第158話 リタからの手紙
ザイード家の所領だったクライス地方は我がガウディ家が所有する事になった。
我が軍の働きにより地域内の治安もほぼ回復しており、統治者が俺になってこの先どうなるのだろうという気持ちを持っていた住民達も、俺という人物を間近に見ていくうちに安堵して信頼の気持ちに変化していったようだ。
そしてクライス地方を手に入れた効果は俺にとっても大きいものだった。なぜならばこの地方は鉄鉱石を中心に鉱石の産地であったからだ。埋蔵量の多い金山から豊富な金を算出するゴドール地方。穀物や木綿、そして馬の大生産地で機織りや革加工の産業が盛んであるエルン地方。今回手に入れた広大な面積を持ち鉄鉱石などの鉱石を産出するクライス地方。
この三つの地方を俺は完全に支配する事になった。つまり、俺の治める地域だけでほぼ独立採算で運営していけるようになったのだ。コウトやサゴイの街があるアロイン地方の技術も既に吸収済みなので経済的にも大きな隙がなく盤石に近い体制になったと言えよう。
各地から続々と集まってくる人材や新たな人達のおかげで人口も増加の一途であり、優秀な将軍達のもとで精強な軍も日々拡大している。領主になってくれと請われて貧乏だったゴドール地方の領主に収まったあの頃に比べると隔世の感があるな。
「そうだ、忘れないうちにゴドールのグラベンの街に残っているリタやミリアムに手紙を書いて出しておくか」
「義兄さんはそういうところは本当にマメっすよね」
そう言ってくるのは義弟のロドリゴだ。この時間の執務室にはロドリゴとルネがおり、俺の仕事を手伝ってくれている。
「あのな、おまえにもリタやグラベンに残した彼女から手紙が来ているはずだぞ。ちゃんと返事を手紙に書いて出しておけよな。面倒臭がって怠るとグラベンに帰った時にリタから鉄拳が飛んでくるぞ。それに彼女に振られてもしらないぞ」
「大丈夫っすよ。僕だってそれくらいわかってますって」
グラベンの街を出てザイード軍を迎え撃ち、その流れでこのクライス地方に進軍した俺の率いるガウディ軍。大勝利によって見事にクライス地方を我が手に掴むという嬉しい結果になったが、今回もこの地域が安定するまでは暫くグラベンに帰れそうもない。
仕方がないとはいえ、レオやエマの養育は妻達に任せきりになってしまう。グラベンでの諸行事は俺の代行として内政官と共に顔を出さないといけないし、リタとミリアムの二人には何かと苦労をかけているからな。感謝の言葉を手紙に書いて二人を労っておくのも仕事のうちだ。勿論、向こうからも俺宛てに定期的に手紙を出してくる。そして、リタから届いた最新の手紙の中身がこれだ。
『エリオ、元気でやってるかい? ザイード家を倒した後もクライス地方を安定させないといけないから大変だね。こっちは相変わらず元気でやってるよ。ミリアムも私達の子供達も皆元気だよ。クライスから人質として送られてきた人達はエリオの指示通り丁重に扱っているからさ。すぐに打ち解けたんで降伏して新しくエリオの配下になった人達にも心配いらないと伝えておいてよ。愚弟のロドリゴはボロボロになるまでこき使っていいからね。あと、あたしとミリアムは話し合って同意してるので、女の肌が恋しくなったら我慢しなくていいからその時はルネにだけは手を出して抱いてもいいからね』
とまあ、こんな内容の手紙だ。リタやミリアム、そして子供達も元気そうでなによりだ。ブンツ達新規お抱え組の配下から人質として預かった家族達もグラベンに到着してリタ達と打ち解けたみたいだしな。
それと、お約束とはいえ相変わらず弟のロドリゴに対しては厳しい口ぶりだ。リタの要望通りにロドリゴには仕事をいっぱい与えてこき使ってやるつもりだ。ただ、最後に書かれている内容は妻たちからルネに手を出して抱いてもいいというお墨付きの言葉だけどさ…妻公認で手を出していいと言われてしまうと変に意識してしまうが、俺はルネに対して今はそこまでする気はないんだけどな。
「エリオ様。笑いながら困ってるような変な顔をしてますがどうしたんですか?」
「いや、何でもない。ルネは気にしなくていいから」
危ない危ない。俺の葛藤を当事者のルネ本人に見破られるところだった。確かにルネの俺に対する好きの気持ちは薄々感づいてはいたが、リタとミリアムという二人の妻の手前もあってなるべくそういう目で見ないようにしていたんだよな。妻達に堂々と手を出していいよと言われてもはいわかりましたという訳にもいかず正直困るんだが。
「義兄さん、もしかして姉貴からの手紙に何か特別な内容が書いてあったんじゃないすか? 隠してないで教えてくださいっすよ」
コイツ、相変わらず鋭いな。だけど、こんなの本人がいる前で言える訳がないだろうが。
「別に特別な内容じゃないさ。私達は元気でやってるからという内容と、人質として送ったブンツ達の家族達と打ち解けたという報告だ。それと、おまえを仕事でこき使ってくれというお願いだな。だからこれからロドリゴを散々こき使ってやるから覚悟しておけよ」
「うへぇ、僕が余計な事を言ったせいで藪を突いて蛇を出しちゃったみたいっすね。義兄さん、仕事はやりますけど程々にしてくださいっすよ」
「ハハ、仕方ないな。こき使うのは止めておくよ。でも、自分の分の仕事はきっちりとサボらないでやるんだぞ。わかったなロドリゴ」
「ういっす。義兄さんありがとうっす」
さて、リタからの手紙にどう返信しようかな…
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