11話 大人たちは分かってくれない
その後俺たちは事態を究明するため奔走した。
もちろんモブキャラとして出来る範囲内での話だ。
主にのび太のクラスである隣の3-Bに行き情報を集めた(俺と蜂屋さんは3-Aだ)。
のび太がイジメられていたことはどうやら間違いないようだった。
放課後や休み時間……ひどい時には授業中にものび太は呼び出されてどこかに行き、その後は決まって憔悴していたり、明らかに殴られたような跡があった時もあった、という情報が入ってきた。
ただ、それをやったのが允生たち3人である……という確たる証言は誰からも得られなかった。あるいはのび太をイジメていたのはあの3人だけでなく、もっと多くのヤンキーたちが絡んでいたのかもしれない。
組織化されたヤンキーの話を聞いているとその方が妥当に思えてきた。
それでも俺はその情報を基に先生方に話をしてみた。
俺のクラスの担任の佐津川先生。のび太のクラスの担任の西山先生。それに直接は関係が薄いが一縷の望みを託して松永先生にも話を聞いてもらった。モブキャラには出過ぎた真似だったかもしない。
3人とも最初は丁寧に話を聞いてくれた。イジメなど絶対にあってはならない!という言葉も共通して口にしていた。
だがヤンキー3人衆によるイジメが原因で海堂のび太は学校に来なくなり、そして退学させられた(アイツが退学を選んだのではない。アイツは退学させられたのだ!)という段に話が及ぶと先生たち誰もが首を傾げた。
彼らが海堂君をいじめていたという確たる証拠はあるのか?
あんまり人のことを簡単に疑うのは良くない。彼らに一切その事実がなかった場合、学校側はどう責任を取れば良いのか?
それよりも残念ながら事実として海堂君はすでに退学してしまっている。去って行った者よりも残っている彼らの方を大事にすべきではないか?
たしかに彼らはヤンチャな部分もあるが、同じ生徒であることには変わりないし彼らには彼らの将来があるのだ。
もちろんいじめが事実として起こったというのであれば、同様のことが二度と起きないよう万全の対策を期するが、現在そういった兆候があるのか?……無いのであれば少し様子を見ようじゃないか。
3教師たちが異口同音に同じ内容のことを語った。
先生方の人間的個性よりも、統一した教育方針が徹底されていることに呆れと感心が混じり、俺は笑ってしまいたい気分だった。
「……ダメだった。どうしようもないよ……」
俺はいつものように蜂屋さんに話し掛けた。
もともと俺がまともに話せるのは蜂屋さんとのび太だけだったが、のび太がいなくなってからはコミュニケーションを取れるのはほとんど彼女のみになっていった。
他の生徒たちと必要から話すことはあったが、それはコミュニケーションとは異なる。
1週間ほどこの件に関して奔走した結果は見事な惨敗だった。
残ったのは圧倒的な徒労感と大人たちへの不信感だった。
一般生徒たちにはほとんど腹は立たなかった。彼らは状況を薄っすらと知りながらもヤンキーたちに次のターゲットにされるのが怖いのだろう。もちろん俺だって同じ立場だったら同じような反応をしただろう。……いや、モブキャラに徹するためには、知っていた情報の提供すら拒んだかもしれない。そういった意味で言えば僅かでも情報を提供してくれた生徒には感謝しかなかった。
「……そうですね。本当に悔しいです……」
蜂屋さんも唇を噛んでいた。
彼女の悔しさには恐らく弟さんのこともある。
ついに先日、弟さんは夏休みに行われる学校見学会に申し込んだというのだ。この
最も近しい人間が憎きヤンキーたちに取り込まれてゆくかもしれないのだ。その感情は推して知るべしだ。
俺の場合に置き換えて考えてみる。
もし小町がグレてこの学校に来たい、ギャルになって一番強いヤンキーの男と付き合いたい……などと言い出す場面を想像すると死んでしまいたくなった。蜂谷さんはよく正気を保っていられるものだ。
「ねえ……これからどうすれば良いんだろうねぇ?このまま泣き寝入りするしかないのかな? 」
俺は少し泣き言めいたことを言っていた。
別に蜂屋さんに慰めてもらいたくて言った訳ではないと思う。本当に事態をどう収めれば良いのか分からなかった。
「……どうなのでしょうね?私にももちろん分かりません……。海堂君はどう思っているのでしょうかね? 」
あれから何度もアイツにメッセージは送っている。
もちろん何の返事も送られては来ない。既読の文字も一切表示されない。
……だけどアイツは俺のメッセージを間違いなく読んでいる、と俺は確信していた。当然何の根拠もない。単なる希望的観測だと言われたら反論することは出来ない。
でもアイツとは中学からの付き合いだ。アイツの行動も反応も感情も手に取るように分かる。俺は自分の直感を確信していた。
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