第27話
「おら、お前らさっさと歩け!!」
命令口調で喋るエディルの要求は厳しく、こっちの道は岩が多くて歩き辛いと言ったり、道中出てくる魔物はお前ら任せるなど傍若無人だった、サーシャとアプロの2人は徐々に不満そうな顔を浮かべ、洞窟の中を歩きながら。
「なあもう帰っていいか? 面倒くさくなってきた」
サーシャに小さい声でパーティへの不満を漏らすアプロ。
「え、り、リッカ先生、不合格だったらか、悲しむと思う」
「そうだけど……」
なんでこうクジ運が悪いのかと、がっくしとアプロがため息を吐くと後ろを歩いていたエディルは自分の悪口でも言われたと勘違いし、ピクリと反応して顔をジロリと見る。
「……ん? 待てよお前! ひょっとして施設で噂されてた落ちこぼれアフロってヤツか!?」
「ちょっと待てそんな風に呼ばれてたのか俺、アプロだ、アフロじゃない」
「どんな奴かわからなかったが、話だけは聞いてたぜ、なんでも簡単な術式すら覚えられない能なし野郎って言われてるそうじゃないか」
「俺は直接言われた事はないけど、そうなんだな」
エディルは声高らかに笑った。
「ははは! その間抜けっぷり、噂通りの能なしじゃないか!!」
「なんだと?」
その言葉が引き金となり、怒りを抱えたアプロは1発殴ってやろうとエディルに近寄るが――。
「火柱よ、ここにそびえ立て!! フレイム・ピラー!!」
魔物との戦闘にほぼ参加していないエディルの魔力は十分だった、アプロの攻撃をカウンターのように待ち構えられてしまい、放った火球は勢いよく身体にぶつかり、ゴロゴロと後ろに吹き飛ばされてしまう。
「アプロ!!」
「これでわかっただろ? 天才と凡人の差がよ、お前がここまでの戦いで魔力を残していたとしても、俺には勝つことは出来ない!!」
親指をピッと自分に向けて高らかに勝利宣言するエディル、対してアプロは服の汚れを払い、心配して近寄ったサーシャに大丈夫と伝えると。
「……勝つとか負けるとか、冒険者に必要なのはそうじゃないだろ」
「なに!?」
「お前には一生わからないだろ、どうして3人パーティを組んでいるのか考えた事あるのか?」
「どういう意味だよ!!」
食い気味にエディルは強い言葉を放った。
「この試験の様子は水晶玉によって映されてる、エディル、それじゃ一生冒険者にはなれないと思うぞ」
「……ふ、ふん! 弱者らしい言い訳だな!! まあいい、今の力の差がわかったら大人しくしてるんだな!!」
こんな使えない奴でも3人でゴールしなければ意味がない、そう思いエディルは治癒魔法をアプロにかけ、再び2人の前を歩かせるように命令する。
「サーシャ、そっちの道は危ない」
「あ、ありが、とう」
……洞窟を上へ上へと登っていきながら、お互い助け合って道中の魔物と戦うサーシャとアプロ。
「まか、せて!!」
「ありがとなサーシャ!」
力のないアプロは注意深く観察を怠らずに魔物に対して的確な指示を行い、ほどほどの力を持っていたサーシャはしっかりと盾の役目を演じアプロを守りながら戦う。
2人だけで見ればとても良いパーティで、見ていた複数人の試験官はスラスラとメモに書き込んでいく。
(なるほど……言うだけの事はしっかりとしてるじゃないかアプロ)
それを見ていたリッカはフフッと口元を緩ませる。
「みんな、見て」
目についたのは足下の岩を削って作られた人工の道、この道は外へと繋がっている為、時々髪が靡くほどの強い風が発生していた。
サーシャは出口は近いと感じ、強い光が差し込む方へと出ると、エディルが驚きの声をあげた。
「おい……なんだこりゃ!!」
「す、ごい」
洞窟の外へと出ると、転落しないように作られたボロボロの木の柵が周りを囲み、その先には遙か彼方まで広がる無限の大地が続く……見晴らしの良い眺めに驚いた3人はその絶景にしばらく言葉を奪われていた。
下を見れば森がどこまでも続いており、上には一面の空模様、誰も吸った事のないように感じた空気は、いつもの街に住んでいる時より新鮮にアプロは感じる。
「あれって俺達の住んでる街か、随分登ってきたんだな」
自分たちの住んでいた街はポツンと小さくなってしまい、サーシャはその場に座り込み、お弁当を食べようと袋を広げる。
「あ、アプロくん、これ、みんなの分、作ってきた、んだ」
「凄いなサーシャ、景色も良いし、ここで小休憩するか」
のんびりと景色を眺めながら食事をしようと座り込む2人を見て、急かすかのようにエディルは大声をあげた。
「お前らバカかよ!! 先にゴールした方が評価が上がるに決まってんだろ!!」
ええ、と面倒くさい顔でアプロは言う。
「そんな保証も説明もなかっただろ、前線を張ってたサーシャの疲れもあるし、ここはのんびりしていこうぜ」
「俺がリーダーだから俺の指示に従うのは当たり前だろうが!!」
「……わかったよ、リーダー。サーシャ悪い、一口だけもらうぞ」
やれやれと仕方ない態度をアプロは見せると、サーシャが作ってくれた料理の一口だけ頂く事にした。
「ど、どう……?」
「ん、ああ、うん、おいしいな」
