お前なんなん?
白米おしょう
第1話 漏れそうやねん!!
--お父さん、お母さん、お元気ですか?
高校生になってこっち来て、ウチは元気にやっとります。
慣れない土地で右往左往やけど、とりあえず元気です。
……せやけど。
せやけど、ウチは今人生最大のピンチです。
「勝手に喋ってんじゃねーっ!!ぶっ殺すぞ!?」
ざわめく銀行内でけたたましく鳴り響く銃声。怒号。
その音に人質の皆さんは余計にパニックになっとる。続く散弾銃の銃声が、そんな悲鳴やらなんやらを黙らせた。
両手を後ろで縛られたウチらは窓口前のロビーに並んで座らされみんな青い顔して破裂しそうな心臓を何とか抑えよる。
……あかん。あかんで。
お父さん、お母さん……
うちは元気です。元気やけど……人生最大のピンチやねん。
*******************
やかましいくも愛おしい地元から桜のよー咲くこの街に越してきてまだ3日。
高校の入学式も終わた4月の午後、金下ろそ思て立ち寄った銀行で……
ウチは銀行強盗に巻き込まれてしもた。
顔も隠さんと血走った目ん玉ギョロギョロさせよる3人の男。その手にはおっきな散弾銃……
迂闊やった……
ATM人ぎょーさん居ったし、額も額やけ窓口で下ろそ思てロビーに入った瞬間、おっきな音した思たら天井に穴が開きよった。
状況飲み込めんで固まっとる内にあっという間に持ちもん取られて縛られてしもた。
当然、ロビーのシャッターは直ぐに閉めよるし、銀行入って5分もせんうちに人質にされてしもた。
こんなことなら大人しくATM並んどったら良かったわ。
金寄越せ喚き散らす強盗団は、ちんたらしよった行員1人撃ってもうとる。これはいかん。こいつら正気じゃあれへん。
幸い行員さんは肩撃たれて血ぃ流しとるけど生きとる。
蹲る行員さんがまた人質の不安と恐怖を掻き立てる。
……あかん。腹痛い。
嫌な鈍痛が腹の底で暴れよる。あかんで……嫌な汗吹き出してきおった。
外では野次馬、それに警察の声……ぎょーさん集まってきよった。
人質居ったら警察も入れんやろ……硬直状態っちゅうやつや……
あかん……腹痛い。
このままやったらウチはどないなんるんやろか?
……あかん。
人生初の人質経験で、人生最大のピンチや。
……あかん、腹痛い。
漏れそう。
*******************
絶賛人生最大のピンチ(たまたま立ち寄った銀行で銀行強盗に巻き込まれたタイミングでおっきい方を催してしもた)の真っ最中。
既にウ〇コさんがこんにちはしそうな気配…このままやったらホンマにあかん。社会的に死ぬ。
地元離れて誰もウチを知らん土地で、花々しい高校デビューを飾るはずが、こんなとこでウ〇コ漏らしたとかなったら、高校デビューどころやないで!
見える……今日の夕刊にでも『銀行強盗人質、ウ〇コ漏らす』ってでかでか書かれとる未来が……1面トップや!
こんな狭い田舎町…噂は直ぐに広まるで……明日登校したら「あの子ってあれよね?昨日銀行でウ〇コ漏らした…」って影で笑われる!!
いや……悲観的になったらあかん。こんな時こそ精神を強く保たな……
ウチは無事にこの銀行を出て、向かいのコンビニで優雅に用を足すんや……それまで何がなんでも耐えなあかん!今にも産まれそうなこの昨日の夕飯の残りカスをっ!!
……あぁ無理や。今にも出そう……
額を伝う脂汗が限界を告げとる。肛門が「もう無理だよー」って言うとる。
警察は何しとんのやっ!ウチらの税金で飯食っといてこのザマはなんや!はよ何とかせんかいっ!このままやったら大惨事やぞ?
仕方ない、警察は当てにならん。ウチが何とかするしかないわ。
いつまで続くかも分からんこの状況…悠長に構えとったら爆発してまう。銀行を出てトイレに行くのは諦める。
そうや……銀行にだってトイレくらいある。
問題はどうやって行くかやが……
すんませーん。ちょっとトイレ行っていいやろか?
