番でも使える。上手くいくと良いのだが。

 














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