見た目とは違って予想以上のまずさにアプロは一瞬顔が引きつったが、すぐにアプロは微笑むと、せっかくだからとエディルがパクッと頂く、すると。
「うおおおおおっ、なんだこのまずさは!! お前ちゃんと味見したのか!?」
「し、したけど……」
「これは食えたもんじゃないぞ、荷物の邪魔となる、さっさと捨ててしまえ!!」
ペッペッと作った料理を吐き出し、釘を刺すように忠告するエディルを見て、アプロは「気にするな、俺は美味かった」とサーシャをフォローした。
「あ、アプロくん……」
「また作ってくれよ、楽しみにしてる」
「う……うん!」
サーシャの沈んでいた表情が変わり安心したアプロ、休憩も終わるとエディルは立てかけられていた看板へと興味が移り、じっくりと書かれている事について凝視した。
「なになに……。この先に山頂だってよ、おいおい俺達が一番か!? お前ら早くあの橋を渡るぞ!!」
看板の先には取り付けられた2本のロープの橋だが……木の板は数枚抜けており、今にも足をかければ崩れてしまいそうだった。
ミシッ。
ミシッ。
好奇心に満ちあふれていたエディルは警戒を一切せず、駆け足で橋を渡ってしまう、さらにミシミシと鳴るが何とか渡りきりアプロ達を手招きする。
「全然大丈夫だぜ!! さっさとリーダーについてこい庶民ども!!」
リーダーとしてエディルは信頼にするに値せず、どうしようかとアプロを見て確認するサーシャ、その表情は疑問符を浮かべたように頭を傾げていた。
「なあ、おかしいと思わないか?」
「え?」
「他のパーティが見当たらないのが気になってさ、頂上で試験を終えたのなら折り返しで会っていてもおかしくないよな?」
「たし、かに」
「俺達は別に一番でスタートした訳じゃない……ならここは、正しい道じゃないんじゃないか?」
2人の会話がよく聞こえなかったエディルはピョンピョンと跳ね、橋を渡るよう催促する。
「早く来い!! リーダー命令だぞ!!」
逆らうのも面倒になったアプロは「サーシャ、まず俺が確認する」と呆れた顔で橋を渡ると、これも渡り切れてしまった、続くサーシャは下を見て怯えながら、アプロやエディルよりゆっくりと渡ろうとする。
「あ、アプロくん、ちょっと、こ、こわい!」
「サーシャ、危なかったらここで待っててもいいぞ」
そんな事したら俺達が合格にならないだろとエディルが叫び、アプロは睨み付けて言う。
「お前、1人で冒険した方が似合うぞ」
「合格したらそのつもりさ、お前らが足を引っ張ってるんだろうが!!」
そろそろ本気で怒るぞとアプロが言いかけたその時……。
ベキッ。
「きゃっ……!!」
乾いた音がしたと同時に、サーシャが足にかけた板が真っ二つになった、無意識に手を伸ばしたサーシャは奇跡的に他の床板に捕まり、窮地を脱するが重みを感じた2本で繋がれていたロープの1本は切れてしまい、橋は半壊してしまう。
「サーシャ!!」
大声でサーシャの危機を心配するアプロ、エディルの方に渡りきるしか方法がなく、真っ二つに壊れたまま、橋の断片にしがみついていたサーシャは、アプロ達のいる壁の方へと叩きつけられながらも片腕で落ちないよう自分の身体を支える。
それでも尚、危険な状態である事には変わらず、サーシャの命を支えていたロープの1本が、今にもブチブチと音を立てて切れかかろうとしていた。
(ダメ……もう、力が……)
苦しそうに上を見上げると、真剣な表情で覗き込むアプロの姿が映った。
「安心しろサーシャ、俺はお前を……見捨てない!!」
リッカに言った強く絆で結ばれたパーティを作ってみたい、その言葉に嘘はなくアプロは仲間を見捨ててるつもりはなかった。
例え、自分の命が失ったとしても。
「間に合え……間に合え!!」
迅速な判断が求められる中、やることは1つと言わんばかりにアプロの行動は冷静沈着だった、橋から完全に外れていた力なく垂れるもう片方のロープを、腰に備えていたナイフで切り落とす。
その場にいたエディルは理解が出来ず、アプロに強い言葉で問い詰めた。
「お前、何してんだよ!!」
「飛ぶんだよ……こっから!!」
「な、なに!? そんな事して2人とも落ちたら合格にならないだろうが!!」
「合格合格って、エディル、お前はそれしか見えてねえのかよ!!」
「なんだと!?」
「いいから、これを岩にくくりつけてくれ!! 俺に考えがある!!」
「……くっ!」
3人が結果的にゴールに着くなら仕方ない、そう言った態度でエディルはロープを持ち、一方でアプロはグルグルと腰辺りに巻き付けキッチリと縛る。
「これからどうするんだよ!?」
言われたとおりしたエディルを見て、アプロは恐怖を勇気で克服する為に強がった顔でニヤリとした。
「飛ぶんだよ……ここから!!」
「は、はあ!?」
「うおおおおおおお!!!」
「お、おいアプロ!!」
一気に襲ってきた恐怖に打ち勝つ為か、咆哮をあげながらアプロは絶望的な状況にいたサーシャを助ける為に、自身の命を投げ捨て崖から飛び降りた。
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