第10話
◇ ◇ ◇
窓からの日差しを浴び、大きなあくびをして眠りから覚めたアプロはゆっくりと目を開ける。
「よく寝た……」
上半身を起こし、大きく伸びをしてベッドから下り、側にかけてあった剣と装備を身につけ、廊下に出ると、隣の部屋のドアを眠そうな目でコンコンとノックした。
「ミスティア……あれ?」
しかし、ノックしてもミスティアからの返事はこない、どうしたんだと思ったアプロは再度ドアを叩いたが返事はなく、腕を組んでうーんと一声あげると、何やら1階の方でザワザワと騒ぎ声が聞こえてきた。
「俺のパーティメンバーが朝起きたらいないんだ!」
「うちもそうよ! 連絡もなく消えてしまったの!!」
何か異様な事が起きていると感じたアプロは、廊下に取り付けられていた手すりから身を乗り出しロビー全体を見た、すると受付の方で大勢の冒険者が集まっており、全員困った顔で先ほど言っていた抗議をギルド職員達に続けて訴えている。
「うーん困ったッスね……」
その輪の中心で困りながら対応していたフラムが目に映ったアプロ、こっちこっちと手招きされ、アプロは急いで階段を下りてフラムが視認出来る位置まで近寄った。
「どうしたんだフラム? なんか凄い騒いでたけど、喧嘩か?」
アプロは人混みをかき分け、やっとの事で受付までたどり着いてから尋ねた。
「違うッス、大変なんスよ、どこのパーティも行方不明って報告ばっかりで……」
「行方不明?」
「そッス、どうやら早朝の間に事件が起きたらしくて」
「んん?」
そういえばミスティアも朝、何か叫んでいたなとアプロは記憶の糸を辿った。
「ミスティアを見なかったか?」
「いないんスか?」
「ああ、なんかフルーツがどうとか言ってたが……」
まさか、とアプロは徐々に表情を険しくする。
「……合鍵を貸してくれ!!」
慌ててフラムは懐を探り、すぐにアプロに予備の鍵を手渡すと、2人は慌てて階段をかけ上りミスティアが寝ていた部屋のドアを開けた……が、そこにミスティアの姿はいなかった。
「くそ!!」
誰かに連れ去られた後なのか、拳を握って悔しがるアプロは怒りに身を任せて壁を叩くと。
「あっ」
壁の一辺は完全に崩れ落ちてしまい、人が通り抜け出来るほどの大穴が生まれてしまった。
「これ、ロザリーさんが知ったらめっちゃ怒るッスよ?」
隣にいたフラムは冷静な顔で伝える。
「悪い……軽く叩いたつもりだったんだが……」
「ほんとに、これすんごい怒られるッスよ」
「ほら、風通しよくなったし、ここだけ大部屋って事で誤魔化せないか?」
「通せねえッスよ、まあそんなどうでもいい事よりアプロの兄貴」
「どうでもいいのか」
意外と問題を深掘りせず、フラムは現状起きている『各パーティのメンバーがいない』事について1つの仮説を立てた。
「この事件、魔物じゃなくて人間が起こした事かもしれないッス」
「どうしてだ?」
「街の入り口は兵士達が毎日見張ってるんスから、基本的に街の中に魔物が来るはずないとして、あるとしたら人間の仕業じゃねーッスか?」
アプロは腕を組んで考え込む。
「……確かに、でもそいつらは何の目的があって冒険者を連れ去ったんだ?」
「それはもう簡単ッスよ」
「ほう」
しばらく間を空け、フラムは答えた。
「わかんないッス」
「だよな」
何となくそんな気がしていたアプロはあっさりと答え、部屋の中で2人が本当の犯人の目的について立ったまま悩んでいると――。
「……なっ、なんだいこれは!!」
膝をペタンと床につけ、アプロが壊してしまった大穴を見てロザリーは信じられないと言った顔で2人を見つめた。
「あ、ロザリーさん、こっちがやらかした犯人ッス」
「おい!!」
あっさりとフラムはアプロを指差し、コイツがやりましたと見捨ててしまう、それを聞いたロザリーは怒りに怒りを重ねてアプロの襟を掴みかかり、ぶんぶんと手前と奥に振って詰め寄った。
「アンタこ、これ!! どうするんだい!?」
「お、大部屋になったし、身体のデカい客はここに泊めたらいいんじゃないか?」
「何を言ってるんだい!!」
「わ、わかった悪かったロザリーさん、まず俺の話を聞いてくれ」
そう言われ、とりあえず掴んでいた手を離すロザリー。
「言い訳は聞かないよ!!」
「それよりもさ、ミスティアが行方不明なんだ!」
「ミスティアだかパスタだか知らないけど壁を壊した言い訳かい!?」
「違う、行方不明者が出ていま周りが大変なのは知ってるだろ?」
アプロの本気で困っている顔にロザリーは話だけ聞く事にした。
「ミスティアってのは……昨日アンタと一緒に泊まっていた子かい?」
「ああ」
コクリと頷くアプロ、ミスティアは一体どこへ消えてしまったのか、この場にいた全員が疑問に思い黙っていると、突如ドタドタと階段を登ってきた1人の男が声をかけた。
「おーい、ロザリーさーん! どうやら消えたみんなは、怪しい馬車について行ってしまったみたいなんだーっ!」
怪しい馬車、その単語が気になったアプロは詳しい話を聞くために男の元へと駆け寄った。
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