第6話
白いマントを靡かせ、上流階級とも言える高貴な服を着たその青年は鼻が高く、金髪のウルフカットが目立ち、女性にモテそうな高身長だった。
「ンだよ……団長じゃねェか」
「あらあ団長、今日も美しいわあ」
ルーヴェル、ヘランダと呼ばれた2人は構えていた武器を下ろし、片膝を跪いては尊敬の態度を向ける、それを見て『団長』は好き勝手に跳ねていた髪を指で軽くクルクルと触り――。
「良かったですよ、この剣を振らずに済みました」
手にかけていた鋭く、細長い両刃の剣の柄を離した。
「……それで、どちらが事の発端なんですか?」
先ほどまで閉じていた目が少し開く、その動作をした途端に辺りに沈黙の空気が訪れ、それが圧倒的な威圧感へと変わっていくと誰しもが口を噤んだ……そう、彼こそが999人の冒険者達を率いる、最強のパーティ『円卓の卓が無くなるほどもの凄い多い騎士団』略して円卓の騎士団『テスター』である。
「き、聞いてくれよ団長! 回復組が全然俺達の回復をしねえんだよ!!」
それでも納得のいかなかった黒髪の短髪男ルーヴェルは、威圧感に負けずテスターに抗議をする、はだけた胸は鋼のように鍛えられており、幾多の戦いで先頭を切って走っていたのか多くの傷跡が窺える。
「ちょっと待ってよ団長! 私達回復組の気持ちも汲んでほしいわあ」
両者とも意見を曲げず、今度は紫髪の魔法使いとんがり帽子のエナンを被ったヘランダがテスターに向け、前衛組に抱く不満をぶつけてくるが両方の意見にも引けないスジというものがあり、どう言えばいいのかと困り顔をするテスター。
「ねえ団長、詠唱も待たずに勝手に突っ込んでいく脳筋のバカ共が悪いわよね?」
ヘランダの容姿はミスティアと同じように耳は長かったが、肌だけは褐色で頬にホクロを1つつけていた、見せつけるように胸をぼよんと上下に揺らし色仕掛けをテスターに向けて行う、その谷間はハッキリと見えるほどV字に描かれた色気のある服。
そこから映し出される大きな桃2つは、見た者が目をそらせないほど魅力的だった。
「けっ、200歳近くのババアが団長に色気を使うとは、笑わせるゼ」
ルーヴェルのその一言に、とうとうカチンときたヘランダは先ほどまでゆったりとした話し方ではなく、激しい感情をぶつけた。
「なんですって!! ならいいわよ、あんた達前衛組は勝手に突っ込んで死ねば!?」
「おーそうさせてもらうぜ!! 地獄の底でテメェらを一生恨んでやるからよお! 寝てる時もきちんと出てきてやるからな!!」
「そんなもん聖魔法で追っ払ってやるわよ、べーーーっ!!」
舌を出して思い切り否定するヘランダ、その後ろにいた部下達も一緒に舌を出してルーヴェル達を刺激すると、今度は彼らが率いていた部下達も喧嘩を始めてしまった。
「そうだそうだ、回復の奴らが悪いだろうが!! 死んだらどうする!!」
「前衛が悪いでしょーが!! フロントを張る壁が回復役と離れてどーすんのよ!!」
2人の喧嘩からここまで発展してしまった事態に、テスターは頭を悩ませた。
「こ、困りましたね……今日の調査はここまでにしておきましょう。明日こそこのダンジョンを攻略しますよ」
「お前達回復役が離れるな!!」
「先走って行く前衛共が悪いのよ!!」
「……ふうーっ」
終わらない喧嘩に嫌気が差し、息を1つ吐くとテスターは目を少しだけ開かせ、鞘から剣を引き抜き一瞬で動作を終えた。
ゴロゴロゴロ……。
突風と同時に『発生していた』剣撃は勢いを止めず、そのまま洞窟の壁に激突すると大きな音を立てて一部の岩壁が崩れていた。
それほどまでに、テスターの剣速は閃光のように一瞬で終わっていた、いつ剣を振ったのかすらわからない者もその場におり、黙り込んだ全員は団長に注目する。
「そこまでにしませんか? 今日はここで”解散”と言ったんです」
テスターは再び目を閉じた、厚みを持った剣激は恐らく人に直撃していれば肉体がバラバラになっていたであろうという推測を全員が抱き、冷酷な目と屈託のないその表情にルーヴェルとヘランダを除く者達は怯えながらコクコクと頷くと、その場から1人ずつ立ち去っていく。
その後剣を鞘に収めたテスターは頭に手を当てやれやれという素振りをしていると、1人のテスターの部下が膝を地面につけ報告をした。
「すいません団長、いつもの最後尾の件なんですが」
「どうしました? ……まさかまた、数人ほど抜けましたか?」
「はい、それがその……ボルグというヒゲの生えた中年が、また新人に対して何か言ったそうです」
「ボルグ?」
テスターは聞き慣れない名前に記憶の糸を辿り始め、少ししてから「ああ」と言って思い出す。
「あの意識だけは無駄に高い冒険者ですか?」
「そうです、なんでもその男の前の方にいた冒険者達から話を聞くと、上半身裸で数人暴れていたとか……」
「なぜ上半身裸に?」
「わかりません」
時間を空けず兵士はハッキリと答えた。
「……しかし困りましたね、ダメージを少しでも減らしたいので常に999人を維持したいのですが」
「そもそもボルグは冒険者達から不評と聞いております、ここは思い切って追放しても宜しいのでは?」
テスターは考えた、ここでボルグも追放してしまえばまた新規のメンバーを1人獲得しなければいけなくなる、加えてこの近くは『カルロ』という街しかない、声をかけて冒険者を勧誘するにも、ここら一帯の冒険者達はほとんどパーティに入れてしまった。
テスターはどうしても現状のメンバーでさっさとダンジョンを攻略したい『理由』があり、早めに失ったメンバーを確保する方法を考える……。
(まったく、居ても居なくても変わらないクズ共が……。世界で有名なこのパーティに置いているだけでも感謝してほしいんですがね、仕方ありませんがあの方に相談してみますか……)
一瞬眉を歪ませ、また元の冷静な顔に戻ったテスターは1つの提案を兵士に伝えた。
「ボルクは今、どこにいるんですか?」
「まだ外で待機していると思われます」
「なら、後で私から話があると伝えておいてください」
「はっ、畏まりました!」
(使いたくありませんでしたが……あの方からもらった洗脳薬の出番ですね)
さっきまでのにこやかな対応とはまた違い、目を細めニヤリと悪い顔を浮かべるテスターだった……。
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