あなたはあなたの幸せを見つめて。あなたはそんな場所に縛られないで。幸せになってね。

第1話 謎の死

門奈もんなかれん。十八歳。自分の命を捨てました。




夏休みが終わった九月一日、いつまでも起きてこないかれんを心配して、母親がかれんの部屋に入ると、


「かれん!かれん!お父さん!かれんが…!かれんが!!!」

悲鳴をあげる母親。

突然大声で呼ばれた父親が部屋の扉を全開きすると、かれんは首をつって死んでいた。



かれんは優しくて、責任感があって、いつも笑って、勉強だって出来て…。

何故、死を選んだのか…それは誰にも解らなかった。



すぐには気づかなかったが、かれんの机の上に、遺書があった。



『ごめんね。お父さん、お母さん。私、天使になるから、死なないよ。ちょっと遠くへ行くだけ。行ってきます』



泣き崩れる二人。

「かれん…どうして…」



葬式にはクラスメイトが全員参列し、みんな悲しみに包まれていた。男子も女子も、泣いてない人は誰もいなかった。




麗奈れいなちゃん、かれん、悩んでる様子なかった?」

「…うぅ…ごめんね。おばさん、私全気付いてあげられなかった…ごめんなさい」

「そう…なら良いの。今日は来てくれてありがとね」


野中のなか麗奈はかれんの幼馴染だった。


「あ、もう一つだけ。あの子の遺書に、『天使になるから、死なないよ。ちょっと遠くへ行くだけ。行ってきます』って書いてあったんだけど、天使とか死なないとかよくわからない遺書でね。あの子、まだ生きてるんじゃ…」

母の千尋は動揺を何日も何日も鎮まらせることが出来ず、誰彼構わず聴いて回っていた。

「やめないか!千尋ちひろ!そんなはずがないだろう。只の比喩だ。もうかれんは死んだんだ!」


父親、一成かずなりは、かれんの死と、壊れてしまった千尋と、自分自身の糸も、もう切れてしまいそうだった。


風間かざま君、あの子、最近どんな様子だった?何か変わったところとかなかった?」

「何だろう…?なんでかな?俺何かしたかな?俺のせいかな?なんで…なんで…」

風間は昨年からかれんと付き合っていた。

「ごめんね、あなたは悪くないわ。あの子、死ぬ前日まであなたからの電話、待ってたのよ?あなたは、きっとかれんの支えだったと思うわ」

「すみません…お母さん…本当にすみませ…」

風間は、息も絶え絶えに、かれんの母親、千尋に謝った。



そして、かれんの死は、謎だけを残して、過ぎ去った。




【なんでなの?かれん…】




それが誰にも解らなかった。

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