……あかん。言えへん。こんな衆人監視の中。
ウチは知っとる…人間の醜さを。
思えばあの時も似たような状況やった……小学5年の夏。
授業中にどーっしてもトイレが我慢出来んで恥を忍んでトイレに行ったんや……
……次の日からあだ名が『楠畑うん子』になった。
繰り返したらあかん。
花の女子高生がウ〇コ行っていいですか?なんて、口が裂けても言ったらあかんのや!!もし言おうものなら次から銀行に来る度にロビーで『○○番でお待ちのうん子様ー』って言われる!言われてまう!!
……それにあれや、銃持った犯人に声かけるとか怖いわ。
……いや、ウチ1人がウ〇コしとるけん目立つんや。
長期戦になったら人質の中にも催すやつがおるかもわからん。そいつと一緒に……
……あかんっ!いつ来るか分からんタイミングを待つ余裕はない!
というか誰もトイレ行きたくないんか?緊張で腹下すやつが1人くらい居ってもおかしないやろ?
……いや冷静になれ。パニックになっとる。
ここでおろしたてのパンツを茶色に染めるのと、鉛玉食らう覚悟でトイレに行きたいと申し出るの……
ここは恥を忍んでトイレに行かせてもらうべきや。
せや!手を縛ったままじゃウ〇コは出来へん!自由になったら逃げるチャンスもできるかも知れへんやん!
--ぐるるるるるぎゅるるるるるっごぽっ!!
「うっ!?」
あかんあかん。いらん事考えるな。
このウ〇コを出産することだけ考えるんや。ウチが逃げ出したりしたら残りの人質がどうなるか分からへんやんっ!
それにしてももう限界や…出てまう……
もう頭が出てきよる!新品パンティーとキスしかけとる!!もう一刻の猶予も--
ぶっ!!
「っ!?」
「ん?」
突如横で炸裂する破裂音。犯人たちもその小さな超新星爆発に反応しよった。
素早く向く銃口。走る緊張。漂う臭い……
くっさ!!?誰やこんな時に屁こいたの!?
「おい、誰だ?」
「……あ、すんません。出ちゃいました」
隣で名乗り出る男……3つの銃口が少年の額に突きつけられる。やばい。傍目から見たらやばい光景。
てか屁こいたくらいでどんだけ殺気立つねん。やっぱ正気じゃあらへん。
「くせぇよ」
「あ…すみません。気をつけます」
「次出したら頭吹っ飛ばすぞ!!」
殺気立った男たちの視線がシャッターの方に向く。やばいやばい、冷や汗もんやでホンマ。隣でぶっぱなされでもしたら驚いてこっちも出てまう。
誰や!こんな時に呑気に屁こいとる馬鹿は!!
ウチの怒りを孕んだ視線がそいつを睨む。
青瓢簞みたいな活気のない肌色の男。歳は……まだ10代か?
目元にまでかかるくらいの長い前髪。真っ黒や。地味ーな見た目しとる。この緊急事態にも眠たそうな目をしてぼーっと前を見とる。
町ですれ違っても1秒後には忘れてそうなあんちゃんやけど……あれ?よー見たらタイプ……
…ってウチの生徒やないかーいっ!!
白いブレザーとネクタイに黒いワイシャツ。ウチの高校の制服や。
まさか隣に学友が居ったとは驚きや。肛門に気ぃ取られすぎて気づかんかった。
……てか臭い。くさっ!
まだ漂う屁の臭いにウチをはじめ周りの人質達が顔を顰めて少し距離を取る。ただでさええらい事態やのになにかましてくれとんねん!!
てかホント臭い。何食ったらそんな臭いの屁が出るんや?
「……ん?」
ウチの視線に気づいた少年がこっち見た。見すぎた。
「何か?」
「いやなんでも……あるわ!お宅屁臭すぎやろ。びっくりしてもうたわ!」
「ペラペラ喋ってんじゃねぇっ!!ぶっ殺されてーのか!!」
……あかん。
ウチらがパッと顔を伏せてやり過ごしたら犯人たちもすぐに視線を外した。
それが悪手。
顔を伏せるのと合わせて上半身を若干下げた。腹が曲がる。腸にパンパンに詰まっとる我が子がその動きに少し下に押し出された。
……あ、あかん。
ホンマにあかん。下手に動いたもんやけん、余計に下に降りてきてもうた……っ!
大ピンチや!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます