ニンジャ犯科帳

@ikehaya

玄米はどこに消えた?

結:また……減ってる。


しんしんと雪が積もる冬。

結が管理する、伊賀の食料庫から連日備蓄米が減っている。

そういえば、昨年も同じ時期に、茶菓子用の煎餅が妙に減っていた。

いずれも大きな問題になる量ではないが……結は令に相談する。


令:……備蓄の玄米が減ってる?獣ではなくて?

結:違うようです。酉花が毒餌を仕掛けてから、寄り付かなくなりましたし。

令:……ハヤテに聞いてみましょう、彼なら、なにか気づいてるかも。


====


ハヤテのいる山小屋。


結:……という事情があって。

ハヤテ:獣じゃなければ、おおかた、餡音じゃないのか?腹が減って食べたとか。

結:いや、そんな、玄米ですよ?そのまま食べられるものではないと思いますが……。

ハヤテ:すまん、冗談だ。餡音のつまみ食いでないとすると……ナルカミを使ってしばらく監視してみよう。

結:お願いします。


====


夜。

ナルカミは備蓄庫の前で目を光らせている。

倉庫の前で、黒い人影が動いた。


ナルカミ:ピィィィ!


ナルカミの声を聞き、結が駆けつける。

そこにいたのは……餡音だった。


結:こんな時間に、こんなところで何を?

餡音:へっ!? いや、なんか眠れないから奥の書物庫で勉強しようと思ったんだけど……なに!?

結:……そうですか。よく、わかりました。(スッと消える)

餡音:……え、なに?夜の結、こわっ!!


====


翌朝、ハヤテに報告をする結。


ハヤテ:それは明らかに餡音が怪しいな。あいつが真夜中に勉強するなんて考えにくいが……。

結:とはいえ、目立った証拠もないんですよね……。

ハヤテ:というか、直接聞いてみればいいんじゃないか?令と結の前なら、嘘も付けないだろう。


====


影縫いの術の修行中の餡音。声をかける結。


結:餡音、ちょっといい?昨晩のことで聞きたいことがあるんだけど。

餡音:え、なに、昨日からマジで怖いんだけど!?

結:令の部屋までついて来て。

餡音:ぼ、ボスの呼び出しっスカ!? お団子食べてからでもいい!?


====


令と結の前で、正座をして構える餡音。


令:……単刀直入に聞くけど、あなた、備蓄庫の玄米を勝手に食べてない?

餡音:……へっ!? なんですかその話!?

令:(目をじっと見て)……そう、違うのね。

餡音:いくらなんでも玄米は食べませんって!お腹壊しますよ!というか、私先週まで甲賀で修行してたじゃないですか!

結:そう言われてみれば……。備蓄が減り始めたときに、餡音はいませんでしたね。

餡音:ほ〜ら〜!私にはアリバイがある!

令:そうね。考えてみれば、あなたはお米の炊き方なんて知らないものね。

餡音:そうそう!私には、お米なんてちっとも炊けません!

結:たしかに、考えてみれば、餡音は食べることしかできませんよね。

餡音:そうそう!考えてみれば、私には、食べることしかできません!って、なんで私、突然呼び出されてボコボコに!?

結:お詫びに、このお団子を。

餡音:オッケー★


====


餡音は退出し、部屋には令と結が残る。


令:……餡音が無実だとすると……。

結:振り出しに戻りましたね。

ナルカミ:ピィィィ!!

令:ナルカミが鳴いてるわ。どうしたのかしら?


ナルカミの後ろを小さな鷹が飛んでいる。


結:あれは、ナルカミに……子どもが?


ハヤテが申し訳無さそうに入室する。


ハヤテ:……すまん、ふたりとも。結論からいうと、備蓄庫の件の犯人はナルカミだ。

結:冬になって子どもの餌が足りなくて、里の食料を分けていたということ?

ハヤテ:話が早くて助かる。ナルカミに悪気があったわけじゃないんだ。ほんとうにすまない。


餡音が入ってくる。


餡音:ガラッ!! 話は聞いたわッ!!

ハヤテ:餡音も、あらぬ疑いをかけてすまなかった。

餡音:いいってことよ!モウマンタイよ!ナルカミがパパになるなんて、めでたいじゃない!


ナルカミ&子鷹がハヤテの肩に止まる。


令:かわいいわね。この子たち餌は、里のほうで多めに確保しておきましょう。

ハヤテ:すまない、助かる。

餡音:これにて、一件落着!今回は私じゃないんだからね!

結:え……「今回は」?

餡音:……!?(ハッとした顔)

令:……(じっと見る)

餡音:……お、置いてあったお煎餅なんて、し、知らないよ?

結:なぜ「お煎餅」がなくなったことを知っているの?

令:……(じっと見る)

餡音:……


(二羽の鷹が空高く飛んでいる)


【終】

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