第39話


 ボルグの目の前に向かってきたのは、何者から慌てながら逃げるミスティア達、奥の方では複数人の冒険者や山賊達が何か叫びながら追いかけていた。


「待てコラァアア!! 懸賞金の為に捕まりやがれ!!」

「嫌ですううううううう!!」


 どうやらゼイゴンの報酬を受け取るべく、フラムを捕らえようと追いかけていたのだが、ボルグはそんな話を全く知る由もなく、棒立ちのまま疑問視していた。


「あーーーっ!!」


 そのままボルグの家を通り過ぎようとしたミスティアは、置いてあった水バケツに足を引っかけ、ゴロゴロと転がり……。


 ドーンッ!!

 家の柵に激突し、クラクラと目を回す。


「お、おまっ……俺の家の柵に何してくれてんだよ!!」


 怒るボルグは無視してサーシャとフラムはミスティアの怪我の確認をした。


「だ、大丈夫、ミスティア?」

「タンコブが出来たぐらいッスね、しっかしここまで街の人達が金の為に追ってくるとは思わなかったッス」


 サーシャとフラムがミスティアの心配をしながら、何度も無視するなと叫ぶボルグ、フラムはようやくその存在に気付くと。


「誰ッスか」

「んなっ……!!」


 あっさりとぶった切られ、ボルグはフラムの視線の先へと外された、辺りを見渡し、ここは小さな牧場である事を理解すると、サーシャとフラムの2人はこれしかないと言わんばかりに息ぴったりに頷くと、すぐに3頭の馬のうちの1頭に近寄った。


「お、おいなんだお前ら!?」


 サーシャとフラムは馬を使う事により、捕まえようとしてくる追っ手を振り切れるのではないかと考えた。





「ちょっとこれ借りるッスね、支払いはアプロって人がするッス」

「ま……待て!!」


 フラムは馬の背中に盗むようにまたがると、サーシャは気絶したミスティアを一旦乗せ、一番後ろにまたがっては手綱を軽く引っ張った。


「お、おいジョセフィーヌ!! ジョセフィーヌーッ!!」


 ジョセフィーヌと名付けられた馬は3人を乗せ、軽快にどこかへ行ってしまう……ポカーンとした顔でアプロという言葉だけを鮮明に思い浮かべたボルグは。


「あ、アプロ……許さねえ……!! 今度会ったらアイツの顔に大量のツバ付けてぶん殴って……ん?」

「「おい邪魔だ、どけええええ!!!!」」

「な……なんだああああ!?」


 ミスティアが壊した柵をさらに破壊し、大勢でドタドタと走ってきた山賊と冒険者達にボルグは何度も足蹴りされ、しばらくするとピクピクと手を動かした後に気絶した。


「な、なんなんだよ、い、一体……」



 ――。

 ――――。



 馬を使い、無事追っ手を振り切れたフラム達は街の外へと逃げていた、そのまま森を抜けて完成途中の家の前に来ると、フラムは馬を止める。


「よっと……。ここまで逃げればひとまずは大丈夫ッスね」


 ここなら辺りも見渡す事もでき、また何かあった時に馬で逃げれるという理由も含め、フラムはしばらく留まろうとした、サーシャはスタッと降り、兜を取ろうとした素振りをしたがフラムの家に忘れてきた事に気付く。


「兜、もういらねーんじゃねッスか」

「そう、かな?」

「元が可愛いからそっちのがいいッスよ」


 その一言にドキッとしてから顔をペタペタと触ってサーシャは「ありがとう」と伝え、それを見たフラムはサーシャの姉御は天然なんッスねと心の中で思っていた。


「これからどうするッス?」


 その時、馬はスキを見て前足を大きくあげてから逃走してしまった、当然乗ったままのミスティアはぼよん、ぼよんとロデオのように跳ねてしまい、反動で高く宙を舞うと、地面に複数回頭をぶつけながらゴロゴロと回る。


「い、痛いですううううううう!!」


 大量の草が服に付着して目を覚ましたミスティアに、サーシャとフラムの2人は少し笑ってから、状況を説明した。


「み、ミスティアがぶつかったのが人の家の柵で、そ、そこから馬を使って、こ、ここまで逃げてきた」

「ふええ……」


 遠くへと消えていく馬を3人は見て、フラムは落としていた帽子を被り直しある提案をする。


「ここまで追われてるならもう、ゼイゴンの屋敷に向かって何とかするしかないッス、私がもらった情報通りならアプロの兄貴もそこに捕らわれているはずッス」

「アプロさんを助けるって事ですね、それだったら早くしないと!!」

「まあ待つッス」

「でも、早くしないと死んじゃいますよお!!」


 慌てたミスティアはフラムの身体を揺すって事を急かそうとするが、冷静なフラムは魔法障壁の事について話した。


「入り口にはどんな魔法でも探知できない結界が張られていて、場所もわからないし魔力の弱い者が簡単に入れるとは思えないッス」

「そんな……」


 魔法が使えないサーシャはもちろんの事、今のミスティアの魔力では結界を壊す事は出来ないとフラムは断言する、どうしたものかと考え込むフラムとサーシャだったが。


「私……行きます、フラムさん! 案内してください!!」


 こうしている間にもアプロの身が危うい、ミスティアは理屈もなくただ救いたいという一心でフラムに頼んだ。


「む、無茶ッスよみすてぃー、気持ちはわかるッスけど」


 引く気の無いミスティアに、なだめるようにサーシャは尋ねた。


「ミスティア、一旦落ち着こう、良い策は必ずある、よ」

「で、でも!! ほっとけないですう!!」


 ミスティアは先ほどのフラムのようにサーシャの身体も揺すった、すると1枚のカードが懐から落ち、拾い上げてみると……。


「こ、これアプロさんのパーティカードです!!」


 なんとアプロのパーティカードだった、どうしてそのカードをサーシャが持っているのか2人は尋ねると、本人もなぜ懐に入っていたのかはわかっておらず、首を傾げる。


「あ、アプロ、エディルに連れて行かれた時、不思議な事を言ってた……」


 解散するならアプロは動く、そのままなら黙ってみんなに任せるよという言葉の意味、それをうーんと3人は考えてみたところ、フラムが先に閃いた。


「わかったッス、このカードで解散を行えばアプロの兄貴が動いて、そのままなら任せるという意味じゃねーッスかね?」

「ふ、フラム、天才」


 多分そうだろうとフラムが思うと、2人もそれらしい理由にコクリと頷いた。


「問題はその判断ッスけど……うーんあの人に頼るしかないッスね」

「「あ、あの人?」」


 誰だかわからずキョトンとするサーシャとミスティア、しかしこの策は最後の手段で、気が進まないといった顔でとある場所へと足を進めたフラム。



 その人物とは――。

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